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第三十九章

1274 何も怖くなどない

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( フラン )


< ナイト・カゲロウ >

体長20m越えの??型Sランクモンスター

巨大な一枚の紙の様にも見える異形型で、体には自身の目や鼻、口などの部位と、大量の剥き出しの臓器が無造作についている

両端からは6本の手が生えていて、見かけによらず強力な物理攻撃を繰り出してくる上、様々なデバフ攻撃や魔法なども打ってくる

魔法、物理攻撃に対し、高い耐性値をもち攻撃は通りづらいため、大人数による火力が必要

また全てのパーツは分離可能であり、不可視化することもできるため、属性の異なった大人数で戦う事が強く推奨されるモンスターである


( ユニーク個体名 ) 【 狭間の生き人 】


( モンスター資質 ) 【 夢幻生体 】




「 Sランク……。 」


「 うそ……。 」


「 大規模な部隊を組んでも沢山の犠牲者が出るのに……。 」


教員や生徒達からはザワッとした声が聞こえてきて、不安や恐怖が入り混じった感情が伝わってくる。

しかし今、私の中に浮かんでいるのは、不安でも恐怖でもなく、激しい怒りであった。


こんなものまで用意していたのか!!

どこまで……どこまで非道な事をすれば気が済むのか!!


強く握った拳からは、痛みと共にギシギシという音がなる。


奴らにとって ” 人 ” は自分の欲望を叶える道具。

そして国は自分が楽しむためのおもちゃだ。


だからどんなに人が死のうが何も感じない。


「 そんな者達に国を任せられるものか……! 」


私の怒りが伝わったのか、志を同じくしてここまできた教員達からも同じく怒りの感情が溢れてくるのを感じた。

そして私の脳裏にはある事件の事が思い浮かぶ。



以前、突然Sランクモンスター達が一気に魔素領域から姿を現し始めた時期があって、私は当時その事に大きな違和感を抱いた。


確かにフラリと姿を現すSランクモンスターの出現時期を特定する事はできないが、それでも、そんな示し合わせた様に出現するのはおかしい……。


その時は各機関総出でSランクモンスター達を何とか追い返したが、結構な数の兵達が犠牲となり、そのせいで調査にまで人手が回らず調査は早々に打ち切りになってしまった。

それに不満はあったが、そもそもそんな事を人為的に起こしたとしても、誰も得をする者達はいない事を考えると、調査の続行を訴えるのも難しいと思い口を閉ざすしかなかったのだ。

仮に一番怪しいエドワード派閥の者達が計画したとして、自分達を支持し支える戦力も多く犠牲になっていたため、疑惑の目を逸らしてしまったが……これでやっと理由が判明した。


「 これが目的だったのか。

もしもの時に使うため……Sランクモンスター共を誘き寄せ、何らかの方法で捕獲したのか……っ! 」


一体どれほどの人間がこんな事のために亡くなったのか……それを分かっているのか。

人の心を持たぬ獣めっ!!


激しい怒りに身を焦がしながらも、全員を守り通す事が出来るのかと不安と恐怖の気持ちを抱いていると、突然前衛の方から、うおおぉぉぉ────とはしゃぐ様な雄叫びが上がった。


「 やべぇヤツが来たぁぁぁぁぁっ!!!

主人に捧げる獲物としては最高なヤツじゃねぇか!

おい、皆!アレ倒してリーフに自慢してやろうぜ! 」


「 ……いっぱい褒めてもらえる……。

メルが倒してやる……。 」


飛び上がって目をギラギラ輝かせるレイド殿と、それに続いてブフッ!と鼻息を荒くつくメル殿の声が聞こえると、獣人の生徒達がピクピク!と反応を示す。


「 獲物……。 」


「 Sランク……。 」


「 褒めてもらえる……。 」


プルプル、ピクピクと耳や尻尾を動かしながら呟いた後、恐怖を塗りつぶしたワクワクした気持ちが前に大きく出てきた。


獣人の、特に群れを形成する動物を祖とする獣人や肉食系獣人にとって、強い獲物を倒す事、そしてそれを自分の認める主人に献上する事は最上級のアピール方法である。


そしてそれを認められ褒めてもらう事こそ至上の喜びで、他種族にはやはり理解しがたい価値観を持っている。


「 さっちゃんが可愛いだけの子じゃないってアピールする大チャ~ンス♡

アレ倒して褒めても~らおっと! 」


「 ……負けるつもりはないわ。

任された役割は、死んでも遂げてみせる。

……覚悟してね。 」


キャッキャッ!とはしゃぐサイモン殿に、表面上は静かだが、中では恐ろしい程闘志に燃えているリリア殿。

そんな二人の言葉を聞いて、エルフ族の生徒たちのスイッチがカチッと入る。


「 ……ふ~ん。私も負けるつもりないけど? 」


「 ここを通せば負けだもんな。

俺も負けるつもりはないよ。 」


エルフ族の特性。

一度任された仕事はきっちりと1から10まで完璧にやり遂げなければ気がすまない。

責任感なら種族一な彼らにとって、この戦いは自分に任された仕事に入っている様だ。


エルフ族は一見クールそうに見えて、実は非常に負けず嫌いで、勝つための努力は怠らない。

完璧にやり遂げた仕事を自身の認めた上司に評価してもらう事、それが至上の喜びでもある彼らは、獣人達の様に真正面から突っ込んで行くだけではなく、ありとあらゆる手を使い、勝利を目指す。


「 皆やる気満々だな。俺も燃えてきた。 」


「 これはやるしかなさそうだね~。 」


そしてそんな燃える二種族を見てスイッチが入ったのはドワーフ族の生徒たちだ。


” 偏屈 ” ” 頑固 ” の塊であるドワーフ族は、仲間と認めた者達に対し、非常に情に厚い種族特性を持っている。


仲間たちが戦う決意をしてしまえば、当然自身の心にも火が灯り、全力をもって戦いに身を投じるだろう。


勝てる勝てないではない。

ただ仲間達を裏切らない。

そのためだけに戦う。


そして人族は、それぞれが全く違う理由でやる気スイッチが入っていった様だ。


人族の特性は、臨機応変力と柔軟性、トリッキーさであると私は思っていて、纏まりがないその場にて、どの種族ともうまく折り合いをつけて戦う事ができる。

それぞれが全く違う能力を駆使し直ぐに対応してくるため、戦いに多様性があり、そのことから人族は全ての種族の緩和剤的存在となって、チームレベルを底上げしてくれる貴重な存在であると言えよう。


私は闘志に燃える皆を見て、どんどんと自分の中の不安や恐怖が薄れていくのを感じた。


種族によって特性はバラバラで、実際戦いの場に集合した際は反発しあい、実力を発揮できない事も多い中、こんなにも皆が戦う意思を同じくする事。

なんと心強い事か。

不安や恐怖など感じる必要などないではないか!


教員達からもメラメラと燃える闘志を感じながら、次々と雄叫びが上がるのを聞き、私は大きな喜びを感じながら< ナイト・カゲロウ >を睨みつけた。

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