上 下
1,216 / 1,370
第三十八章

1201 綺麗なモノだけ

しおりを挟む
( モルト )

それから俺は貴族としての振る舞いを必死に勉強し、"   俺はお前たちとは違う存在なのだ   "   としっかり一線を引くようになる。


優雅な仕草や美しい言葉。

精錬されたセンスとマナー。


綺麗だと思うモノを自分の中に入れては、心を満たしていった。


そうして以前は感じる事のなかった感覚に非常に満足していたのだが……両親からは心配するような目を、そして姉からは呆れたような顔を向けられ、更にはニールからは嫌そうに歪んだ顔を向けられてしまい、その距離がどんどん遠のいていく。


まぁ、元々ニールとは性格の大きな違いを感じていたため気にする事はないが、両親や姉に関しては何故そんな顔をするんだろう?と不思議に思っていた。


そんな日々の中、父さんと一緒に花の手入れをしている時の事だ。

昔は素手で喜んで土をいじっていた俺であったが、その頃はしっかりと手袋をつけて作業する様になっていて、その日も素手の父さんに対し、俺はしっかり手袋を着用して花の世話をしていた。

花は物心ついた頃から大好きであったため、勿論手袋をしていたからといって、作業することが遅れたり雑になったりすることはない。

父さんは必死に花の世話をする俺を見ながら、ニコッと笑った。


「 モルトは花が本当に好きなんだな。

なぜそんなに好きなんだ? 」


「 えっ?……それは勿論美しいからです。

花はどこをどう見ても美しく綺麗なモノですから! 」


「 ほほぉ~なるほどな~。

モルトは花が ” 綺麗 ” で ” 美しい ” から好きなのか~。 」


父さんはフムフムと頷きながら、丁寧な手つきで土を弄り話を続ける。


「 綺麗なモノは心に安らぎを与えてくれる。

父さんもお花が大好きだよ。


────でもなぁ、” 綺麗 ” で ” 美しい ” モノにするには、汚いモノが必要なんだ。 」


父さんの言った言葉の意味が分からず、手を止めキョトンとした顔をしたが、父さんは気にせず話を続けた。


「 この花達を綺麗で美しく咲かせるために、私達は毎日毎日土に塗れ、肥料でドロドロになりながらお世話するだろう?

長い人生の中で欲しいものを手にするには……それが必要なのかもな。 」


そう言って俺に向けて土で汚れた手を見せた後、父さんはいつも通り黙って作業をし始める。


いつも作業中は寡黙な父がここまで喋るのは珍しいな……。


少々不思議に思ったが、言葉の意味が全く理解できなかった俺は、その話をすっかり忘れてしまった。


それから特に何事もなく日々は過ぎていき、小学院入学の年。

八歳を迎えた俺に……いや、俺の家族全員とって厄災と呼べる様な出来事が眼の前に迫っていたため、ある日家族会議が開かれた。


その問題とはズバリ ” メルンブルク家の次男リーフ様 ” についてだ。


まずこの話はリーフ様が生まれる前に遡る。


平和でのどかな田舎町《 レガーノ 》に、ある日突然あの大貴族である公爵家メルンブルク家の当主カール様とマリナ様が何の前触れもなくやってきた。


格上どころか、目にする事が奇跡といっても過言ではない公爵家!


驚いた俺の俺の両親とニールの家の両親は、慌てて歓迎の用意をしたが……それに対し、二人は冷めた目でため息をつくと、高圧的に言い放ったそうだ。


” これからこの街に住もうと考えている。

期待しているぞ。 ”


─────と。


二人はウチで作っているバラを以前より大層気に入ってくれていた様だが、それ以外の花は特にお気に召さなかったらしく、” 今直ぐ他の花を処分し、全てバラに変えろ。 ” ” もっと美しいバラの品種を早急に作れ。 ” などと無茶な要求を俺の両親に命じた。


父はそれに困り果てながらも笑顔を張り付け、正直に ” その命令は難しい。 ” と伝えると、あからさまに馬鹿にした目で見下し ” まぁ、所詮は……。 ” などと失礼な事を言ってきたらしい。


それでも何とかご機嫌を取ろうと、ニールの家で販売している、バターをふんだんにつかった小麦クッキーと甘酸っぱい甘さが堪らないチビりんごクッキーを急いで出したが……。


” ペットでも飼っているのか? ” 


そう言ってペットの餌扱いをしながら鼻で笑ったそうだ。


更に今ある最高級の茶葉を使った紅茶には ” 泥水かしら? ” だの ” カップがみすぼらしくて触れる事もできない。 ” だの言いたい放題。


その後も全ての事に対し、グチグチペラペラと文句を言いながら帰っていった。


それでだいたい30分くらい。

それだけの時間なのに、俺とニールの両親はグッタリとソファーに倒れ込んだそうだ。

    
” これからがこの街に住むのか……。 ”


父は悲痛な声でそう呟いたが、公爵家と言えば男爵家の拒否など絶対に許されない。


機嫌を損ねれば、即お家潰し……いや、一族極刑だってなるかもしれない。


そのため諦めるしかなかった。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...