上 下
1,202 / 1,370
第三十七章

1187 断ち切る者

しおりを挟む
( ザップル )

「 子供たちが保護されて直ぐに、冒険者たちがその男たちを捕まえ、徹底的に調べ尽くしたが、何とも非道な罪ばかりがゴロゴロと出てきてな……。


その常習性と残忍さ、そして罪悪感のなさから、ニコラ王はその判決を下したのじゃ。


ニコラ王から直接判決が言い渡された時、男たちは全員泣きながら土下座をして許しを乞うたが、ニコラ王の表情はピクリとも変わらんかった。 」


” 人を使い生きてきたのだから、最後は人のために使われる消耗品として人生を終えよ。 ”

そう言ってニコラ王はその判決を終わりとしたそうだ。


「 ……なんだかちょっと可哀想だな……。

そんなに泣いて反省しているのに……。 」


その男たちの様子に多少同情していると、ヘンドリク様がチッチッチッ!と指を振った。


「 そこが悪人と常人の大きな違いじゃ。


常人にとって謝罪する時の涙や土下座とは、相手を想うことで出るわけじゃが……悪人にとっては、単にその状況から逃れるための便利な道具にしか過ぎんのじゃよ。


だから悪人は直ぐに泣くし、土下座もする。

常人はそれを見て反省したのだと、自身の価値観からそう判断して許す。


しかしそれをしっかり見極めなければ、また新たに同じ犠牲者を出すだけなんじゃ。

しかも成功経験値を得て、今よりももっと進化した狡猾なやり方でな。 」


「 …………。 」


困った様に眉を大きく下に下げるヘンドリク様を見て、俺は自分の価値観の狭さを思い知る。

俺はもう少しで、新たな犠牲者を作ってしまう所だった……。


それにゾッ……としながら、俺は自分がどうすれば一番良かったのかを考えた。


「 俺は弱い……。

俺一人では何も変える事ができなかった……。


死にかけて……仲間たちを危険に晒して……もしかしたら、更に犠牲になる人を生み出していたかもしれない……。

ただの大馬鹿野郎です……。 」



” ただ正義感を振りかざすだけの偽善野郎。 ”



まさにその通りで、俺は俺の行動が自分の満足だけではなく、こんなにも沢山の人達を巻き込んでしまったと、後悔と罪悪感を持った。


自分を貫いて死んで……それで終わりじゃない。


じゃあ、俺はこれからどうしたらいいのだろう?


か細い声でボソボソと言う俺の話しを、ヘンドリク様は黙ってきた後、そういえば……と、今思い出したかの様に話し始めた。


「 お主達を虐げていた神官やその協力者共、そして冒険者の男たちは判決が出た瞬間、全く同じ事を口にしておった。

それが何か分かるか? 」


「 ……えっ?……えっと……。

 ” 俺はやってない ” とか ” 俺は悪くない ” とかでしょうか……? 」


悪人が大抵言いそうな言葉を予想し答えた俺に対し、ヘンドリク様はニヤ!と笑いながら、手でバツ印を作る。



「 ブッブ~!ハズレじゃ。

正解は────

 ” 自分たちだってずっと奪われてきた。それと同じ事をして何が悪い ” 

……じゃ。 」




” いつかは ” 奪う側 ” になって、こんなクソッタレな世界に復讐してやる ”


” 何の苦労もしたことねぇ幸せな奴らを利用して、全部奪い尽くしてやるってっ……そう思っていたのに……っ!!! ”



ヘンドリク様の言葉を聞いて思い浮かんだのは、< モーニング・スターベア >の前に立った仲間の一人が言っていた言葉だった。


神官やその協力者達、そしてあの冒険者の男たちも、昔はきっと ” 奪われる側 ” だった。


そして ” いつか ” が来て、今度は ” 奪う側 ” になり……世界に復讐していたのだろうか……。


「 …………。 」


神妙な顔で黙ってしまった俺を見ながら、ヘンドリク様は一旦間を置いて、話を続けた。



「 人間は基本はしてもらった事しか返せんのじゃよ。

酷い扱いをされた者が、他人に優しくしようとしても、その度に頭に過去の自分が過るんじゃ。


” 自分は酷い扱いをされたのに、なぜこいつは優しくして貰えるの? ” と。


そしてまるで何かに復讐する様に、他者を傷つけ過去の自分と同じにしたがる。

それで過去は消えぬし、自分を虐げてきた者たちに復讐できるわけでもないのに……。


気がつけば、かつて自分を虐げた者達と全く同じ姿になっているんじゃ。


この連鎖の鎖はとても強固で、中々切れん。

悲しい事にのぉ……。 」



ヘンドリク様は困った様子でため息をつきながら、座っている椅子の背もたれに深くもたれかかる。

しかし、次の瞬間、突然ガバッ!と身を前に出し、俺の方へ顔を近づけニカッ!と笑った。



「 しか~し!

そんな孤児院の子供たちの強固な連鎖の鎖を見事に断ち切ったのは、お主じゃ。

これは本当に凄い事なんじゃよ。


お主は強い。


たった一人でその偉業を成し遂げてしまったのじゃから!

ワシはお主に最大限の敬意をここに示そう。


よくやった、ザップルよ。 」


そう言われた瞬間、俺の目からはポロポロと涙がこぼれ落ち、そのまま止まらなくなってしまうと、更には押し殺せ無くなった嗚咽が口から漏れ出し、ひっ……ひっ……と潰れたカエルの様な声が漏れる。


ヘンドリク様は、そんな俺の頭をグシャグシャと撫で回した。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

処理中です...