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第三十八章

1215 感謝を

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( ベリー )

一体何のつもりなんだろう……。


呆れながら守備隊長の方へ視線を向けると、彼はギラギラと憎しみで染まった目で私達を睨みつけていた。


「 仕事にそんな我が儘が通用すると思っているのか?

ガキじゃあるまいし、成人ならしっかり仕事の責任を取るべきだろう!! 」


「 ────えっと……?守備隊長がそれを言っちゃいますか??

失礼ですが、私達が入隊してからお仕事している姿を見たことがないのですが……。

それに他の人達も……。 」


キュイちゃんが汗を掻きながら守備隊長と周りの隊員達を見渡して言うと、周りの隊員たちは全員ギクッ!!と身体を震わせたが、守備隊長は依然大激怒した顔のまま更に怒鳴る。


「 それは実力の足らない新人を鍛えるためにやってやっただけだろうがっ!!!

いわば今までの事は、全てお前たちのためにやってきてやった事だ!!

なんで俺や周りの奴らの優しさに気付かない!! 」


「 はぁ……優しさですか……。 」


耳がキーンとする様な大声に、堪らず片耳を押さえながら、私は周りで守備隊長と同じく親の仇を見るような目で私達を憎々しげに見ている皆を見回した。


彼らにとって私とキュイちゃんは、自分たちの ” 正しい ” 世界を壊す大罪人だ。

だから私達がいなくなれば、彼らは全員で私達が ” 悪 ” であったと罵り、自分たちの正しさを必死に守ろうとするだろうが…………このままでは ” 現実 ” が彼らの命を奪うだろうと思う。


守備隊は脅威となるモンスターや盗賊などの悪意ある人間と戦う、危険と隣り合わせの仕事だ。


要は実力のない者は直ぐに死ぬ。


いくらある程度の実力を認められて守備隊に入っても、そこからが本当のスタートで、実戦は今までの常識など殆ど通じないと言ってもいい。

今まで学んできた事を元に、自分なりの戦闘スタイルやチームワークの精度を上げなければ、実戦では全く使えないのだ。


「 あの……流石に死なれては気分が悪いので言わせてもらいますけど……あなた達全員凄く弱いです。

正直Gランクモンスターでも複数で襲ってきたら勝てないと思いますよ。

だからFランク一匹相手で確実に全滅します。


悪いことは言いませんから、命が大事なら守備隊はもう辞めた方がいいです。

とりあえず直ぐに領主様に連絡をして冒険者ギルドと傭兵ギルドへ間引きの依頼を────……。 」


一応言葉には気をつけていたのだが、守備隊長を始めとした大人数が怒りで顔を真っ赤に染め上げ、残りの少人数はザッ!と青ざめた。


努力をしない人程、何でプライドって高くなるのか……。


ハァ……と呆れ果ててため息をつくと、それが最後のトリガーになったのか……激昂した守備隊長が突然剣を抜き、私に向かってそれを振り下ろしてくる。


しかし────……。


「 …………。 」


ノロノロ~……。


スローモーションにも見える守備隊長の剣を見て、更に新たなため息が出そうだ……。


私は欠伸を噛み締めながら、結局指一本でその剣を軽々と受け止めた。


「 は……?

…………。

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────────────っ!!!!?? 」

   ・・
恐らくコレは守備隊長の渾身の一撃だったのだろう。

目を限界まで見開きワナワナ震える守備隊長が少々可哀想だが、これで彼も周囲も現実がしっかりと見えたらしい。


赤色をしていた全員の顔色は一気に真っ青へ。

守備隊長は、すっかり勢いを失くした様子でガタガタ震えながら剣を鞘に戻した。

そのまま痛いくらい沈黙してしまったその場で、私は剣を受け止めた指にフッ!と息を吐きかけ、キュイちゃんと一緒に扉に向かって歩き出す。


扉の前に立っていた隊員達は、全員ビクッ!!と身体を震わせ慌てて道を空けてきたが、背後から「 ま、待てっ!! 」という守備隊長の声に、その場で止まった。


「 ────まだ何か? 」


クルッと後ろを向いて尋ねた私達に、守備隊長はいつもの様にヘラヘラ馬鹿にした笑みではなく、媚びへつらう様な笑みを浮かべる。


「 いや~、すまんすまん!今のはお前たちの実力を最終的に試したんだ!

結果は見事合格だ!

今までお前たちには厳しくしてきたかもしれないが、それはお前たちの実力を見込んでの事だったんだよ。

不快に感じていたなら、今後はそれを改める事にしよう。

それに今月からお前たちの給与は二倍……いや、10倍に上げようと、ちょうど今日伝えようと思っていた所だったんだ。

それに今までの功績を称えて、特別賞与金も渡そう。


だから……なっ?この話は終わりだ。いいな? 」


「 わぁ~!いいなぁ!お二人共凄く優秀ですもんね!

ずっと憧れてました~! 」


「 強い女性って、男から見ても凄く魅力的だと思います~。

これからも頑張ってくださいね!応援してます! 」


「 是非お二人の武勇伝をお聞きしたいな!

今日良かったら皆さんでお二人のお話聞きましょうよ!

今後の参考にしま~す! 」


守備隊長に続き、媚び媚びのお気に入り達の態度にドン引きしているにも関わらず、他の守備隊員達もそれに混ざり、ワイワイと話しだした。


「 いいですね!私も参加します~。 」


「 新しくできた店でどうですか?予約しておきますね! 」


「 じゃあ、今から行っちゃいましょう!

楽しみ~! 」


……などと、しまいには守備隊としての責任感など欠片もない発言まで飛び出す。


ただただポカン……としてそれを見守ってしまったが、守備隊長は気をよくしたのか満面の笑みを浮かべた。


「 皆お前たちの事を大事に思っているんだ。

こんな良い奴らがいて、毎日楽しく過ごせる職場は他にはないぞ。

ここは最高の居場所だろう? 」


私はそれを聞いてフッ……と口角を上げ「 そうですね。 」と素直に肯定する。

すると守備隊長と他の隊員達は全員が笑みを深めて、ホッとしている姿が目に映った。


” これで元の幸せな生活が続く ”

そう信じている彼らに最終宣告を突きつけてやるため、私は口を開く。


「 何の未練も罪悪感もなく捨て去る事ができる最高の職場でした。

きっと優しい思い出が一つでもあったら、情が残って旅立てなかったでしょうから。 」


人との ” 絆 ” は、自分に幸福感や安心感などを与えてくれるかわりに、自分をそこに縛りつける鎖にもなるモノだ。

新たに旅立ちたいと思っても、そこが居心地が良い場所ならその足を踏み出すのを躊躇う。


それが私達にとっては、父だった。


父が大好きだったから、その絆が作ってくれた居心地のいいココにい続けたのだ。


でも、そんな私達の居場所は父が壊していってしまったから、この地に私達を縛るモノは何もない。


自由に旅立てるこの環境と、自分を受け入れてくれなかったこの場所で鍛えられた精神力、実戦経験を与えてくれた守備隊には感謝を。


居場所を探しに行ける力は父に、そしてそれを守備隊はピカピカに磨いてくれて────最後は背中を押す追い風にまでなってくれたのだ。


「 ありがとうございました。 」


私達は心からのお礼を告げ、” 絶望 ” で満ち溢れた顔をした守備隊長達から視線を外し、今度こそ溢れんばかりの自由の中、私達は歩き出した。
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