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第三十八章

1204 自分にできる事って?

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( モルト )

上辺だけ綺麗なモノを無理に自分の中に入れても、そこは本当に綺麗な場所にはならない。

泥だらけになってもボロボロになっても、自分の全力を出して、泣いたり笑ったり、怒ったり……そういった過程の中で手に入れていったモノが自分の大事なモノになっていく。

そしてそんな大事なモノで溢れたその場所が、自分にとっての世界で一番美しい場所になっているのだ。


気がつけば綺麗なモノで溢れていた胸を、ギュッ……と掴むと、俺は今まで感じた事のない穏やかな気持ちになった。


俺はずっと寂しかった。


だから綺麗なモノを沢山集めては心の中に入れて、それを誤魔化し続けてきたのだ。


俺は胸をポンポンと叩き、もういいんだと今まで無理をしていた心を慰める。


もう無理に綺麗なモノを詰め込む必要なんてない。

自分だけの綺麗な居場所はもう見つかったから。


すると、次に湧き上がるのは、” では、どうやってリーフ様がくれた、この綺麗な場所を守ればいいのか? ” だった。


” 黒豆パンが食べたい! ”

リーフ様がそう言い残し、去っていった後も、俺はその事について考える。


リーフ様は強い。

俺より遥かに上の実力を持っているため、戦闘面に関していえば、何の役にもたたないだろう。

精神面だって強い。

たまに凄く年上の人と話している感覚を感じる事だってあるくらいに……。


うう~ん……。

考え込む俺の傍ら、どうやらニールも何か想う所がある様で考え込んでいる様だ。


ただ与えられるモノを享受し、日々に流されるだけでは駄目だ。

それではこの居場所を守る事ができない。


俺がリーフ様のためにできる事……。


そこでフッ……と頭を過ったのは、リーフ様の家庭内の立場についてだった。


リーフ様は恐らく正式なメルンブルク家の人間ではない。

そしてこの国は、不義の子供に対しての扱いはとても冷たく、中でも貴族はそれが顕著である。


だから今後、その事で俺がリーフ様を助けられる日がくるのではないか?


そう思い立った俺は、早速隣にいるニールにその事を伝えてみた。

するとニールもなんと同じ様な事を考えていた様で、二人で同時に頷いたが…………やはりそれは ” 力 ” を持っている前提となる。


” 力 ” がなければ人を助ける事はできない。

自分を犠牲にして助けてくれたって、その人が大事な人達だったら、俺はとても悲しいと思ってしまうからだ。


どうしたらいいものか……。


う~ん……う~ん……とニールと二人、考え込んでいると、突然カルパスさんがランチバケットを取りにやってきた。


そして、そこで ” さすらいの料理人ムーシェ ” という人物の話を始める。


俺は全くその人物を知らないため、首を傾げたが、ニールはどうやら知っている様だ。

しかし、どうして今その話題を??

そんな疑問は顔にしっかり出ていたらしく、カルパスさんはお見通しとばかりにその理由を話しだした。


「 そんな彼の資質は【 調料師 】です。

戦闘職とは程遠い、ごくごくありふれた下級生産型資質ですね。 」


「 全く同じ資質でも持っているスキルは人によって違います。

ムーシェさんの様に戦闘スキルをふんだんに持っている料理人もいれば、戦闘系資質なのに戦闘に役立つスキルを生涯一つも発現しない人だっている。

結局のところ、自分がどういった人物になりたいのか、それが一番重要なのですよ。

ですので、あまり資質にこだわらず、やりたい事が決まったならそれに向かって一直線に進んでみるとよいでしょう。 」



俺の【 造花師 】と同じ下級生産型資質。

それなのにそのムーシェさんという人は、なんと自分で食材を調達しているのだろうだ。


通常飲食店などを営む生産系資質の者たちは、契約している農家や酪農家に定期的に食材をおろしてもらうのだが、特殊な食材に関しては、主に冒険者ギルドに依頼を出して手に入れるのが普通だ。


そのため戦う性能に恵まれなかった者が、危険なモンスターがひしめく現地へ立ち入るなど、自殺行為に等しい事。


そんな常識を覆し、自ら戦うなど信じがたい事実ではあるが……それなら俺も強くなれるかもしれない。

────いや、絶対に強くなってやる。

この手にいれた大切な場所を守るために。


固く決意した俺は拳を握り、去っていくカルパスさんの背を必死で追いかけた。


それから毎日、俺とニールは同じく修行中のイザベルさんと共に、厳しいカルパスさんの特訓を受ける。


そうして必死で守ってきた、この場所は…………俺を離してくれないらしい。



Cランク冒険者であるゲイルを倒した後、突然発生した大量のモンスターが迫る中、俺をおぶって必死に逃げてくれるニールを見て様々な想いが溢れた。


オレを置いて逃げれば助かるかもしれないのに……。


馬鹿だなと思う反面、俺が逆の立場でもそうしただろうなとも思う。

きっと手に入れた場所があんまりにも綺麗だから、頭が馬鹿になってしまったのかもしれない。


この身をボロボロにして、泥だらけになりながら必死に努力して手に入れたこの場所を抱え、俺は ” なんて幸せな人生だったんだろう ” と泣きながら自分の ” 死 ” を覚悟した。


しかし────なんと間一髪、あのマリオン様が助けてくれたのだ!


た、助けてくれたのか……?


地面に倒れたまま、ボンヤリと見たことのない魔道具に乗っているマリオン様を見上げた。


< マリオン・オブ・スタンティン >


魔道具に関して右に出る者はいないと言われている程、伯爵家の中でも頭10個分くらいは抜きん出ている正真正銘のスーパーお貴族様。



「 リーフ様の取り巻きといえど所詮は男爵。その程度か。

後はこの天才魔道具使い、伯爵家マリオン・オブ・スタンティンがお相手しよう。 」


颯爽と現れたマリオン様は、持って生まれたカリスマ性をビュンビュンと出しながら、不敵に笑う。


それを見て必死に笑顔を取り繕うが、やはり口の端はヒクヒクと痙攣してしまった。


俺はこの人が昔から大嫌いだ。

何故かと言われたら、” 意地悪 ” だから。これに限る。


隣をチラッと見れば、ニールも笑顔を張り付けながら、内心チィィ!!と大きな舌打ちをしている様だった。

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