上 下
1,276 / 1,370
第三十九章

1261 ケインの話

しおりを挟む
( フラン )


「 実はレオン殿についての情報を集めていてな……。

分かる範囲でいいから教えて欲しいのだ。

勿論礼はしよう。 」


私が金貨が数十枚入った袋をテーブルに置くと、ケインは「 ふ~ん? 」と言いながら、その袋を懐に入れた。


「 ……いいぜ。

────で、エリート様は何が聞きたい? 」


「 とりあえずケイン殿のレオン殿に対する見解を聞きたい。 」


そもそも良心が残る人間ならば、売りつけた奴隷の方を心配するのが普通のはず。

それを真っ先に買い取った主人の方を心配する辺り、絶対に何かあったと確信していた。


ケイン殿は、懐から葉巻を取り出すと、それに火をつけ煙をゆっくりを天井に向かって吐き出す。

そして一瞬の間が空いた後……ケイン殿はポツリと呟いた。


「 ……あれは普通の子供じゃなかった。 」


「 …………。 」


ケイン殿の葉巻を持つ手は震えていて、それを見て見ぬふりをしながら、続けてボソボソと話される話を聞く。



何でも母親のリアを回収しにいったが、とっくにトンズラした後。

そのため、子供であるレオン殿を回収しにいったのだそうだ。

また胸糞の悪い仕事をしなければならないと、イライラしながらリアの家に向かうと、そこにいたのは、黒い髪に黒い瞳、そして呪われた様な半身を持ったレオン殿であったと。


「 そん時は、俺達を出し抜こうとしたリアにムカついたのと……あとはヤツの恐ろしい外見と、気味の悪い気配に心底ビビっちまって、それを誤魔化すためにイスに八つ当たりしちまったんだ。

12歳のガキ相手になにしてんだって、直ぐに冷静になったけどよ……。

でもアイツ…… ” 普通 ” だったんだ。 」


「 ” 普通 ” か……。 」


その ” 普通 ” とやらに対し、背中にゾクッとしたモノが走る。


12歳の子供が、母親に捨てられ、知らぬ男が怒り狂っている姿を見て ” 普通 ” でいられるものなのか……?

幼き頃から教育を受けている貴族とて、多少の動揺はあるだろうに……。


ケインは、葉巻を大きく吸い出し、もう一度天井に向かって吐き出すと、更に話を続けた。


「 状況が分かってないのかと思って、母親に捨てられた事を伝えてやったんだが、それすらも反応なしときたもんだ。

俺の事が見えてないかの様に、眉一つ動かさなかったぜ。

あれじゃあ、まるで幽霊だ。

この世に存在していないモノと話している……ってーのが、一番しっくりくる。 」


ケインは、そう言って着火で葉巻を燃やし尽くすと、今度はイライラしているのか頭を乱暴に掻く。


「 だがよ~俺だって借金取りのプライドってモンがある。

だから自分を奮い立たせて、あのガキを奴隷にしようとしたんだよ。

だが────……。 」


ケイン殿は、乱暴に頭をかき回す手を止め、恐怖を奥底に隠した目で私を見た。


「 ……あいつ、本気だった。

本気で俺を……。 」


ケイン殿は両手を組むと、その手を膝に乗せる。

手は先ほど同様、震えていて、よほど恐ろしい想いをした様であった。


「 ……あの奴隷陣は、ケイン殿が施したモノか? 」


私がそう静かに尋ねると、ケイン殿は「 あぁ……。 」と短く返事を返す。

そして、そのままソファーに深くもたれ掛かり、深いため息をついた。


「 俺は【 立会者 】っつー契約に特化した資質持ちで、それに関しちゃかなりの自信がある。

それこそ高名な魔法使い相手だろうが、逃さねぇ自信があるし、現に今まで誰一人として逃がした事はねぇんだ。

だが……。 」


ケインは言葉を切って、そのまま黙ってしまったので、部屋の中は痛いくらいの沈黙が降りた。


奴隷陣など、” 人対人 ” の契約魔法は、普通の魔法とは違いかなり特殊性の高いモノとなっている。


まず、自分の魔力を使い契約書の元になる魔法陣を作製するのだが、これが非常に繊細で難しい作業であるらしく、規定のレベルに到達していないと、発動すらしないらしい。


そしてそれが出来上がると、今度は契約する両名の魔力をその魔法陣に馴染むように加工し、融合させていく過程を経て、今度は所有される奴隷の全身に所有者となる主人の魔力でできた鎖を魔法陣を使って縫い付けていくのだ。

これが完了すれば、魔法陣そのものが奴隷になる者に縫い付けられる事になるので、要は奴隷が魔法の契約書そのモノになるという事になる。


その時創り出された魔法陣が精密であればあるほど、その効力は強く、解除するにも複雑で難しいモノになるそうだ。


ただし────……。


私は眉を寄せて黙ったままのケインを見つめ、考え込む。


この契約は術者である者の実力が高くなければそもそも発動すらしないわけだが、実力がどんなに高くとも、奴隷となる者のレベルがそれを遥かに上回れば、奴隷陣を刻む事などできない。

だからこそレベルの高い契約術者は非常に貴重で、この目の前のケインもかなり優秀な契約術者である事は、対峙した時点で分かったが……。


果たしてあのレオン殿に契約を刻めるほどの実力はあるのだろうか?


まじまじと見つめる私の前で、ケインは、ハッ!と自傷気味に笑った。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公・グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治をし、敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成するためにグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後少しずつ歴史は歪曲し、グレイの予知からズレはじめる… 婚約破棄に悪役令嬢、股が緩めの転生主人公、やんわりBがLしてる。 そんな物語です。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...