天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん

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第三十八章

1200 汚いモノ

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( モルト )


ハァ……ハァ……。


自分の息の音が酷く耳につく。


全力疾走を続けているため、乱れる息にプラスして心臓の音もドコドコと耳に響くが、そんな事を気にする余裕はない。


隣をチラッと見れば、ニールも俺同様、息を激しく乱しながら必死に走っていた。


【 聖令浄化 】の要ともいえる< 聖浄結石 >

それを守るため、この場に残されていた冒険者の男を無事に(?)倒したのはいいが、なんと突如モンスター達が大量に現れ、その時は ” もう駄目だ! ” と本気で死を覚悟した。


しかし、なんとあの面倒くさがりで適当で基本は動きたがらないニールが、必死で俺を背負って逃げようとしてくれたのだ。

俺がその時の最善を提案したにも関わらずに。


「 俺があいつらを引き付けるから、その間に逃げて皆に情報を伝えてくれ!

リーフ様を頼むぞ。 」


動けない自分が囮となり、俺がやられている間に少しでも動けるニールが、この情報を皆に伝える。


それしか選択肢はなかったのにニールはそれをしなかった。

それどころか、ボロボロの身体で俺を背負い、おぼつかない足で一緒に逃げ始めたのだ。


「 おいっ!!ニール!何をしているんだ!!

早く俺を降ろして逃げろっ!! 」


そう怒鳴りつけたのに、ニールはそれを遮るように、大声で叫ぶ。


「 俺達仲良し幼馴染~ズっ!!!俺、ニール!! 」


幼馴染~ズとは、リーフ様が昔、俺とニール、そしてレオンの四人を指した言葉として名付けたモノで、俺が生まれて初めて家族以外で得た絶対的な俺の居場所だ。


俺が抜けてしまえば、そこに代わりに入れる奴はいない。

そこが俺にとって、この世で一番綺麗で美しい場所で何に変えても守りたいと思うモノだった。




俺は綺麗で美しいモノが大好き。


しかし、それは物心ついた頃からというわけではない。


まだリーフ様と出会うもっと前にはそんな事はなかった。


俺の家は造園や多種多様な花の開発、販売などにより繁栄した、生産系の商売を生業とする男爵家だ。


そのため純粋な貴族か?と言われれば答えは ” NO ”


かといって、じゃあ平民と同じか?と言われても、答えは ” NO ” という微妙な立ち位置であった。


そのため街にいる平民の子供たちからは距離を置かれて仲間に入れてはもらえず……でも貴族の子供達からは ” 生産系の低位貴族 ” ” 貴族もどき ” などと陰口を叩かれ、相手にされない。


俺の居場所はどこにもなかった。


寂しい!

悲しい!

悔しい!


そんな感情を必死に心の奥に隠しながら、なんとか生活していたのは多分俺だけ。

同じ立場にいるニールは、その事を全く気にしていない様子だった。


” まぁ、皆こんなもんじゃないっすか? ”


勇気を出して、ボソボソと不満を口にしてみれば、飄々とした様子でそう答えられてしまう。


まるで割り切れない俺がおかしいみたいじゃないか!


そう感じた俺は、その日からニールに相談することは止め、貴族らしく自分の気持ちを絶対に見せない様振る舞い始めた。


しかし、やはり一人になるとその隠していた気持ちは溢れ出し、ベッドの中で丸まってシクシクと泣いてしまう。


友と呼べる存在が欲しい。

仲良く話したり、遊んだりしてみたい。

俺は皆が ” 普通 ” に持っているそれが、ホントは欲しくて欲しくて仕方がない!


街に行く度、当然の様に同世代同士で遊ぶ子供たちを見ては、心はジクジクと痛む日々……。


そんなある日、街にいった時の事。

雨上がりの後だったせいで、道は泥の水たまりがそこら中にできていたのだが、平民の子供たちは目を光らせて、その水たまりでとっても楽しそうに遊んでいた。


────いいな……。


それを見て、また悲しくなった俺が目を逸らすと、一緒に歩いていた母親が汗を掻きながらボソッと言った。


「 はぁ……。あの泥汚れ、洗濯するのが大変なのよねぇ……。

楽しいのは子供だけなんだから。全く~……。 」


そして更に "   俺がもっと小さい頃は洗濯が大変だった  "   と文句を言い出した母だったが、その時俺の脳天には、ピシャ────ン!!!と雷の様な衝撃が落ちていたため、母の不満は俺の耳には入らない。


汚れたモノは親を不幸にするものだ。

つまり親を悲しませる悪いモノ。


そう考えつくと、悲しい気持ちがス~……と消えていった。


平民の子供たちと遊んで汚れる事は悪い事。

だから俺は遊ばなくて良かった。

これが "   正しい  "  んだ!


そう思う事で、もう遊びたいという気持ちも心が痛む事も、綺麗サッパリと無くなった気がした。



俺が綺麗で美しいモノに、こだわり始めたのは、それから。



俺の中にはピカピカ光って綺麗なモノしかいれない。

汚いモノは何一つ入れてやるものか!


そう決意し、今まで羨ましいと見ているだけだった平民の子たちに対し、ツンッ!と顎を上げ、偉そうな態度で見下してやった。


俺は汚いモノが大嫌い。

だからお前たちとは遊んでやらないぞ!


断じて俺は寂しくなんてないんだからな!
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