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第三十九章

1265 運が良かっただけ

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( フラン )

「 どうしたのだ、モール殿!

一体何があった?! 」


意識はある様だったので私が上体を起こすと、モール殿はそのままドアに背中を預け、深呼吸を何度か繰り返す。

そんな余裕がない状態のモール殿は初めて見たので、私もセリナも困惑していると、多少落ち着きを取り戻したらしいモール殿ばボソッと呟いた。


「 ……あんな恐ろしいモノ、見れるわけがない……。 」


「 ??なんと? 」


小さすぎてよく聞こえなかったため聞き返すと、モール殿はポツリポツリと自身が体験した出来事を話し出す。


「 頼まれた鑑定をしようと、授業後教室の外に出て、レオン君に鑑定を掛けてみたんだけど……気がつけば、真っ暗な暗闇の中にいたんだ。

稀に心が病んでいる人の中には、心の中が暗い事があるから、それかな?と思ったんだけど……直ぐに異変に気づいたよ。

自分の視覚、聴覚、嗅覚……全部の感覚が失われていたから。 」


「 ……なんだと? 」

        ・
鑑定など、相手の中を覗いたりする場合、相手側に何らかの阻害スキルなどがあれば、追い出される事もあるが……術者に影響する何かがある事は非常に稀で、ましてや特級資質持ち相手にそれをするのは不可能であるはず。


まさか ” 心 ” に特化した資質でも持っているのか……?


一つの可能性が頭に過ったが、それでも特級資質持ちにここまでダメージを与えられるものなのだろうか?と疑問を持った。

セリナが水を持ってきてモール殿に渡すと、モール殿はそれを一気飲みし、そのまま話を続ける。


「 それから、自分と暗闇の境界線が無くなっている事に気づくと、自分という存在が ” 無 ” になっていったんだ。

それに気が狂うほどの恐怖を感じたんだけど……どうする事もできなかった。

” 俺は消えるんだな ” って、最後は思考も ” 黒 ” に消されて、諦めていたんだけどね、突然目の前に足跡がポッ!と現れたんだ。 」


「 足跡??

何だ?それは?? 」


モール殿は、ふ~……と息を吐き出し、落ち着きを取り戻すと、首を軽く傾げた。


「 さぁ?サイズ的には大人の男性のモノじゃないかなと思ったんだけど……足跡だけだから、誰のモノか分からない。

でも、それが現れると、突然 ” 黒 ” が止まって、感覚が戻ってきたんだよ。
          ・・
そしたらまるで透明な何かが歩いていく様に、ペタペタと足跡だけが前に向かって歩いて行ったんだ。

するとそれを追いかける様に ” 黒 ” が離れていって……今度は突然真っ白な世界になった。

もうこの時点で頭がパンっ!……だよ。

でも────……それから俺……何か見ては行けないモノを…………。 」


セリナに震える手でコップを返すモール殿。

その顔は恐怖に歪んでいて、その恐ろしさを語る。


「 見てはいけないモノ……?

何か見たのか? 」


私の質問に対し、モール殿は軽く首を振りながら片手で口元を覆うと、ボソボソとソレについて語った。

 
「 白い空間一杯に広がる巨大な ” 目 ” さ。

真っ赤に充血していて……ボタボタと真っ赤な涙を流していた。

恐怖に固まる俺に、その ” 目 ” は見向きもしないで、ひたすら ” 黒 ” を睨みつけていたよ。

アレが何なのか、全く分からないけど……少なくとも ” 人 ” 如きが見てはいけないモノだったという事だけは分かる。

もし、アレが俺を見ていたら………。

…………。


俺は……運が良かった……。 」


「 …………。 」


モール殿はそれだけ言うと、ゆっくりと立ち上がり、もう一度大きく深呼吸すると、呆然としている私に向かって最後に言った。


「 心の入るための入口はなかったから簡単には入れた。

でも……そこがまずおかしかった。

だから、もう誰にもレオン君の中を覗かせたら駄目だ。


……俺は運が良かっただけ。

次に入ったら……きっと……。 」


モール殿はブルッ!と大きく体を震わせ、言葉を切る。

そして、その後はフラフラしながら部屋から出ていってしまい、セリナは静かに閉められたドアを見ながら顔色を失くしていった。


これでレオン殿を理解する事は不可能である事が分かったため、ならばどうすれば良いのかと毎晩悪夢に魘されながら考えたが、良い策は一向に浮かばない。


私には学院長として生徒たちの安全を守る義務がある……!

そのためレオン殿をどうにかして止めなければと、学院長室で頭を抱えていた、ある日の事。


今度はセリナが学院長室へ駆け込んできて、そのままバターン!と倒れてしまう。

そのため慌てて駆け寄ると、セリナはブルブルと震えながら、” レオン殿が自分の資質【 言語調律師 】と同じスキルを使った ” と……そう言ったのだ。


「 ならばレオン殿の資質は、まさか【 言語調律師 】という事か?? 」


一つの可能性を口にしたが、セリナはブンブンと大きく首を横に振る。


「 いいえ!私のスキル< 多空間の瞳 >は、3つが限界のはずです。

それを何十……何百ですよ?

” 人 ” の限界を余裕に超えています。 」


「 なっ……!? 」


空間に ” 目 ” を出現させ、ありとあらゆる情報を手にする事ができるスキル。

それは一つなら、そこまで苦労せず情報を脳が処理する事が出来るが、数が増える度、それは難しくなってくる。

同時に送られてくる情報を処理するのは、あくまで自身の脳。

2つも3つもその情報が送られてしまっては、脳はパンクして情報を統括できないからだ。

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