1,255 / 1,370
第三十九章
1240 カッコいい
しおりを挟む
( キュイ )
「 ちょっ!皆ひどくね?俺、ホント怖かったんだからさ!
だってその女の顔、めちゃくちゃゴブリン似だったんだぜ!?
一瞬剣抜きそうになっちゃったもん。 」
そこでまた仲間たちはドッ!と笑い、今度は周囲にいる隊員たちもクスクスと笑い出すと、王子様が背筋を正し、ペコっとお辞儀をする。
「 ゴブリン相手はちょっと……ゴメンナサ~イ♡ 」
「 はいは~い。ゴブリンの恋人を探す会場はこちらで~す!ww 」
「 今なら選び放題ですよ~!ヘイっらっしゃい!ww 」
王子様がフザけた謝罪をすると、他の男の仲間たちは森の方角を指し示し、更にフザけた事を言いだした。
すると周りからはまたドッ!と大きな笑いが起こり、それに気を良くした王子達一行は、ガタガタと大げさに震えるフリをしている王子に肩を貸し、「 王子危篤のため緊急搬送しま~す☆ 」と行って出ていってしまったのだ。
仕事をすべて置いて。
「「 …………。 」」
最悪なやり取りに、憤りを通り越して気持ち悪さに鳥肌を立てているというのに、周りの女性隊員達はキャーキャーと顔を真っ赤にして騒ぐ。
「 王子ホントにカッコいい~!ちょー面白いし! 」
「 ” お前誰だよ ” って言えちゃうのカッコいいよね~。 」
か……カッコいい……??
アレが???
自分の考えとのあまりの違いに目眩がする。
必死に気持ちを伝えてくれた相手に ” お前誰? ” と言い放ち、今みたいに笑いモノにするのがカッコいいのか……。
それを聞いて私が思った事は、告白した女の子がうっかりこの最低な男に気まぐれに手を出されなくて良かったなと思うくらいだ。
人に冷たくあしらう行為をカッコいいと思う人間が一定数いる事。
それがとても衝撃的で……そして絶対にこの価値観に合う事はないなと痛感した出来事だった。
私にとってカッコいいとは、父の様な人を指す。
色々カッコいい所はあれど、多分一番は周りの言葉に影響されない所だ。
自分がしたいこと、正しいと思った事は周りに迷惑が掛からないなら絶対にやり遂げる父は、周りの人たちがどんなに罵ろうが悪く言おうが、全く気にすることはない。
そして才能がなくとも、それに向かって努力できる事!
それは本当に凄い事だと思う。
そもそも戦闘系の資質持ちではない父に、私とベリーちゃんの二人掛かりで勝てない事から、その凄さが良く分かる。
才のないモノを人の何千、何万倍も努力して手に入れ、沢山の美しい外見を持つ女性の中から、鬼の様に強い母を選び愛を貫いた。
それって凄くカッコいい!
イケメンじゃなくても、強くなくても。
爵位が低くても、給金が低くとも……私にとって ” カッコいい ” はそんな強さを持った人だった。
それを堂々と言える場所ってどこかにあるのかな……?
・・
ココには絶対にないけど……。
私とは違う ” カッコいい ” についてキャーキャーと騒ぐ女性隊員達を見て、それは確信した。
そんなココではないと分かっている場所でも居続けてしまったのは、” カッコいい ” 父が帰る場所になってくれたから。
父がいてベリーちゃんがいて、どんなに辛い事があっても受け入れてくれる幸せの場所……。
そんな場所を失ってまで、あるかもしれない場所を探しに行く事にためらいがあった。
もう少しこのまま……このまま……。
────……な~んていう私の私の甘ったれた考えを、きっと父はお見通しだったんだろうと思う。
私達が成人を迎えた日、父はこの居場所をすべて壊して出ていってしまった。
踏み出せなくなった私達に、自分の ” カッコいい ” を素直に言える場所を見つけにいけと背中を押すために。
それに気付いた後は、泣いて泣いて泣いて……そして朝を迎える頃にはベリーちゃんと共に、ココから歩き出そうと決意し、まずは守備隊を辞める事にした。
「 私達は今日で仕事を辞めます。 」
「 なのでお仕事は皆さんでやって下さい。 」
いつもの様に依頼書の束を私達に投げつけ、さっさと飲みに行こうとする守備隊長に対し、ベリーちゃんと私はそう言い放つ。
すると私達がいなくなっては困る守備隊長は、案の定お得意の逆ギレで、私達を怒鳴りつけた。
「 ふざけるなよっ!!!!仕事を途中で投げ出すつもりかっ!?
これだから片親育ちの常識擦らずは……。
はぁ~……。まぁ、常識がなくても可愛ければちょっとは使えたのになぁ?
女としては役立たずなんだから、せめて戦って街に貢献しろよ、デカブツ女共。 」
自分たちより一回り以上年上の男性が高圧的に怒鳴り散らす。
” これが正しい。”
” お前は間違っている。”
” だからお前はこうするべきだ。”
怒涛の如く怒鳴りつければ、若い女性は言う事を聞くだろうと、そんな考えがチラチラと顔を覗かせる。
実際、守備隊長の人生はそれで上手くいっていた様で、年が10も下の奥さんに対しても、愚痴と共に ” 躾けてやった ” などという聞くに耐えない暴言を繰り返し言っていたのを聞いた事がある。
そして、それを ” カッコいい~。 ” という周りの隊員達の声も……。
怒鳴り散らす内容はすべて、私達がいかに駄目な存在か。
そしてそんな自分に都合のいい世界を語るのが ” カッコいい ” のだそうだ。
「 ちょっ!皆ひどくね?俺、ホント怖かったんだからさ!
だってその女の顔、めちゃくちゃゴブリン似だったんだぜ!?
一瞬剣抜きそうになっちゃったもん。 」
そこでまた仲間たちはドッ!と笑い、今度は周囲にいる隊員たちもクスクスと笑い出すと、王子様が背筋を正し、ペコっとお辞儀をする。
「 ゴブリン相手はちょっと……ゴメンナサ~イ♡ 」
「 はいは~い。ゴブリンの恋人を探す会場はこちらで~す!ww 」
「 今なら選び放題ですよ~!ヘイっらっしゃい!ww 」
王子様がフザけた謝罪をすると、他の男の仲間たちは森の方角を指し示し、更にフザけた事を言いだした。
すると周りからはまたドッ!と大きな笑いが起こり、それに気を良くした王子達一行は、ガタガタと大げさに震えるフリをしている王子に肩を貸し、「 王子危篤のため緊急搬送しま~す☆ 」と行って出ていってしまったのだ。
仕事をすべて置いて。
「「 …………。 」」
最悪なやり取りに、憤りを通り越して気持ち悪さに鳥肌を立てているというのに、周りの女性隊員達はキャーキャーと顔を真っ赤にして騒ぐ。
「 王子ホントにカッコいい~!ちょー面白いし! 」
「 ” お前誰だよ ” って言えちゃうのカッコいいよね~。 」
か……カッコいい……??
アレが???
自分の考えとのあまりの違いに目眩がする。
必死に気持ちを伝えてくれた相手に ” お前誰? ” と言い放ち、今みたいに笑いモノにするのがカッコいいのか……。
それを聞いて私が思った事は、告白した女の子がうっかりこの最低な男に気まぐれに手を出されなくて良かったなと思うくらいだ。
人に冷たくあしらう行為をカッコいいと思う人間が一定数いる事。
それがとても衝撃的で……そして絶対にこの価値観に合う事はないなと痛感した出来事だった。
私にとってカッコいいとは、父の様な人を指す。
色々カッコいい所はあれど、多分一番は周りの言葉に影響されない所だ。
自分がしたいこと、正しいと思った事は周りに迷惑が掛からないなら絶対にやり遂げる父は、周りの人たちがどんなに罵ろうが悪く言おうが、全く気にすることはない。
そして才能がなくとも、それに向かって努力できる事!
それは本当に凄い事だと思う。
そもそも戦闘系の資質持ちではない父に、私とベリーちゃんの二人掛かりで勝てない事から、その凄さが良く分かる。
才のないモノを人の何千、何万倍も努力して手に入れ、沢山の美しい外見を持つ女性の中から、鬼の様に強い母を選び愛を貫いた。
それって凄くカッコいい!
イケメンじゃなくても、強くなくても。
爵位が低くても、給金が低くとも……私にとって ” カッコいい ” はそんな強さを持った人だった。
それを堂々と言える場所ってどこかにあるのかな……?
・・
ココには絶対にないけど……。
私とは違う ” カッコいい ” についてキャーキャーと騒ぐ女性隊員達を見て、それは確信した。
そんなココではないと分かっている場所でも居続けてしまったのは、” カッコいい ” 父が帰る場所になってくれたから。
父がいてベリーちゃんがいて、どんなに辛い事があっても受け入れてくれる幸せの場所……。
そんな場所を失ってまで、あるかもしれない場所を探しに行く事にためらいがあった。
もう少しこのまま……このまま……。
────……な~んていう私の私の甘ったれた考えを、きっと父はお見通しだったんだろうと思う。
私達が成人を迎えた日、父はこの居場所をすべて壊して出ていってしまった。
踏み出せなくなった私達に、自分の ” カッコいい ” を素直に言える場所を見つけにいけと背中を押すために。
それに気付いた後は、泣いて泣いて泣いて……そして朝を迎える頃にはベリーちゃんと共に、ココから歩き出そうと決意し、まずは守備隊を辞める事にした。
「 私達は今日で仕事を辞めます。 」
「 なのでお仕事は皆さんでやって下さい。 」
いつもの様に依頼書の束を私達に投げつけ、さっさと飲みに行こうとする守備隊長に対し、ベリーちゃんと私はそう言い放つ。
すると私達がいなくなっては困る守備隊長は、案の定お得意の逆ギレで、私達を怒鳴りつけた。
「 ふざけるなよっ!!!!仕事を途中で投げ出すつもりかっ!?
これだから片親育ちの常識擦らずは……。
はぁ~……。まぁ、常識がなくても可愛ければちょっとは使えたのになぁ?
女としては役立たずなんだから、せめて戦って街に貢献しろよ、デカブツ女共。 」
自分たちより一回り以上年上の男性が高圧的に怒鳴り散らす。
” これが正しい。”
” お前は間違っている。”
” だからお前はこうするべきだ。”
怒涛の如く怒鳴りつければ、若い女性は言う事を聞くだろうと、そんな考えがチラチラと顔を覗かせる。
実際、守備隊長の人生はそれで上手くいっていた様で、年が10も下の奥さんに対しても、愚痴と共に ” 躾けてやった ” などという聞くに耐えない暴言を繰り返し言っていたのを聞いた事がある。
そして、それを ” カッコいい~。 ” という周りの隊員達の声も……。
怒鳴り散らす内容はすべて、私達がいかに駄目な存在か。
そしてそんな自分に都合のいい世界を語るのが ” カッコいい ” のだそうだ。
143
お気に入りに追加
2,014
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる