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第三十六章
1163 最善案
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( グレスター )
大事な大事な ” 親友 ” のヨセフ。
憧れと尊敬と、そんなキラキラしたモノで一杯になっているその ” 場所 ” には、やはり君以外の人間が入る事はこの先一生ないだろう。
だからそんな大事な ” 親友 ” のために、役立たずである自分がしてあげられる事は、私という ” 悪 ” から彼を開放する事だけだ。
元家族を救った時と同じ様に……。
私という ” 悪 ” はヨセフが許してくれる事を成功体験として、ますます大きくなっていく。
そして────その ” 悪 ” は、いつかヨセフを飲み込んでしまうに違いない。
「 ……もう私に関わるな、ヨセフ。
眩しい程光輝く外の世界で生きていける君と、ここから動けぬ私とではこれから永遠に交わる事はないだろう。
さようなら、私の憧れの元親友ヨセフ。 」
こうして私はヨセフと永遠の別れを告げ、完全に違う道を歩み始めた。
まるで走馬灯の様に今までの人生が頭の中を駆け回った後、私は一瞬ハッ!と意識を取り戻す。
目の前には沢山の宙に浮かぶスクリーン。
そして周りにはパタパタと走り回る貴族達。
ここは王宮にある【 謁見の間 】
スクリーンを睨む様に見上げているニコラ王と、エドワード様。
それにメルンブルク夫妻に沢山の貴族達……。
私は今まで何をしていた……?
突然スクリーンから白く輝く様な光が視界一杯に広がったと思えば、ユラユラと穏やかな海に漂っていた自分の心が突然の大波に襲われた様な……とにかく一気に頭の中がクリアーになった。
あれは……呪いを完全に消し去る光……?
私はその急激な心の変化についていけず、ボンヤリしたままスクリーンを再度見上げる。
そこにはジェニファーだけではない。
沢山の他の子供達や神官たち、戦闘員達や街の人々全員が、人命を救おうと懸命に足掻いている姿があった。
そしてその場にはヨセフもいる。
────────ゾワッ!!!!!
今までまるで半分夢を見ていたかの様な意識の中、朧気な記憶が蘇り……全身に悪寒が走り、身を震わせた。
” 現実 ” が目の前に叩きつけられ、自分が協力しようとしていた事が、どの様な結果を招くのか────それが突然理解でき、頭が割れる様にガンガンと痛みだす。
その痛みに頭を抱えながら、恐怖でガタガタと震えた。
私は……私はなんて事をしてしまったのだ!!
己の罪に恐怖し、そのままギュッ!と目を瞑り、ブツブツと呟く。
嫌だ……。
嫌だ……。
駄目だ、駄目だ、駄目だ!!!
まるで子供が駄々をこねる様に、ただ心の中で叫んでいると、突然頭の中に ” 声 ” が響いた。
《 グレスター卿!!しっかりしなさい!
邪神の子の出現から、状況はどんどん悪くなる一方でしたが、Sランクモンスター共の出現により間もなく騒ぎも鎮火するでしょう。
全く……予想外の事ばかり起きて、本当に忌々しい! 》
その ” 声 ” の持ち主は、今回の作戦の首謀者の一人、公爵家メルンブルク家当主のカール様だ。
「 Sランクモンスター……? 」
私はまだボンヤリしている頭で、ボソッと言葉を反芻すると、以前カール様が言っていた事を思い出した。
” もしも万が一何か不測な事態があって、王の選択が遅れそうな場合は奥の手を用意しておきますので、作戦が失敗する事は絶対にないでしょう。 ”
自信満々でそう言っていた事を思い出し、慌ててスクリーン全体を再度見回すと……チラホラと映っている、異形のモノ達に一気に血の気が引く。
人の手には余る強さを持つ……Sランクモンスター!
そんなのが一匹でも街に出現すれば人はなすすべもなく全滅だ。
それが……複数体、しかも正門には……ドラゴンだとっ!!!??
ワナワナと震えながら尻もちをつき、後ろへズリズリと下がる。
全員 ” 死ぬ ”
ジェニファーもヨセフも、懸命に戦う罪なき人々も。
それが理解できると、カトリーナを失った時の、気が狂いそうな ” 悲しみ ” を思い出し、震えが止まらない身体を抱きしめた。
戦う者たち全員に人生があって、大事だと思い合う人がいる。
それを全て地獄に落とすのか。
その苦しみを知っている私が!
耐えられない程の衝撃を受け、愕然としていると、頭の中の ” 声 ” は更に話を続けた。
《 残念ですが……ご令嬢のジェニファー様の事は諦めるしかないでしょう。
彼女は貴方の献身的な ” 愛 ” を手ひどく捨てた裏切り者です。
あんなにも尽くしてきた貴方を捨てるなど……なんと酷いご令嬢なのでしょうね。 》
《 本当に酷い裏切りですわ。
” 愛 ” を裏切るなど、慈愛に満ち溢れたイシュル神は決して許さないでしょう。
だから、そんな裏切りの愛はここで捨てるべきです。
あぁ、安心なさって?
事が全て終わった後に盛大なパーティーを開くので、グレスター卿に相応しい美しい女性を沢山用意いたしますから。
そしてまた生ませればいいのです。
今度こそ貴方の ” 愛 ” を裏切らない完璧に ” 正しい ” 子供を。 》
「 あ……諦める……?
新しい子供……?? 」
カール様に続くのはその妻であるマリナ様。
マリナ様はまるで何一つおかしな事は言ってないかのように、ペラペラと弾む声で話し始めたが、そのあまりの歪んでいる内容に絶句してしまう。
この女は一体何を言っているのだろう……?
全く理解できずに混乱する私に、《 それはいい考えだね! 》と全面的に肯定するカール様。
更にもう一人、それに賛同する形で ” 声 ” が割り込んできた。
大事な大事な ” 親友 ” のヨセフ。
憧れと尊敬と、そんなキラキラしたモノで一杯になっているその ” 場所 ” には、やはり君以外の人間が入る事はこの先一生ないだろう。
だからそんな大事な ” 親友 ” のために、役立たずである自分がしてあげられる事は、私という ” 悪 ” から彼を開放する事だけだ。
元家族を救った時と同じ様に……。
私という ” 悪 ” はヨセフが許してくれる事を成功体験として、ますます大きくなっていく。
そして────その ” 悪 ” は、いつかヨセフを飲み込んでしまうに違いない。
「 ……もう私に関わるな、ヨセフ。
眩しい程光輝く外の世界で生きていける君と、ここから動けぬ私とではこれから永遠に交わる事はないだろう。
さようなら、私の憧れの元親友ヨセフ。 」
こうして私はヨセフと永遠の別れを告げ、完全に違う道を歩み始めた。
まるで走馬灯の様に今までの人生が頭の中を駆け回った後、私は一瞬ハッ!と意識を取り戻す。
目の前には沢山の宙に浮かぶスクリーン。
そして周りにはパタパタと走り回る貴族達。
ここは王宮にある【 謁見の間 】
スクリーンを睨む様に見上げているニコラ王と、エドワード様。
それにメルンブルク夫妻に沢山の貴族達……。
私は今まで何をしていた……?
突然スクリーンから白く輝く様な光が視界一杯に広がったと思えば、ユラユラと穏やかな海に漂っていた自分の心が突然の大波に襲われた様な……とにかく一気に頭の中がクリアーになった。
あれは……呪いを完全に消し去る光……?
私はその急激な心の変化についていけず、ボンヤリしたままスクリーンを再度見上げる。
そこにはジェニファーだけではない。
沢山の他の子供達や神官たち、戦闘員達や街の人々全員が、人命を救おうと懸命に足掻いている姿があった。
そしてその場にはヨセフもいる。
────────ゾワッ!!!!!
今までまるで半分夢を見ていたかの様な意識の中、朧気な記憶が蘇り……全身に悪寒が走り、身を震わせた。
” 現実 ” が目の前に叩きつけられ、自分が協力しようとしていた事が、どの様な結果を招くのか────それが突然理解でき、頭が割れる様にガンガンと痛みだす。
その痛みに頭を抱えながら、恐怖でガタガタと震えた。
私は……私はなんて事をしてしまったのだ!!
己の罪に恐怖し、そのままギュッ!と目を瞑り、ブツブツと呟く。
嫌だ……。
嫌だ……。
駄目だ、駄目だ、駄目だ!!!
まるで子供が駄々をこねる様に、ただ心の中で叫んでいると、突然頭の中に ” 声 ” が響いた。
《 グレスター卿!!しっかりしなさい!
邪神の子の出現から、状況はどんどん悪くなる一方でしたが、Sランクモンスター共の出現により間もなく騒ぎも鎮火するでしょう。
全く……予想外の事ばかり起きて、本当に忌々しい! 》
その ” 声 ” の持ち主は、今回の作戦の首謀者の一人、公爵家メルンブルク家当主のカール様だ。
「 Sランクモンスター……? 」
私はまだボンヤリしている頭で、ボソッと言葉を反芻すると、以前カール様が言っていた事を思い出した。
” もしも万が一何か不測な事態があって、王の選択が遅れそうな場合は奥の手を用意しておきますので、作戦が失敗する事は絶対にないでしょう。 ”
自信満々でそう言っていた事を思い出し、慌ててスクリーン全体を再度見回すと……チラホラと映っている、異形のモノ達に一気に血の気が引く。
人の手には余る強さを持つ……Sランクモンスター!
そんなのが一匹でも街に出現すれば人はなすすべもなく全滅だ。
それが……複数体、しかも正門には……ドラゴンだとっ!!!??
ワナワナと震えながら尻もちをつき、後ろへズリズリと下がる。
全員 ” 死ぬ ”
ジェニファーもヨセフも、懸命に戦う罪なき人々も。
それが理解できると、カトリーナを失った時の、気が狂いそうな ” 悲しみ ” を思い出し、震えが止まらない身体を抱きしめた。
戦う者たち全員に人生があって、大事だと思い合う人がいる。
それを全て地獄に落とすのか。
その苦しみを知っている私が!
耐えられない程の衝撃を受け、愕然としていると、頭の中の ” 声 ” は更に話を続けた。
《 残念ですが……ご令嬢のジェニファー様の事は諦めるしかないでしょう。
彼女は貴方の献身的な ” 愛 ” を手ひどく捨てた裏切り者です。
あんなにも尽くしてきた貴方を捨てるなど……なんと酷いご令嬢なのでしょうね。 》
《 本当に酷い裏切りですわ。
” 愛 ” を裏切るなど、慈愛に満ち溢れたイシュル神は決して許さないでしょう。
だから、そんな裏切りの愛はここで捨てるべきです。
あぁ、安心なさって?
事が全て終わった後に盛大なパーティーを開くので、グレスター卿に相応しい美しい女性を沢山用意いたしますから。
そしてまた生ませればいいのです。
今度こそ貴方の ” 愛 ” を裏切らない完璧に ” 正しい ” 子供を。 》
「 あ……諦める……?
新しい子供……?? 」
カール様に続くのはその妻であるマリナ様。
マリナ様はまるで何一つおかしな事は言ってないかのように、ペラペラと弾む声で話し始めたが、そのあまりの歪んでいる内容に絶句してしまう。
この女は一体何を言っているのだろう……?
全く理解できずに混乱する私に、《 それはいい考えだね! 》と全面的に肯定するカール様。
更にもう一人、それに賛同する形で ” 声 ” が割り込んできた。
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