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第三十七章
1172 ” 何か ”
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( リゼル )
セイ父さんの資質は俺と全く同じ【 聖闘人 】という戦闘系上級資質で、聖属性魔力を持つ事から、特殊系のモンスターとの戦いにおいて重宝される資質なのだが……セイ父さんは全ての戦闘系スキルが使えなかった。
” 恐らく心の適正がなかったんじゃないかな。”
そう言うヨセフいわく、セイ父さんは両親に恵まれず辛い子供時代を送っていたらしいが、それに対する怒りや憎しみはなく、だから相手を傷つける戦闘系のスキルは発現しなかったのだろうとの事だった。
そして、とうとう死ぬまで一つも使えなかったが、それについて悔やんだり悲しんだりもしなかったらしい。
「 そりゃ~そうさ。
セイ父さんはとても強い人だったからね。
資質は弱き人型種を憐れんだイシュル様が与えたモノなんだから、強いセイ父さんには必要なかったって事だろう。
そう思えば、俺達はまだまだ弱いって事かぁ~……。 」
「 ……ホントによく回る口だな。 」
しみじみと言う兄に、人生で何度目か分からないため息をつくと、しっかり教会に張られている< 結界陣 >に目を向けた。
これは現在聖兵士仲間であるクラークが張ったモノだ。
最初ここに着いた時、それに真っ先に気付いた俺は、直ぐにクラークがいる正門の方へ、団員たちを分けて向かわせようとしたのだが────突然幽霊の様に現れた兄に羽交い締めにされて、その行動を止められる。
「 ……なにすんだよ。 」
ジトッとした目で睨む俺を見ても、兄は平然とした様子で、人差し指を口つけて、し~……と囁いてきた。
「 今はソッとしておいた方が良い。
あっちは任せて大丈夫だから。 」
自信満々でそう言われ、仕方なく全員この裏門へとやってきたわけだが、本当に大丈夫か?と心配する俺と団員達を見て、兄は二コ~!と満面の笑みを浮かべる。
「 重いモノは全部置いてきたみたいだから平気平気~。 」
「 随分と変わっちゃって、あれではもう別世界だよ。
凄いな! 」
そんなわけの分からない事をペラペラと喋る兄に、俺達団員一同は ” またか……。 ” と大きくため息をついた。
兄の資質【 聖愛師 】はヨセフ程ではないが、どうやら人の心に干渉する様な能力を持っている様で、常人には見ることができない世界を見ている様だ。
そのため俺達としては理解はできないが……ただ、兄のこういった言葉は恐ろしい程当たる。
だからこそ、兄がこういった事を言い出した時には、その通りにしておいた方が良い。
それがこの【 第一聖兵士団 】の暗黙のルールなのだ。
そして現在、突然兄がまた遠くを見るかの様な目で何かを考え出したため、またわけの分からない事を言い出すかと、警戒しながら敢えて軽い感じで話しかけた。
「 何考え込んでんだよ。
やっぱりクラークのいる方向が気になるのか?
アゼリアが合流したみたいだが……やっぱり何人か行かせるか? 」
「 ……んん~??────あ、あぁ、アゼリアちゃんね。
あの子も随分と変わっちゃったよね~。
小さな ” 箱 ” しかなかったのに、今じゃそこら中に沢山のモノが作られていっているね。 」
やはり分けが分からないが、どうやら兄の頭を悩ませているのは、クラークやアゼリアの事ではないらしい。
じゃあ、一体何を考え込んでいるんだ?と思っていると、突然ブツブツと独り言の様な事を呟き始めた。
「 いや……彼らだけじゃないんだ。ガラリと変わったのは……。
世界一高い山よりも高いプライドを持った貴族の子供たちも、見えなくなりそうになっていた平民達や街の人達も……。
この変化は普通じゃない。
本来はそこまで ” 中 ” に干渉できるはずがないんだ。 」
「 ────はぁ??? 」
ますます意味が分からず、俺が聞き返すと、兄は大げさに肩をすくめてみせる。
「 ……少し前から、よくわからないモノがまるで散歩でもしているみたいに、そこら中に現れ始めたんだ。
フッと出てはフッと消える。
多分それが ” 道 ” を作ってる。
ヨセフも不思議がっていたけど、何となくその正体を知っているみたいで、一体誰かな?って思ってたんだけど、まさかあんな子供だったとはね。
俺には結構年を取っているおじいさんに見えたんだけど……。
う~ん……分からないな! 」
最後はハハッ!と笑う兄に、「 一番分からないのはお前だ。 」 といってやったのだが、次の瞬間、兄は恐ろしいくらいに真剣な表情になったため、俺はピタリと動きを止めた。
そして、戦闘時でも滅多にお目にかかれない兄の余裕のない様子に驚いていると、兄はボソボソと話し始める。
「 ……でも、一番分からないのは彼じゃない。
もっと分からないモノが、その隣にいた。
俺にはアレが恐ろし過ぎて、一度性教育の授業で見たきり一度も近づいていないよ。
まるで存在そのものが存在していない様な……何と言うか、この世に存在しているありとあらゆる定義が一つもない様な感じなんだ。
中は真っ暗で、どこまでもどこまでも続いていて…… ” 人 ” があんな場所で自我が保てるはずがない。 」
フルっと震える兄を見て、俺も団員達も初めて見る兄の姿に戸惑いを感じながら、続きをただ聞いていた。
セイ父さんの資質は俺と全く同じ【 聖闘人 】という戦闘系上級資質で、聖属性魔力を持つ事から、特殊系のモンスターとの戦いにおいて重宝される資質なのだが……セイ父さんは全ての戦闘系スキルが使えなかった。
” 恐らく心の適正がなかったんじゃないかな。”
そう言うヨセフいわく、セイ父さんは両親に恵まれず辛い子供時代を送っていたらしいが、それに対する怒りや憎しみはなく、だから相手を傷つける戦闘系のスキルは発現しなかったのだろうとの事だった。
そして、とうとう死ぬまで一つも使えなかったが、それについて悔やんだり悲しんだりもしなかったらしい。
「 そりゃ~そうさ。
セイ父さんはとても強い人だったからね。
資質は弱き人型種を憐れんだイシュル様が与えたモノなんだから、強いセイ父さんには必要なかったって事だろう。
そう思えば、俺達はまだまだ弱いって事かぁ~……。 」
「 ……ホントによく回る口だな。 」
しみじみと言う兄に、人生で何度目か分からないため息をつくと、しっかり教会に張られている< 結界陣 >に目を向けた。
これは現在聖兵士仲間であるクラークが張ったモノだ。
最初ここに着いた時、それに真っ先に気付いた俺は、直ぐにクラークがいる正門の方へ、団員たちを分けて向かわせようとしたのだが────突然幽霊の様に現れた兄に羽交い締めにされて、その行動を止められる。
「 ……なにすんだよ。 」
ジトッとした目で睨む俺を見ても、兄は平然とした様子で、人差し指を口つけて、し~……と囁いてきた。
「 今はソッとしておいた方が良い。
あっちは任せて大丈夫だから。 」
自信満々でそう言われ、仕方なく全員この裏門へとやってきたわけだが、本当に大丈夫か?と心配する俺と団員達を見て、兄は二コ~!と満面の笑みを浮かべる。
「 重いモノは全部置いてきたみたいだから平気平気~。 」
「 随分と変わっちゃって、あれではもう別世界だよ。
凄いな! 」
そんなわけの分からない事をペラペラと喋る兄に、俺達団員一同は ” またか……。 ” と大きくため息をついた。
兄の資質【 聖愛師 】はヨセフ程ではないが、どうやら人の心に干渉する様な能力を持っている様で、常人には見ることができない世界を見ている様だ。
そのため俺達としては理解はできないが……ただ、兄のこういった言葉は恐ろしい程当たる。
だからこそ、兄がこういった事を言い出した時には、その通りにしておいた方が良い。
それがこの【 第一聖兵士団 】の暗黙のルールなのだ。
そして現在、突然兄がまた遠くを見るかの様な目で何かを考え出したため、またわけの分からない事を言い出すかと、警戒しながら敢えて軽い感じで話しかけた。
「 何考え込んでんだよ。
やっぱりクラークのいる方向が気になるのか?
アゼリアが合流したみたいだが……やっぱり何人か行かせるか? 」
「 ……んん~??────あ、あぁ、アゼリアちゃんね。
あの子も随分と変わっちゃったよね~。
小さな ” 箱 ” しかなかったのに、今じゃそこら中に沢山のモノが作られていっているね。 」
やはり分けが分からないが、どうやら兄の頭を悩ませているのは、クラークやアゼリアの事ではないらしい。
じゃあ、一体何を考え込んでいるんだ?と思っていると、突然ブツブツと独り言の様な事を呟き始めた。
「 いや……彼らだけじゃないんだ。ガラリと変わったのは……。
世界一高い山よりも高いプライドを持った貴族の子供たちも、見えなくなりそうになっていた平民達や街の人達も……。
この変化は普通じゃない。
本来はそこまで ” 中 ” に干渉できるはずがないんだ。 」
「 ────はぁ??? 」
ますます意味が分からず、俺が聞き返すと、兄は大げさに肩をすくめてみせる。
「 ……少し前から、よくわからないモノがまるで散歩でもしているみたいに、そこら中に現れ始めたんだ。
フッと出てはフッと消える。
多分それが ” 道 ” を作ってる。
ヨセフも不思議がっていたけど、何となくその正体を知っているみたいで、一体誰かな?って思ってたんだけど、まさかあんな子供だったとはね。
俺には結構年を取っているおじいさんに見えたんだけど……。
う~ん……分からないな! 」
最後はハハッ!と笑う兄に、「 一番分からないのはお前だ。 」 といってやったのだが、次の瞬間、兄は恐ろしいくらいに真剣な表情になったため、俺はピタリと動きを止めた。
そして、戦闘時でも滅多にお目にかかれない兄の余裕のない様子に驚いていると、兄はボソボソと話し始める。
「 ……でも、一番分からないのは彼じゃない。
もっと分からないモノが、その隣にいた。
俺にはアレが恐ろし過ぎて、一度性教育の授業で見たきり一度も近づいていないよ。
まるで存在そのものが存在していない様な……何と言うか、この世に存在しているありとあらゆる定義が一つもない様な感じなんだ。
中は真っ暗で、どこまでもどこまでも続いていて…… ” 人 ” があんな場所で自我が保てるはずがない。 」
フルっと震える兄を見て、俺も団員達も初めて見る兄の姿に戸惑いを感じながら、続きをただ聞いていた。
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