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第三十九章
1239 自分で探しに行けばいい
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( キュイ )
父は ” ガラクタ ” な母を心から愛していて、この気持ちはずっと変わっていない。
それは酔っ払った時に語られる母との思い出話からもよく分かり、街の人たちが語る ” いい女 ” ではない母を、父は世界で一番 ” いい女 ” だと言っていた事からも間違いない。
” 世界はとても広い ”
この狭い街から出たことがない私には、その世界とやらがどれだけ広いかは想像もできなかったけど、そんな広い世界で価値観を一つに纏めるのは無理だという事だけは分かる。
だから私を嫌いになる今の価値観も、この広い世界に存在する価値観の中のほんの一つで……だから自分が否定されても、その価値観が合っているとか間違っているとかは思わなくていい。
自分を好きになれる価値観を、自分で探しにいけばいいだけなんだ。
それが驚く程自分の中にストンッ……と入ると、自分の心はすごく楽になった。
だったらいつかそれを探しに行こう。
そう決めたが、それが簡単ではない事は知っていた。
でも自分の足で探しに行くには ” 力 ” がいる。
それをとても弱い自分は良く知っていたからだ。
だから父が教えてくれる事を貪欲に吸収し、必死に鍛錬についていく様になると、今度は必死に努力した事に対して結果がついてくる事に喜びを感じ始めた。
頑張れば頑張るほど強くなれる。
自分が出来ることが増えていく。
それが楽しくて楽しくて、いつの間にかあんなに嫌だった戦うことが好きになっていた。
今にして思えば、父はこういった私の気質も見抜いていて、自信をつけさせるため、心を鬼にして鍛えてくれたのだと思う。
そんな父に恩返しがしたい。
そしていつかは自分の居場所を探しに……。
そんな思いを抱いてまず選んだのは、街を守る守備隊だった。
ぶっちぎりのトップで入隊試験に合格した私とベリーちゃんは、それから守備隊の仲間たちや先輩たちと共にモンスターや盗賊達との熱き戦いを────と思っていたのだが……その予想は大外れ。
人を陥れる事に天武の才能がある性悪守備隊長!
そんな守備隊長を持ち上げ、口だけよく回る先輩や同僚達!
チャンスがあれば仕事を押し付けてくる全隊員達!
キラキラした守備隊というイメージは、すぐに木っ端微塵に吹き飛んだ。
いやいやいやいや……???
流石にいざという時は動くよね……?
常に命の危険と隣り合わせの守備隊で、そこまで怠惰に過ごさないだろうと思っていたのだが……それも大きな間違いだった。
守備隊長が ” 右 ” と言えば ” 右 ” が正義に。
” 左 ” と言えば ” 左 ” が正義に。
その先に崖があったとしてもそれを実行する全員が、なにか恐ろしモノの様で……思わず震えが走る。
明らかに危ない事は一応苦言を呈したが、どんなに間違っている事でも正しいと言うまで、全員に口や態度で攻撃されてしまう始末で、私もベリーちゃんもそのうち諦めて淡々と仕事をする様になった。
実際の実戦で学べる事は非常に多く、私達は誰よりも多くの経験値をそこで得て才能はどんどんと磨かれていく一方……もはや守備隊長も他の隊員達も戦えるレベルから遥かに下回り、ハッキリと ” 死 ” が近づいていっているのに気づく。
どんなに口が回っても、結局戦闘職では実力がなければ ” 死 ” という結果が待っている。
お喋りに花を咲かせ続ける隊員達を見ながら、本気で心配しているとベリーちゃんが困った顔で言った。
「 こればっかりは首に縄を掛けて戦場に連れて行くわけにもいかないからね……。
まぁ、領主様はしっかりしている方だから、仕事が滞ってきたら、すぐに対処してくれるよ。 」
「 そうだねぇ……。 」
散歩を嫌がる犬を引きずっていく映像が浮かび、大きなため息をつきながら、命より大事なお話って何かな?と、気まぐれに大声で喋っている隊員達の話に耳を傾ける。
すると、だいたい七割程度は私達の悪口やその他の陰口で、残りの三割は恋愛についての話が多かった気がする。
恋愛については、一番多かったのは守備隊にいる ” 王子様 ” などと言われている男性隊員についてで、カッコいいだの優しいだのとしきりに皆言うが、私から見たその男は、魅力の欠片もない男だった。
顔の造形が整っていても、守備隊としてモンスターの一匹も倒せないなど話にならないし、努力している姿も見たことがないから尊敬もできない。
それに優しいとは、ただ私達の仕事を自分がやった風に語っているだけで、依頼を受けた時に偉そうに的外れの意見を述べてくる行為の事を指しているらしい。
周りが言う ” カッコいい ” や ” 可愛い ” は私にとって理解不能だ……。
そんな事を思いながら、依頼を終えて守備隊へ報告しにきた時、ちょうどその ” 王子様 ” とその御一行である男女数人のグループが、守備隊へやってきた。
キャイキャイと騒がしい集団に横に、依頼終了の手続きが終わるのを待っていたのだが、どうやらその御一行は、仕事もせずに遊びに出かけていたそうで、楽しそうにその話をし始める。
” いつもの事 ”
私とキュイちゃんが目を合わせて同時にため息をつくと、突然なにかを思い出したらしい ” 王子様 ” がべらべらと大声で話しだした。
「 この間街を歩いていたら、顔を真っ赤にした地味女が ” 好きです~ ” って告白してきたんだよね~。
だから俺、ハッキリ言ってやったよ。 ” はっ?お前誰だよ。 ” ってね。
その程度の顔面偏差値で告白とか、マジ空気読めないにもほどがあるだろwww 」
「 マジかよ~!www
やばっ!鏡見たことねぇ~のかっつーの! 」
「 wwwマジ王子、かわいそ~!
でもハッキリ言い過ぎでしょwwお腹いた~い! 」
王子の話が余程面白かったのか、その仲間たちは腹を抱えて大爆笑をしている。
それに気をよくしたのか、王子様は更に話を続けた。
父は ” ガラクタ ” な母を心から愛していて、この気持ちはずっと変わっていない。
それは酔っ払った時に語られる母との思い出話からもよく分かり、街の人たちが語る ” いい女 ” ではない母を、父は世界で一番 ” いい女 ” だと言っていた事からも間違いない。
” 世界はとても広い ”
この狭い街から出たことがない私には、その世界とやらがどれだけ広いかは想像もできなかったけど、そんな広い世界で価値観を一つに纏めるのは無理だという事だけは分かる。
だから私を嫌いになる今の価値観も、この広い世界に存在する価値観の中のほんの一つで……だから自分が否定されても、その価値観が合っているとか間違っているとかは思わなくていい。
自分を好きになれる価値観を、自分で探しにいけばいいだけなんだ。
それが驚く程自分の中にストンッ……と入ると、自分の心はすごく楽になった。
だったらいつかそれを探しに行こう。
そう決めたが、それが簡単ではない事は知っていた。
でも自分の足で探しに行くには ” 力 ” がいる。
それをとても弱い自分は良く知っていたからだ。
だから父が教えてくれる事を貪欲に吸収し、必死に鍛錬についていく様になると、今度は必死に努力した事に対して結果がついてくる事に喜びを感じ始めた。
頑張れば頑張るほど強くなれる。
自分が出来ることが増えていく。
それが楽しくて楽しくて、いつの間にかあんなに嫌だった戦うことが好きになっていた。
今にして思えば、父はこういった私の気質も見抜いていて、自信をつけさせるため、心を鬼にして鍛えてくれたのだと思う。
そんな父に恩返しがしたい。
そしていつかは自分の居場所を探しに……。
そんな思いを抱いてまず選んだのは、街を守る守備隊だった。
ぶっちぎりのトップで入隊試験に合格した私とベリーちゃんは、それから守備隊の仲間たちや先輩たちと共にモンスターや盗賊達との熱き戦いを────と思っていたのだが……その予想は大外れ。
人を陥れる事に天武の才能がある性悪守備隊長!
そんな守備隊長を持ち上げ、口だけよく回る先輩や同僚達!
チャンスがあれば仕事を押し付けてくる全隊員達!
キラキラした守備隊というイメージは、すぐに木っ端微塵に吹き飛んだ。
いやいやいやいや……???
流石にいざという時は動くよね……?
常に命の危険と隣り合わせの守備隊で、そこまで怠惰に過ごさないだろうと思っていたのだが……それも大きな間違いだった。
守備隊長が ” 右 ” と言えば ” 右 ” が正義に。
” 左 ” と言えば ” 左 ” が正義に。
その先に崖があったとしてもそれを実行する全員が、なにか恐ろしモノの様で……思わず震えが走る。
明らかに危ない事は一応苦言を呈したが、どんなに間違っている事でも正しいと言うまで、全員に口や態度で攻撃されてしまう始末で、私もベリーちゃんもそのうち諦めて淡々と仕事をする様になった。
実際の実戦で学べる事は非常に多く、私達は誰よりも多くの経験値をそこで得て才能はどんどんと磨かれていく一方……もはや守備隊長も他の隊員達も戦えるレベルから遥かに下回り、ハッキリと ” 死 ” が近づいていっているのに気づく。
どんなに口が回っても、結局戦闘職では実力がなければ ” 死 ” という結果が待っている。
お喋りに花を咲かせ続ける隊員達を見ながら、本気で心配しているとベリーちゃんが困った顔で言った。
「 こればっかりは首に縄を掛けて戦場に連れて行くわけにもいかないからね……。
まぁ、領主様はしっかりしている方だから、仕事が滞ってきたら、すぐに対処してくれるよ。 」
「 そうだねぇ……。 」
散歩を嫌がる犬を引きずっていく映像が浮かび、大きなため息をつきながら、命より大事なお話って何かな?と、気まぐれに大声で喋っている隊員達の話に耳を傾ける。
すると、だいたい七割程度は私達の悪口やその他の陰口で、残りの三割は恋愛についての話が多かった気がする。
恋愛については、一番多かったのは守備隊にいる ” 王子様 ” などと言われている男性隊員についてで、カッコいいだの優しいだのとしきりに皆言うが、私から見たその男は、魅力の欠片もない男だった。
顔の造形が整っていても、守備隊としてモンスターの一匹も倒せないなど話にならないし、努力している姿も見たことがないから尊敬もできない。
それに優しいとは、ただ私達の仕事を自分がやった風に語っているだけで、依頼を受けた時に偉そうに的外れの意見を述べてくる行為の事を指しているらしい。
周りが言う ” カッコいい ” や ” 可愛い ” は私にとって理解不能だ……。
そんな事を思いながら、依頼を終えて守備隊へ報告しにきた時、ちょうどその ” 王子様 ” とその御一行である男女数人のグループが、守備隊へやってきた。
キャイキャイと騒がしい集団に横に、依頼終了の手続きが終わるのを待っていたのだが、どうやらその御一行は、仕事もせずに遊びに出かけていたそうで、楽しそうにその話をし始める。
” いつもの事 ”
私とキュイちゃんが目を合わせて同時にため息をつくと、突然なにかを思い出したらしい ” 王子様 ” がべらべらと大声で話しだした。
「 この間街を歩いていたら、顔を真っ赤にした地味女が ” 好きです~ ” って告白してきたんだよね~。
だから俺、ハッキリ言ってやったよ。 ” はっ?お前誰だよ。 ” ってね。
その程度の顔面偏差値で告白とか、マジ空気読めないにもほどがあるだろwww 」
「 マジかよ~!www
やばっ!鏡見たことねぇ~のかっつーの! 」
「 wwwマジ王子、かわいそ~!
でもハッキリ言い過ぎでしょwwお腹いた~い! 」
王子の話が余程面白かったのか、その仲間たちは腹を抱えて大爆笑をしている。
それに気をよくしたのか、王子様は更に話を続けた。
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