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第三十九章

1240 カッコいい

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( キュイ )


「 ちょっ!皆ひどくね?俺、ホント怖かったんだからさ!

だってその女の顔、めちゃくちゃゴブリン似だったんだぜ!?

一瞬剣抜きそうになっちゃったもん。 」


そこでまた仲間たちはドッ!と笑い、今度は周囲にいる隊員たちもクスクスと笑い出すと、王子様が背筋を正し、ペコっとお辞儀をする。


「 ゴブリン相手はちょっと……ゴメンナサ~イ♡ 」


「 はいは~い。ゴブリンの恋人を探す会場はこちらで~す!ww 」


「 今なら選び放題ですよ~!ヘイっらっしゃい!ww 」


王子様がフザけた謝罪をすると、他の男の仲間たちは森の方角を指し示し、更にフザけた事を言いだした。

すると周りからはまたドッ!と大きな笑いが起こり、それに気を良くした王子達一行は、ガタガタと大げさに震えるフリをしている王子に肩を貸し、「 王子危篤のため緊急搬送しま~す☆ 」と行って出ていってしまったのだ。

仕事をすべて置いて。


「「 …………。 」」


最悪なやり取りに、憤りを通り越して気持ち悪さに鳥肌を立てているというのに、周りの女性隊員達はキャーキャーと顔を真っ赤にして騒ぐ。


「 王子ホントにカッコいい~!ちょー面白いし! 」


「 ” お前誰だよ ” って言えちゃうのカッコいいよね~。 」


か……カッコいい……??

アレが???


自分の考えとのあまりの違いに目眩がする。


必死に気持ちを伝えてくれた相手に ” お前誰? ” と言い放ち、今みたいに笑いモノにするのがカッコいいのか……。


それを聞いて私が思った事は、告白した女の子がうっかりこの最低な男に気まぐれに手を出されなくて良かったなと思うくらいだ。


人に冷たくあしらう行為をカッコいいと思う人間が一定数いる事。

それがとても衝撃的で……そして絶対にこの価値観に合う事はないなと痛感した出来事だった。


私にとってカッコいいとは、父の様な人を指す。


色々カッコいい所はあれど、多分一番は周りの言葉に影響されない所だ。

自分がしたいこと、正しいと思った事は周りに迷惑が掛からないなら絶対にやり遂げる父は、周りの人たちがどんなに罵ろうが悪く言おうが、全く気にすることはない。

そして才能がなくとも、それに向かって努力できる事!

それは本当に凄い事だと思う。


そもそも戦闘系の資質持ちではない父に、私とベリーちゃんの二人掛かりで勝てない事から、その凄さが良く分かる。

才のないモノを人の何千、何万倍も努力して手に入れ、沢山の美しい外見を持つ女性の中から、鬼の様に強い母を選び愛を貫いた。


それって凄くカッコいい!


イケメンじゃなくても、強くなくても。

爵位が低くても、給金が低くとも……私にとって ” カッコいい ” はそんな強さを持った人だった。


それを堂々と言える場所ってどこかにあるのかな……?
・・
ココには絶対にないけど……。


私とは違う ” カッコいい ” についてキャーキャーと騒ぐ女性隊員達を見て、それは確信した。


そんなココではないと分かっている場所でも居続けてしまったのは、” カッコいい ” 父が帰る場所になってくれたから。


父がいてベリーちゃんがいて、どんなに辛い事があっても受け入れてくれる幸せの場所……。

そんな場所を失ってまで、あるかもしれない場所を探しに行く事にためらいがあった。


もう少しこのまま……このまま……。


────……な~んていう私の私の甘ったれた考えを、きっと父はお見通しだったんだろうと思う。



私達が成人を迎えた日、父はこの居場所をすべて壊して出ていってしまった。

踏み出せなくなった私達に、自分の ” カッコいい ” を素直に言える場所を見つけにいけと背中を押すために。


それに気付いた後は、泣いて泣いて泣いて……そして朝を迎える頃にはベリーちゃんと共に、ココから歩き出そうと決意し、まずは守備隊を辞める事にした。


「 私達は今日で仕事を辞めます。 」


「 なのでお仕事は皆さんでやって下さい。 」


いつもの様に依頼書の束を私達に投げつけ、さっさと飲みに行こうとする守備隊長に対し、ベリーちゃんと私はそう言い放つ。

すると私達がいなくなっては困る守備隊長は、案の定お得意の逆ギレで、私達を怒鳴りつけた。


「 ふざけるなよっ!!!!仕事を途中で投げ出すつもりかっ!?

これだから片親育ちの常識擦らずは……。

はぁ~……。まぁ、常識がなくても可愛ければちょっとは使えたのになぁ?

女としては役立たずなんだから、せめて戦って街に貢献しろよ、デカブツ女共。 」


自分たちより一回り以上年上の男性が高圧的に怒鳴り散らす。

” これが正しい。” 

” お前は間違っている。”

” だからお前はこうするべきだ。”

怒涛の如く怒鳴りつければ、若い女性は言う事を聞くだろうと、そんな考えがチラチラと顔を覗かせる。

実際、守備隊長の人生はそれで上手くいっていた様で、年が10も下の奥さんに対しても、愚痴と共に ” 躾けてやった ” などという聞くに耐えない暴言を繰り返し言っていたのを聞いた事がある。

そして、それを ” カッコいい~。 ” という周りの隊員達の声も……。


怒鳴り散らす内容はすべて、私達がいかに駄目な存在か。

そしてそんな自分に都合のいい世界を語るのが ” カッコいい ” のだそうだ。

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