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第三十八章
1201 綺麗なモノだけ
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( モルト )
それから俺は貴族としての振る舞いを必死に勉強し、" 俺はお前たちとは違う存在なのだ " としっかり一線を引くようになる。
優雅な仕草や美しい言葉。
精錬されたセンスとマナー。
綺麗だと思うモノを自分の中に入れては、心を満たしていった。
そうして以前は感じる事のなかった感覚に非常に満足していたのだが……両親からは心配するような目を、そして姉からは呆れたような顔を向けられ、更にはニールからは嫌そうに歪んだ顔を向けられてしまい、その距離がどんどん遠のいていく。
まぁ、元々ニールとは性格の大きな違いを感じていたため気にする事はないが、両親や姉に関しては何故そんな顔をするんだろう?と不思議に思っていた。
そんな日々の中、父さんと一緒に花の手入れをしている時の事だ。
昔は素手で喜んで土をいじっていた俺であったが、その頃はしっかりと手袋をつけて作業する様になっていて、その日も素手の父さんに対し、俺はしっかり手袋を着用して花の世話をしていた。
花は物心ついた頃から大好きであったため、勿論手袋をしていたからといって、作業することが遅れたり雑になったりすることはない。
父さんは必死に花の世話をする俺を見ながら、ニコッと笑った。
「 モルトは花が本当に好きなんだな。
なぜそんなに好きなんだ? 」
「 えっ?……それは勿論美しいからです。
花はどこをどう見ても美しく綺麗なモノですから! 」
「 ほほぉ~なるほどな~。
モルトは花が ” 綺麗 ” で ” 美しい ” から好きなのか~。 」
父さんはフムフムと頷きながら、丁寧な手つきで土を弄り話を続ける。
「 綺麗なモノは心に安らぎを与えてくれる。
父さんもお花が大好きだよ。
────でもなぁ、” 綺麗 ” で ” 美しい ” モノにするには、汚いモノが必要なんだ。 」
父さんの言った言葉の意味が分からず、手を止めキョトンとした顔をしたが、父さんは気にせず話を続けた。
「 この花達を綺麗で美しく咲かせるために、私達は毎日毎日土に塗れ、肥料でドロドロになりながらお世話するだろう?
長い人生の中で欲しいものを手にするには……それが必要なのかもな。 」
そう言って俺に向けて土で汚れた手を見せた後、父さんはいつも通り黙って作業をし始める。
いつも作業中は寡黙な父がここまで喋るのは珍しいな……。
少々不思議に思ったが、言葉の意味が全く理解できなかった俺は、その話をすっかり忘れてしまった。
それから特に何事もなく日々は過ぎていき、小学院入学の年。
八歳を迎えた俺に……いや、俺の家族全員とって厄災と呼べる様な出来事が眼の前に迫っていたため、ある日家族会議が開かれた。
その問題とはズバリ ” メルンブルク家の次男リーフ様 ” についてだ。
まずこの話はリーフ様が生まれる前に遡る。
平和でのどかな田舎町《 レガーノ 》に、ある日突然あの大貴族である公爵家メルンブルク家の当主カール様とマリナ様が何の前触れもなくやってきた。
格上どころか、目にする事が奇跡といっても過言ではない公爵家!
驚いた俺の俺の両親とニールの家の両親は、慌てて歓迎の用意をしたが……それに対し、二人は冷めた目でため息をつくと、高圧的に言い放ったそうだ。
” これからこの街に住もうと考えている。
期待しているぞ。 ”
─────と。
二人はウチで作っているバラを以前より大層気に入ってくれていた様だが、それ以外の花は特にお気に召さなかったらしく、” 今直ぐ他の花を処分し、全てバラに変えろ。 ” ” もっと美しいバラの品種を早急に作れ。 ” などと無茶な要求を俺の両親に命じた。
父はそれに困り果てながらも笑顔を張り付け、正直に ” その命令は難しい。 ” と伝えると、あからさまに馬鹿にした目で見下し ” まぁ、所詮は……。 ” などと失礼な事を言ってきたらしい。
それでも何とかご機嫌を取ろうと、ニールの家で販売している、バターをふんだんにつかった小麦クッキーと甘酸っぱい甘さが堪らないチビりんごクッキーを急いで出したが……。
” ペットでも飼っているのか? ”
そう言ってペットの餌扱いをしながら鼻で笑ったそうだ。
更に今ある最高級の茶葉を使った紅茶には ” 泥水かしら? ” だの ” カップがみすぼらしくて触れる事もできない。 ” だの言いたい放題。
その後も全ての事に対し、グチグチペラペラと文句を言いながら帰っていった。
それでだいたい30分くらい。
それだけの時間なのに、俺とニールの両親はグッタリとソファーに倒れ込んだそうだ。
” これからアレがこの街に住むのか……。 ”
父は悲痛な声でそう呟いたが、公爵家と言えば男爵家の拒否など絶対に許されない。
機嫌を損ねれば、即お家潰し……いや、一族極刑だってなるかもしれない。
そのため諦めるしかなかった。
それから俺は貴族としての振る舞いを必死に勉強し、" 俺はお前たちとは違う存在なのだ " としっかり一線を引くようになる。
優雅な仕草や美しい言葉。
精錬されたセンスとマナー。
綺麗だと思うモノを自分の中に入れては、心を満たしていった。
そうして以前は感じる事のなかった感覚に非常に満足していたのだが……両親からは心配するような目を、そして姉からは呆れたような顔を向けられ、更にはニールからは嫌そうに歪んだ顔を向けられてしまい、その距離がどんどん遠のいていく。
まぁ、元々ニールとは性格の大きな違いを感じていたため気にする事はないが、両親や姉に関しては何故そんな顔をするんだろう?と不思議に思っていた。
そんな日々の中、父さんと一緒に花の手入れをしている時の事だ。
昔は素手で喜んで土をいじっていた俺であったが、その頃はしっかりと手袋をつけて作業する様になっていて、その日も素手の父さんに対し、俺はしっかり手袋を着用して花の世話をしていた。
花は物心ついた頃から大好きであったため、勿論手袋をしていたからといって、作業することが遅れたり雑になったりすることはない。
父さんは必死に花の世話をする俺を見ながら、ニコッと笑った。
「 モルトは花が本当に好きなんだな。
なぜそんなに好きなんだ? 」
「 えっ?……それは勿論美しいからです。
花はどこをどう見ても美しく綺麗なモノですから! 」
「 ほほぉ~なるほどな~。
モルトは花が ” 綺麗 ” で ” 美しい ” から好きなのか~。 」
父さんはフムフムと頷きながら、丁寧な手つきで土を弄り話を続ける。
「 綺麗なモノは心に安らぎを与えてくれる。
父さんもお花が大好きだよ。
────でもなぁ、” 綺麗 ” で ” 美しい ” モノにするには、汚いモノが必要なんだ。 」
父さんの言った言葉の意味が分からず、手を止めキョトンとした顔をしたが、父さんは気にせず話を続けた。
「 この花達を綺麗で美しく咲かせるために、私達は毎日毎日土に塗れ、肥料でドロドロになりながらお世話するだろう?
長い人生の中で欲しいものを手にするには……それが必要なのかもな。 」
そう言って俺に向けて土で汚れた手を見せた後、父さんはいつも通り黙って作業をし始める。
いつも作業中は寡黙な父がここまで喋るのは珍しいな……。
少々不思議に思ったが、言葉の意味が全く理解できなかった俺は、その話をすっかり忘れてしまった。
それから特に何事もなく日々は過ぎていき、小学院入学の年。
八歳を迎えた俺に……いや、俺の家族全員とって厄災と呼べる様な出来事が眼の前に迫っていたため、ある日家族会議が開かれた。
その問題とはズバリ ” メルンブルク家の次男リーフ様 ” についてだ。
まずこの話はリーフ様が生まれる前に遡る。
平和でのどかな田舎町《 レガーノ 》に、ある日突然あの大貴族である公爵家メルンブルク家の当主カール様とマリナ様が何の前触れもなくやってきた。
格上どころか、目にする事が奇跡といっても過言ではない公爵家!
驚いた俺の俺の両親とニールの家の両親は、慌てて歓迎の用意をしたが……それに対し、二人は冷めた目でため息をつくと、高圧的に言い放ったそうだ。
” これからこの街に住もうと考えている。
期待しているぞ。 ”
─────と。
二人はウチで作っているバラを以前より大層気に入ってくれていた様だが、それ以外の花は特にお気に召さなかったらしく、” 今直ぐ他の花を処分し、全てバラに変えろ。 ” ” もっと美しいバラの品種を早急に作れ。 ” などと無茶な要求を俺の両親に命じた。
父はそれに困り果てながらも笑顔を張り付け、正直に ” その命令は難しい。 ” と伝えると、あからさまに馬鹿にした目で見下し ” まぁ、所詮は……。 ” などと失礼な事を言ってきたらしい。
それでも何とかご機嫌を取ろうと、ニールの家で販売している、バターをふんだんにつかった小麦クッキーと甘酸っぱい甘さが堪らないチビりんごクッキーを急いで出したが……。
” ペットでも飼っているのか? ”
そう言ってペットの餌扱いをしながら鼻で笑ったそうだ。
更に今ある最高級の茶葉を使った紅茶には ” 泥水かしら? ” だの ” カップがみすぼらしくて触れる事もできない。 ” だの言いたい放題。
その後も全ての事に対し、グチグチペラペラと文句を言いながら帰っていった。
それでだいたい30分くらい。
それだけの時間なのに、俺とニールの両親はグッタリとソファーに倒れ込んだそうだ。
” これからアレがこの街に住むのか……。 ”
父は悲痛な声でそう呟いたが、公爵家と言えば男爵家の拒否など絶対に許されない。
機嫌を損ねれば、即お家潰し……いや、一族極刑だってなるかもしれない。
そのため諦めるしかなかった。
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