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第三十八章

1202 想うことは色々ある

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( モルト )


” 今までそれなりに横暴な貴族達と接する機会はあったが、アレは別格だ ” 


両親曰く、そう断言する程酷い人達だったらしいが、結局どうする事もできない両親達は、戦々恐々とメルンブルク家が来る日を待つしかなかったそうだ。

ところがやたら豪勢な豪邸が建ち、そこで出産を終えたメルンブルク家は、家族揃って直ぐに王都へ帰ってしまったので全員首を傾げる。


「「「「 ?????? 」」」」


突然の意味不明な行動に、俺の両親とニールの家の両親は呆然としたらしいが、とりあえずは大喜びし、今度は新たな悩みの種になってしまった問題について相談し合った。


その問題とは、レガーノの豪邸に残された生まれたての赤ん坊についてだ。


なぜかは知らないが、メルンブルク家は生まれた赤ちゃんと、その専属執事としてカルパスさんともう一人の侍女だけ残して王都へ帰ったのだ。


その理由は考えても、男爵程度ではどうせ分からないのでとりあえずは置いておく。

では何が俺の家とニールの家にとって問題なのかと言えば、実害を被る大きな問題は一つ。


それは当時もう臨月を迎えていた両家の母達にあった。


このまま順当に出産する事になったら、置いてかれた赤ちゃんと自分たちの子が同じ年……つまりは、爵位から考えると、生まれた自分たちの子はそのメルンブルク家の子供につかせなければならないという事だ。


あの性悪公爵家の子供の取り巻き……。


それに両親達は頭を抱えて悩んだが、とりあえず小学院に通う歳までは、考える時間があるため、ゆっくり考える事にしたらしい。


” 高位貴族は小学院入学の年まで家から出るべからず ”


今回俺とニールの両親を助けたのは、アルバード王国の常識として定着していたこの考え方だった。


この偏った考え方は、” 平民は汚い下層の人間である ” という貴族独特の選民主義から来たもので、自分の価値観がある程度形成される前……つまりは小学院に通う直前まで、完璧な存在である貴族としての教育をしっかり受けるべしというモノ。


貴族もどきの俺からしたら、そんな馬鹿な……と思ってしまう常識だが─────まぁ、平民は汚い云々は置いておいて、確かに厳しい教育をしている途中、楽しそうに遊ぶ平民の子供達を見てしまえば、少なくとも良い感情は生まれないだろうなと思う。


俺は自分の体験からそう思い、傷まなくなったはずの胸が少し痛んだ。


両親はというと普段、子供に無理強いをするやり方に否定的だったがこの時ばかりは助かったと、俺達が小学院に入る前まで一切メルンブルク家と関わりを持たない様、務めたらしい。


そんな日々の中、ニールと俺が両親から口癖の様に言い聞かされた言葉が ” リーフ様に逆らうな、機嫌を損ねるな ” だ。


それを聞く度に、” 関わりたくない。” ” このまま時が止まればいいのに……。” と思っていた。

しかしそう思っても時は過ぎていき、とうとう小学院の入学が目と鼻の先へと迫ってきた頃、嫌々リーフ様に会いに行ったわけだが、結果は予想を遥かに裏切る結果へ。


外見も内面も何もかもが、メルンブルク家の特徴とかけ離れているリーフ様に多少安心したのも束の間 、更に ” レオン ” という強烈な人物を懐に入れ、両親は大騒ぎ。

俺もしばらく呆然としていたと思う。


” 汚いモノ ” の塊の様なレオンと、そんな ” 汚いモノ ” を俺に強制するリーフ様。

そんな強烈な体験をしたせいか、俺はリーフ様と出会った直後から毎晩悪夢に魘される様になった。


泥やゴミ、汚い沢山の物……それが津波の様に俺に襲いかかってきて、俺は悲鳴を上げながら必死に逃げ回る夢。

更にそんな情けない俺の傍ら、安全な高台で沢山の同世代の子供たちが歌を歌いながら楽しそうに輪になって踊っているという、そんな奇っ怪で恐ろしい夢であった。

そのため、毎朝起きたら直ぐに大好きな花畑に行っては心を慰める日々。


今直ぐ逃げ出したい……。

でも家族を守る為、それはできない……。


そんな葛藤を抱えながら、必死な想いで小学院の入学院式に向かう。


とりあえず、リーフ様にもレオンにもできるだけ当たり障りなく。

近づくのも最低限……。


ブツブツと呟きながら学院に向かい、ニールとお互いの方針についても確認しあい、さぁ、行くぞ!と決意したのに、当の本人達はまさかの堂々としたおんぶ姿でのご登場だ。


呪われた化け物に触っている……???

あんなに気持ち悪いのに……!


頭の中には ” 何で? ” ” 何で?? ” という疑問しか浮かばない。


あんなに汚くてみすぼらしい姿をした化け物に、なんであんなに普通に接する事ができるのだろう……?


その時の俺にその理由は全く理解できなかった。


レオンという恐ろしい存在を学院に通わせる事に、勿論多方面から様々な意見があった様だが……誰一人公爵家の息子に逆らえるわけがなく、” レオン ” という存在がいるのが当たり前になっていく。

すると、学院に通う生徒達の中にはまた別の感情がニョキニョキと姿を見せ始めた。


チビで今までまともな教育など受けた事がないただの平民であるレオン。

恐らく文字すら読めないだろう。

そいつがいる限り、自分たちは ” 上 ” でいられる。

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