上 下
1,203 / 1,315
第三十七章

1188 俺の夢

しおりを挟む
( ザップル )


「 保護された子供達は全員口を揃えて言っておったよ。


” ザップルがいつも助けてくれたから、今度こそ助けたい ” と。


お主はあやつらにとって ” 大恩人 ” で ” 大事な存在 ” になってしもうた。

じゃからこれから大変じゃぞ。


お主は自分を大事にしなければならん。なぜか分かるか? 」


「 ……ひっ……えぐっ……分から……ない……っ……。 」


ヒィヒィと喉を鳴らしながらそう答えると、ヘンドリク様は俺の頭を更に激しく撫で回した。


「 大事な人が傷ついたり、辛い思いをすれば、酷く傷つくからじゃ。

お主が今まで通り、己を犠牲にするやり方で周りを守った所で、傷つくお主を見て深く傷つく。

そしてまた無茶をしてでもお主を助けようとしてしまうじゃろうな……。


自分を大事にするのは、自分を大事に想ってくれる者達のために、絶対に守らなければならん事なんじゃ。 」



俺を助けるために< モーニング・スターベア >の前に立った仲間たち。

そして助けを呼ぶため、モンスターがいる様な道を走ってくれた仲間たち。


俺が無茶をすれば、また彼らはこんな無茶をしてしまうかもしれない。



俺はなんて重たい責任を背負ってしまったのだろう。



それに恐怖するのと同時に、今いる世界が……凄く綺麗なモノに見えたんだ。



そんな世界に立つ自分が俺は好きになって、そしてそんな美しい世界の一部である仲間たちの事も大好きになると、今まで見えていた濁った世界はキラキラと眩い程の光で溢れ────その美しい姿の全てを見せてくる。


そこに一緒に立って俺に手を差し出してくる仲間たちを見て、俺はそれを守りたいと心から望んだ。



「 俺は……俺はどうすれば、アイツらを傷つけないでいられますか? 」


不躾な質問だったが、ヘンドリク様は気を悪くした様子もなく、俺の頭から手を離す。


「 強くなる事じゃ。

自分に襲い来る脅威を全てぶっ飛ばしてやればいい。


簡単じゃろう? 」


ニヤッと笑うヘンドリク様を見て、俺は下を向いて、服の袖で乱暴に顔を擦った。


強くなること。

そうすれば俺は大事な人達を傷つけないで済む。


俺は自分の実体験から、美しい世界に存在するこの悲しい連鎖を断ち切りたいと、強く思った。


虐げられ、その鎖に縛られてしまう人達を救う。

それが ” 正しい ” 世界を作っていきたい。


それが、今この瞬間俺の夢になった。



でもその夢を叶えるには、俺は強くならなければならない。


そうしないと大事な人達を傷つけてしまうから。



明確な夢と決意を胸に顔を上げると、ヘンドリク様が俺の背中をバンバンと強く叩く。



「 さっ!早速行くぞぃ!

ザップルよ、お主の荷物はそれだけかのぉ?


まずは買い物からじゃな……。 」



「 は……?荷物は確かにこれだけですが……行くとは?? 」



孤児院で虐げられていた俺の持ち物は、下着が一着にボロボロのシャツとズボンが一着ずつだけ。

ヘンドリク様はヤレヤレと困った様に頭を掻きながら、ベッド脇の小さなテーブルの上に纏めてあったそれを手に取り俺に持たせると、さっさと歩き出した。


俺は理由が分からぬまま、慌ててそんなヘンドリク様の後について行く。


オロオロとしている俺を他所に、ヘンドリク様は治療をしてくれていた神官に「 今日退院するぞい。 」と伝え、呆れた様子の神官に半ば無理やりYESを言わせると、サッサと教会の出口へ向かってしまった。


呆気に取られながらも、俺は神官に「 今までありがとうございました! 」と頭を下げると、神官はニコッと困った様に笑う。


「 これからまたここに来る事がない様祈ってます。

神の祝福があります様に。 」


心からそう願ってくれたのが分かり、俺はもう一度頭を下げて心からのお礼を告げると、ヘンドリク様を追いかけ走り出した。


そして出口の扉の前でやっと追いついた俺の前で、突然ヘンドリク様はピタリと止まり、こちらを振り向く。

体力不足からハァハァと息を乱しながら、俺が ” なんだろう? ” とヘンドリク様を見返すと、ヘンドリク様はイタズラが成功した少年のような笑顔を見せた。


「 ワシはのぉ~結構冒険者として長く働いてきたが、この年まで受け持った弟子はたった一人だけじゃった。


自分の人生で得た力や教訓を伝えたいと、そう思える強者はとても少ない。


お主はその二人目となったわけじゃ。

ワシは厳しいぞ。ついてこれるな?ザップルよ。 」



ヘンドリク様の思ってもいない言葉に、俺はヒュッ!と喉を鳴らし、その後止まったはずの涙がまたボロボロと流れ出す。



「 ………っ…………は、はいっ……!!!! 」



感極まって一杯一杯な様子で返事を返す俺を見て、満足そうに微笑んだヘンドリク様は、出口の扉に手を掛けたが……もう一度ピタリと止まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...