上 下
1,192 / 1,315
第三十七章

1177 人生を楽しもう

しおりを挟む
( リゼル )


「 なるほどね~。確かに ” 結果が分かっているのに努力する。” 

その事に虚しさを感じる事はあるね。 」


” 自分より大人のセイ父さんを負かしてやったぞ! ”


肯定する姿勢を見せるセイ父さんに……今想えば恥ずかしさしかない優越感を抱き、俺はフフンっ!と胸を張る。


そして得意げになっていると、そんな事はお見通しなセイ父さんは続けて言った。


「 そうだなぁ……あくまで私の考えになってしまうけど、私にとっては死ぬ事も含めて、全ての ” 結果 ” は《 点 》なんだ。


そして《 点 》である ” 結果 ” に向かっていく過程が《 線 》。


つまり人生をそれに例えると、世に生まれた瞬間と死を迎える時が《 点 》

《 点 》と《 点 》を繋ぐ《 線 》がその人の人生という事になる。


そこまで分かるかな? 」



「 ?……う、うん。なんとなく……。 」



スイスイと手のジェスチャー付きで説明されて、何となく理解した俺が頷くと、セイ父さんは、そのまま右手と左手の間を目一杯横に伸ばす。


「 でね、それを図にすると、《 線 》が主体で、《 点 》はほんの一部だ。


私としては《 点 》を気にしすぎて大部分の《 線 》を楽しめないと勿体ないと思うんだよ。

生まれが~とか、どうせ死ぬんだから~とか、そう言わずに《 線 》を目一杯楽しむために、目一杯努力して目一杯沢山の事を経験して、良いも悪いも味わっておいた方がお得な感じがするんだ。

どうかな? 」


確かにそうかもしれない……。


そう思い、うっ……!と言葉に詰まってしまったが、それを認めたらセイ父さんに負けると感じた俺はキッ!!とセイ父さんを睨みつけた。



「 だ、だったら努力はいらないじゃん!

楽して楽しい事だけ《 線 》の中でしてた方が得って事だろ?

辛い努力をしている間が一番無駄な時間って事かよ。 」


「 ふ~む……確かに人生は楽しい方がいいかもね。


でもきっと毎日楽しいと楽しいって思えなくなっちゃうと思うよ。

心ってどんどん強欲になっちゃうからさ。 」


「 ────フンッ!俺みたいに外見も才能もそこそこのヤツは、目一杯人生楽しむ事はできねぇって言いたいんだろ!?


そうだよな~外見良くて顔が良くて頭がいいヤツは、毎日楽しいだけの得した人生送れるもんな!!


何が平等だよ、馬鹿らしい。

何の悩みも不満もない楽し~い人生送っているから、兄さんって何も言わないんだ。


何で兄さんばっかり……。

本当に兄さんは嫌なヤツだ!! 」



人が羨むモノを全て持ち、人生ハッピーに過ごす兄を思い出すと、ムカムカと怒りが再燃し始めた。


昔から兄さんは言われなくても何でもできたし、失敗したのを見たことがない。

ただ黙って淡々とやるべきことを要領よく終わらせ、人との不和もない兄は同世代の男にも女にも、年上にも年下にも尊敬されていて、ヨセフやセイ父さんに怒られた姿も見たことがなかった。


何かあれば泣いて怒鳴って感情を爆発させる俺とは違い、ただ静かに物事の解決を目指し、それを達成してしまう兄さんにどうしようもないコンプレックスが育っていく。

それって兄が恵まれているいい人生を送っているから、何も不満を漏らしたりとか怒りを現したりしないのだ。


そう確信しブチブチ文句を言ったが、セイ父さんは何とも困った顔を見せた。



「 ……その辺は何とも言えないなぁ。

モールはモールなりに悩みや苦しみがあって、でもそれをリゼルと違って表に出せないんだ。

モールは辛い時は一人で閉じこもりたい子だから……。

だから何も言わずにフラッとどこかへ行って帰ってこない時もあるだろう?


孤独でしか自分の心を癒せないのも個性だから受け入れるけど……親目線からみたらとても心配だ。

けど、ソッとしておくしかないからなぁ……。 」


う~ん……と考え込んでしまったセイ父さんを見て、俺はカッ!怒りの沸点が頂点に達してしまった。


” 父さんが兄さんを庇った! ”


” やっぱりセイ父さんも兄さんの方が大事なんだっ!! ”


兄さんを一緒に否定してくれないセイ父さんに、なんだか裏切られた様な気持ちになって、グルグルと怒りの感情が頭の中をぐるぐると回る。


こんなにも毎日八つ当たりの様な事をしているのに、セイ父さんはどこか100%俺の意見に賛同してくれると思っていた。


それなのに、兄さんが間違っている!と言ってくれない事にとても傷つき、俺は感情のままセイ父さんに怒鳴り散らす。



「 セイ父さんに兄さんの気持ちなんて分かるわけねぇじゃん!!


だってセイ父さんって、全然かっこよくない近所のオジさんみたいだし、凄い資質持ってるのに、全然戦えない弱虫だしさ!


人生を楽しめる様な様子ゼロのおっさんが偉そうに語るなよ!


セイ父さんにできるのは、俺の愚痴を聞くくらいだもんな~?


あ~良かった!!俺より格下の身内がいて!!

こんなカッコ悪い事、下のヤツにしか言えねぇもんな~! 」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...