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第三十八章

1206 汚いモノは大嫌い

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( モルト )


” ついていく主人を間違える低能貴族もどき達 ”


” 爵位にしか目がいかない愚か者達 ”


そうあからさまに言われてムカッ!としたが、必死に笑顔を張り付けて耐える。


相手は爵位が上の貴族の子供たち。

我慢しなければ家族に迷惑がかかる。


それに…………。

前にいるリーフ様をチラッと見て、拳を強く握った。


主人であるリーフ様だって耐えているのだ。

ここで俺達が良くない態度を取れば、リーフ様にも迷惑が……。


────などと思ったのは一瞬。


直接攻撃されているはずのリーフ様は、怒りも悲しみもなにもなく、ただの日常会話としてマリオン様と話し始めた。


「 俺も広くてびっくりした~。

お掃除大変だと思うから、できるだけ汚さない様にしているんだ。 」


豪邸が広いと言われた事を、” 褒められた! ” と思ったのか、リーフ様はニコニコと上機嫌に……。

更に様々な豪邸でのエピソードまで話し出す。

そしてそれに満足した後は、続く外見に対する嫌味に気づかなかった様で、上機嫌のまま胸を大きく張った。


「 そうそう、俺、親しみのある顔なら結構自信あるよ!

マリオンはもしかして恥ずかしがり屋さんなのかな~?

これから同級生なんだから、気さくに話しかけておいで!何事も練習あるのみだよ。


あ、仇名でもお互いつけてみようか?

緊張が少しは解けるかもしれないよ。

マリオンだから『 まーくん 』とかどうだろうか?

『 マリリン 』とか『 マリにゃん 』とかも可愛いね!

あとは~……。 」


「 マリオンがいいです。

これからそれでお願いしますリーフ様。 」


マリオン様はその仇名が相当嫌だった様で、即座に引きつった顔と声でズバッ!と言い返す。

それに吹き出しそうになったが、俺とニールは必死に耐えた。


そうして結局その日はマリオン様がさっさと逃げていったため無事に終わったのだが……マリオン様は非常にしつこかった。


周りにいる取り巻きたちが、掴みどころのないリーフ様を前に早々に諦めていったにも関わらず、マリオン様だけは、事ある事にリーフ様に突っかかっては負け、突っかかっては負けを繰り返す。


どうやらマリオン様は非常に負けず嫌いな性格をしているらしく、蓋を開ければ何でも自分より上のリーフ様にメラメラと闘志を燃やしている様だった。


見ているだけでウンザリする様なしつこさなのに、当の本人であるリーフ様は────……。

” マリオンって可愛いよね、子供らしくて。 ” 

……だそうだ。


悪く言えば蛇なんかよりも遥か強い執念深さを持っている伯爵様を ” 可愛い ” と言う公爵様……。

俺の様な底辺貴族では、その領域に到達するのは無理だと心底思った。


マリオン様は、その ” 可愛い ” しつこさで、全ての不満や文句をリーフ様本人にチクチク、グサグサとぶつけ続けていたのだが……ある日から急に風向きが変わり始めて俺とニールは首を大きく傾げる事になる。


今までリーフ様に向いていた怒り、その最大の矛先は、何をやっても断トツNo.1のレオンへとチェンジ。

そして何故かただの取り巻き風情の俺とニールにまで向いた。


?????


当時はただ不思議だったが、恐らく少し前に ” リーフ様の取り巻きをやめて自分につけ! ” という命令を拒否したからだと、それで納得する。


それとレオンに至っては、リーフ様より遥か上の実力プラス、ニョキニョキと伸びて自分より高身長かつスタイルが良くなったから?……という答えをニールと共に出した。


マリオン様って意外に子供っぽい所があるんだな……。


うんざりしながらため息をつく俺とニールを他所に、俺達やレオンに意地悪をしては、リーフ様に叱られ、また意地悪しては叱られを繰り返し、それにヘイトを貯めて、更に俺達にキツく……という無限ループの中、俺達とマリオン様の関係性は現在まで最悪。



なのに、マリオン様はこの戦いの中心地< グリモア >へ戻ってきて俺達を助けてくれた。

性格的には大嫌いではあるが、貴族としての責任を果たそうとする姿勢には尊敬の念を抱く。


そして更に他の貴族院生達や、スタンティン家の魔道具、他の貴族達の私兵団達まで登場し、非常に驚かされた。


こんな話、きっと誰にしても信じて貰えないはずだ。

そう思う程、この現状は奇跡であると言える。


そんな奇跡の一部として必死に戦い、これでリーフ様が勝てば俺達の勝利だ!と喜んだ。


────────が…… ” 悪 ” は俺の予想の遥か上を行く存在であったらしい。



【 Sランクモンスター 】

< ダーク・ツリー・フェイス >


突然立ち塞がった途方もない圧倒的な存在に、身体は固まり、全身の震えが止まらなくなった。


本音を言えば今直ぐ逃げ出したい。

しかし、ここで一人だけ逃げ出せば、俺の大切な居場所は永遠に汚れてしまうから絶対にできない。


リーフ様やニールやレオンがいて。

家族がいて、学院で仲良くしてくれる仲間たちがいて、意地悪だが、マリオン様や他の貴族の同級生達もいて……その他にも自分の人生の中で出会ってきた沢山の人達がいる、俺の綺麗な居場所。

それが一つでも欠けたら綺麗な世界が汚くなってしまう。


俺は汚いモノが大嫌いなモルト。

だから相手がSランクだろうが、なんだろうが、ここが汚くならないために最後まで戦う。


そう決意した、その時────空を飛び回る伝電鳥が、酷く見知った人物の声を伝えた。



《 こちら西門傭兵ギルド!

< クイーン・アント >の産卵能力により戦況は劣勢!! 》


《 街に残っている傭兵がいたら至急こちらに応援をお願いします! 》



「 ベ、ベリーちゃんっ!! 」


「 キョイちゃんっす! 」


その声の正体に驚き叫ぶ俺とニールに気付いたマリオン様が「 知り合いか? 」と質問してきたので、頷きながらそれに答える。


ベリーちゃんとキュイちゃんは【 剛腕ガールズカフェ 】という、楽しくお喋りしようぜ!というコンセプトの元、営業している飲食店で出会った現職傭兵の女の子達だ。


最初こそ、その逞し外見に、” お店の護衛さんだろうか? ” と思ったのだが、今では大事な友人の一人である二人。

時間があれば俺とニール、そしてレイドとメルちゃんは、その【 剛腕ガールズカフェ 】へ行き、ベリーちゃんとキュイちゃんに頑張っている事を報告しながらジュースを飲む。

そしてそれが日課になっていて、そんなグダグダの俺達を二人は優しく話を聞いてくれては、” 頑張ってね~。 ” と励ましてくれた。


そんな大事な友人の大ピンチ!

確かこのグリモアの傭兵ギルドは、現在圧倒的に数が少ないと前に言っていたため、数で押してくるSランクモンスター< クイーン・アント >とは絶望的に相性が悪い。

俺とニールはその時の話を思い出して、サァ────……と血の気が引いていった。


” グリモアでモンスターが大増加した時に、王都から大量の冒険者が派遣されたんだけど……そのせいで傭兵の数が凄く少ないの。 ”


” 冒険者が多すぎちゃうと、依頼の取り合いやダブルブッキングしちゃう事もあるからね~。

元々大人数が苦手で傭兵になる人も多いし、傭兵はフットワークも軽いから、直ぐに移動しちゃうのよ。 ”


ベリーちゃんとキュイちゃんはそう言って、大きなため息をつく。


そんな二人を見て不思議そうに俺とニールは質問した。


” じゃあ、何で二人はこの街に残っているの? ”


すると二人はあっけらかんと ” 好きだから ” と答え、その話を聞いていた他のグリモアに定住している傭兵のスタッフさん達も ” お気に入りの店があるから ” とか ” 何となく街並みが好きだから ” という、割とフリーダムな答えが返ってくる。

しかしそんな軽い答えの割に、全員仕事に対しては真摯に取り組んでいる様で、よく怪我などもこしらえながらもカフェで仕事をしていた。

だから、俺はこの街に残っている傭兵達は、皆非常に好感を持てる人達だと思っている。


だから大事な友人であると、素直に伝えると、マリオン様はそっちに行けと命じてくれた。

戸惑う俺達だったが、マリオン様はいつもの様に俺達を鼻で笑う。


「 自惚れるなよ、男爵如きが。

お前たち低位貴族の10人や20人くらいいてもいなくても問題はない。

寧ろ連携の邪魔になるからとっとと行け。いいな? 」


「 マ…マリオン様…… 」


「 ありがとうございます……っ! 」


嫌味の様な言い方も、今は優しさからくるモノだと分かっていたので、俺とニールはそれに感謝をしながら、傭兵達が守っている西門を目指し、全力で駆けていった。


俺とニールが行った所で、多分何も戦況は変わらない。

それでも大事な友人のために何かできることをしよう。


リーフ様が作ってくれて、それから沢山の仲間たちが広げていってくれた、自分の居場所を欠片でも失わない様に。


全員救ってハッピーエンド!俺もそれを目指す。

もうどんなにボロボロになったって汚れたって構うもんか!


汗と服は濡れ、血とドロで服も顔もドロドロ。

それでも俺は走り続ける。


俺の大事な世界で一番美しい場所、その一部である大事な友人達のピンチに駆けつけるために。
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