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第三十六章
1162 私が ” 間違い ”
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( グレスター )
空っぽになっていた ” 最愛 ” の場所を覆い尽くす様に ” 最愛の娘 ” が心の中で大きくなっていき────とうとうすっぽりと ” 最愛 ” が飲み込まれてしまうと、そこは新たな場所になった。
不思議な感覚であった。
私が泣きながら ” 新たな場所 ” になったジェニファーを抱きしめると、ヨセフは安心した様に息を吐き出したが────……多分ソコは、ヨセフが思っていた場所と違っていたらしい。
この地獄を生きていける様に変化を果たした私は、きっとヨセフとセイさんと笑い合っていた頃の私とは別人になってしまっていた様だ。
それにヨセフが気付いたのは、それから少し経った頃。
私のせいで忙しくなってしまった仕事のしわ寄せのため、ヨセフも私も忙しくなっていた中、暇を見つけ私の家にヨセフが遊びに来てくれた時の事。
「 ……そのドレスはジェニファーが選んだモノか? 」
真っ赤なドレスを着たジェニファーを見てヨセフが尋ねる。
なぜそんな当たり前の事を聞くのだろう?
不思議に思いながら私は返事を返した。
「 ジェニファーは赤が一番好きなのだから聞くまでもないだろう? 」
するとヨセフは大きく顔を歪めて、悲しげな顔で私の顔を見てくる。
その理由は分からない。
カトリーナを失って、ジェニファーの姿がこの目にはっきり見えた日から、沢山今回の事について考えた。
” なぜ彼女を失ってしまったのかな? ”
それは、私が彼女の望むモノを与えられなかったからだ。
だからカトリーナは自分の足で欲しいものを手に入れるために世界中を駆け回り、望むモノを集め続ける羽目になった。
もしもあの時、私の手元に有り余るお金があったら?
直様商人に連絡を取り、入荷した宝石を届けてもらう事だってできたはず。
家にいても好きなモノを好きなだけ手に入れる事ができていれば────────カトリーナは死ななかった。
青ざめるヨセフと対称的に、私は満面の笑みを浮かべる。
そう、幸せになるにはお金が必要だったのだ。
貧しき者たちばかりを相手にしていた私に、有り余るお金などなかった。
それがダメだった。
私は綺麗に着飾っているジェニファーを見て、更に笑みを深くした。
私は今まで通り貧しき人々への慈善行為をする傍ら、裕福な貴族相手にも治療行為をする事で、沢山のお金を手に入れる様になっていた。
彼らは ” 特別 ” という言葉に弱く、ホイホイといくらでもお金を差し出してくる。
ちょっとした肌荒れを直して欲しいだの、リラックス効果のあるスキルを掛けて欲しいだの、とるに足らない依頼だというのに……。
そうして手に入れたお金で沢山のドレスやアクセサリーを買ってはジェニファーに贈るが、徐々に私の中で違和感が大きくなっていった。
大人しく本を読んで休日を過ごすジェニファー。
” どうして外に出て遊びたいと言わないのか?
いつも外に遊びに行こう!と誘ってくるのに……。”
控えめな服を好むジェニファー。
” なぜもっと派手なドレスを着たがらないのだろう?
いつもは真っ赤なドレスばかり着ていたのに……。 ”
白いバラを見て綺麗だと言うジェニファー。
” なぜ隣に咲く赤いバラが綺麗だと言わないのだろう?
だって赤いバラが一番好きだって言っていたのに……。 ”
その違和感はどんどんと蓄積していき、私の頭は混乱してしまい、それを感じる度に私はジェニファーに言った。
” 君は外にお出かけするのが好きだったよね? ”
” 君は赤いドレスが好きだよね? ”
” 君は赤いバラが一番好きなんだよね? ”
するとジェニファーは、何故か私を気遣う様な目で私を見上げ、コクコクと頷く。
それを見て私はホッ……と胸を撫で下ろした。
だからこれが私達の ” 普通 ” なのに、ヨセフの表情は固く、絞り出すような声で言う。
「 ジェニファーはカトリーナではない。 」と。
「 ???? 」
なぜヨセフは当たり前の事を言うのか?
全く理解できなかったが、ヨセフの言う事は全てが正しい。
だってヨセフは完璧な凄い人で私の憧れで……遥か上の世界の住人だから、ヨセフの言う事が理解できなくとも、ヨセフの言う事が ” 正しく ” そして私が ” 間違っている ”
分かってるんだよ。
「 私はね、沢山沢山考えたんだ。
何が悪かったのかって……。
あの日行かせなければよかったのか?とか、宝石が隣町に入荷しなければよかったのか?とか、沢山沢山……。
────いや、そもそも彼女と出会ってなければこんな思いをせずに人生を終われたのにとすら思ったよ。
だけど……。 」
私はもう一度ジェニファーへと視線を送る。
そして────その先にいる ” カトリーナ ” を見つめ、思わず目を細めた。
間違っている私を、優しいヨセフはきっと許してくれるだろうと思う。
しかし、それは彼が嫌悪する傲慢で自己陶酔である ” 許す ” 行為をずっとさせてしまう事になるという事だ。
空っぽになっていた ” 最愛 ” の場所を覆い尽くす様に ” 最愛の娘 ” が心の中で大きくなっていき────とうとうすっぽりと ” 最愛 ” が飲み込まれてしまうと、そこは新たな場所になった。
不思議な感覚であった。
私が泣きながら ” 新たな場所 ” になったジェニファーを抱きしめると、ヨセフは安心した様に息を吐き出したが────……多分ソコは、ヨセフが思っていた場所と違っていたらしい。
この地獄を生きていける様に変化を果たした私は、きっとヨセフとセイさんと笑い合っていた頃の私とは別人になってしまっていた様だ。
それにヨセフが気付いたのは、それから少し経った頃。
私のせいで忙しくなってしまった仕事のしわ寄せのため、ヨセフも私も忙しくなっていた中、暇を見つけ私の家にヨセフが遊びに来てくれた時の事。
「 ……そのドレスはジェニファーが選んだモノか? 」
真っ赤なドレスを着たジェニファーを見てヨセフが尋ねる。
なぜそんな当たり前の事を聞くのだろう?
不思議に思いながら私は返事を返した。
「 ジェニファーは赤が一番好きなのだから聞くまでもないだろう? 」
するとヨセフは大きく顔を歪めて、悲しげな顔で私の顔を見てくる。
その理由は分からない。
カトリーナを失って、ジェニファーの姿がこの目にはっきり見えた日から、沢山今回の事について考えた。
” なぜ彼女を失ってしまったのかな? ”
それは、私が彼女の望むモノを与えられなかったからだ。
だからカトリーナは自分の足で欲しいものを手に入れるために世界中を駆け回り、望むモノを集め続ける羽目になった。
もしもあの時、私の手元に有り余るお金があったら?
直様商人に連絡を取り、入荷した宝石を届けてもらう事だってできたはず。
家にいても好きなモノを好きなだけ手に入れる事ができていれば────────カトリーナは死ななかった。
青ざめるヨセフと対称的に、私は満面の笑みを浮かべる。
そう、幸せになるにはお金が必要だったのだ。
貧しき者たちばかりを相手にしていた私に、有り余るお金などなかった。
それがダメだった。
私は綺麗に着飾っているジェニファーを見て、更に笑みを深くした。
私は今まで通り貧しき人々への慈善行為をする傍ら、裕福な貴族相手にも治療行為をする事で、沢山のお金を手に入れる様になっていた。
彼らは ” 特別 ” という言葉に弱く、ホイホイといくらでもお金を差し出してくる。
ちょっとした肌荒れを直して欲しいだの、リラックス効果のあるスキルを掛けて欲しいだの、とるに足らない依頼だというのに……。
そうして手に入れたお金で沢山のドレスやアクセサリーを買ってはジェニファーに贈るが、徐々に私の中で違和感が大きくなっていった。
大人しく本を読んで休日を過ごすジェニファー。
” どうして外に出て遊びたいと言わないのか?
いつも外に遊びに行こう!と誘ってくるのに……。”
控えめな服を好むジェニファー。
” なぜもっと派手なドレスを着たがらないのだろう?
いつもは真っ赤なドレスばかり着ていたのに……。 ”
白いバラを見て綺麗だと言うジェニファー。
” なぜ隣に咲く赤いバラが綺麗だと言わないのだろう?
だって赤いバラが一番好きだって言っていたのに……。 ”
その違和感はどんどんと蓄積していき、私の頭は混乱してしまい、それを感じる度に私はジェニファーに言った。
” 君は外にお出かけするのが好きだったよね? ”
” 君は赤いドレスが好きだよね? ”
” 君は赤いバラが一番好きなんだよね? ”
するとジェニファーは、何故か私を気遣う様な目で私を見上げ、コクコクと頷く。
それを見て私はホッ……と胸を撫で下ろした。
だからこれが私達の ” 普通 ” なのに、ヨセフの表情は固く、絞り出すような声で言う。
「 ジェニファーはカトリーナではない。 」と。
「 ???? 」
なぜヨセフは当たり前の事を言うのか?
全く理解できなかったが、ヨセフの言う事は全てが正しい。
だってヨセフは完璧な凄い人で私の憧れで……遥か上の世界の住人だから、ヨセフの言う事が理解できなくとも、ヨセフの言う事が ” 正しく ” そして私が ” 間違っている ”
分かってるんだよ。
「 私はね、沢山沢山考えたんだ。
何が悪かったのかって……。
あの日行かせなければよかったのか?とか、宝石が隣町に入荷しなければよかったのか?とか、沢山沢山……。
────いや、そもそも彼女と出会ってなければこんな思いをせずに人生を終われたのにとすら思ったよ。
だけど……。 」
私はもう一度ジェニファーへと視線を送る。
そして────その先にいる ” カトリーナ ” を見つめ、思わず目を細めた。
間違っている私を、優しいヨセフはきっと許してくれるだろうと思う。
しかし、それは彼が嫌悪する傲慢で自己陶酔である ” 許す ” 行為をずっとさせてしまう事になるという事だ。
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