上 下
1,174 / 1,315
第三十六章

1159 肯定してくれる言葉

しおりを挟む
( グレスター )

日に日に弱っていくセイさん。

大事な人のその姿は、私に半狂乱になりそうなくらいの恐怖と不安、悲しみを与えた。


セイさんが死ぬ……?

もう二度と会えない……?


それをどうにか止めたくて、カトリーナと共に病に効くと言われているモノを探し出しては、セイさんに届けたが……彼は穏やかな笑みを浮かべたままイシュル神の元へと行ってしまった。


私は悲しくて悲しくて────生まれて初めて大声で泣き喚いた。

大事な人の ” 死 ” とはこんなにも苦しく、悲しいモノだったのか……!


それを理解すると、今まで何とも思わなかった ” 終わり ” が怖くて怖くて堪らなくなった。


ヨセフは今、きっと私以上の悲しみの中にいる。

だからしっかりしなければと分かっているのに、私は自分の悲しみでいっぱいいっぱいで……足を取られて動けない。



そうして馬鹿みたいに藻掻いている間に……なんとヨセフは周りを囲む沢山の大事な存在達によってしっかりと大地に足をつけ、見事に立ち直ってしまったのだ。


私はまたもや役立たずの名ばかり友人になってしまった。


遠くに行っていたはずの、自分に対する自己嫌悪と自己否定感が物凄い早さで戻って来て、私は私に絶望する。


私とヨセフの大きな差。


きっと私がヨセフの立場だったら────……。




────ゾッ!!!


それを思い浮かべた瞬間、私の足は力を失いガクガクと震えその場に尻餅をついてしまった。


怖い……。

怖い……。


怖い……!!



” 愛 ” とはなんて恐ろしいモノなんだろう……!!!



その日から、私にとっての ” 愛 ” は恐怖の対象として存在するようになった。


” 愛 ” はいつかくる ” 終わり ” を、恐ろしい程苦しいモノに変えるモノだ。



こんな苦しい想いをするなら、” 愛 ” など知りたくなかった!!


カトリーナは日に日に塞ぎ込む私を心配してくれたが、それが逆に私の心を追い詰める。


優しさが怖い。

これ以上、私の ” 愛 ” を大きくしないでくれ。


そう願いながら、表面上は普通に見える程度には自分の心を隠せる様になり、カトリーナや私を心配してくれた周りの者たちは、ホッとしていた様だが……ヨセフだけは騙されてくれなかった。



朝の日課のお祈りをしていた時の事。

その頃には、神に祈りを捧げることや慈善事業が、狂気に走ろうとする自分を唯一止めてくれるモノになっていた。


そして自分に贈られる ” ありがとう ” は、自身の恐怖を払うのに必要なモノへ形を変える。


自分というどうしようもない存在への絶望に、そのまま狂った様に笑っていると、突然教会内へ誰かが入ってきたのに気づく。


ヨセフだった。


私は自分への絶望感とヨセフへの罪悪感などで、彼を直視できなくなっていて、これがセイさんが亡くなって久しぶりの再会だ。


きっと冷たいヤツだと思われている。

何もかもが完璧なヨセフは、こんな最低な私をきっと許さない。


「 ヨセフは強いな。」


吐きそうな程心臓をバクバクさせながら、やっと出た言葉はソレ。


そう、ヨセフは強い。

初めて出会った時からそうだった。


自分と同じ ” 穴 ” を抱えながら、世の理不尽から目を逸らさず、真っ向から立ち向かっていたヨセフ。


私の憧れの人。


最愛の人を失っても、なおキラキラと輝き続けるヨセフを見ていられなくて、視線を逸らしイシュル神に向かって懺悔の言葉を吐き続ける。


そんな私をヨセフは静かに見つめ……きっと全て分かっていたのだと思う。

私の口から次々と飛び出していく八つ当たりの様な言い訳を、黙って聞いてくれた。


あぁ……また酷い事を言ってしまった。

まだセイさんを亡くして間もないヨセフに、私は……っ!!


後悔と罪悪は天井知らずに大きく高くなっていき、このまま消えてなくなりたいと思ったが……ヨセフは、何だか嬉しそうに笑いながら話し出す。


「 グレスター、悩む心にとって万能な治療薬があるんだが、それが何か知っているか? 」


「 ……?なんだろうか……。

その悩みの原因を解決する的確な解決法ではないか? 」


一体何の話だろうと首を傾げたが、とりあえず答えてみた。

するとヨセフは ” 悩む心には時間が必要だ。 ” と言い、そして────……。


「 君には『 時間 』が必要だと言う事だ。

カトリーナとジェニファーがいる幸せの居場所で過ごす『 時間 』が。 」


そう言って私の肩をポンポンと叩く。


その瞬間、私は救われた様な気持ちになってまるで幼子の様にボロボロと泣いてしまった。


ヨセフの言葉は私の存在を肯定してくれる言葉だったからだ。


歪んだ心を持っている自分。

” 愛 ” を素直に受け取れない自分。


そんな自分では嫌悪しか持てない自分を ” そのままでいい ” ” 間違ってない ” 。

ただ ” 時間 ” が必要なだけだと言ってくれたのだ。


「 ヨセフ……ごめん…ごめん……。 」


何度も何度も謝る私を見て、やはりヨセフは穏やかな笑みを浮かべたまま「 気にするな。 」とだけ言って静かにその場を去っていった。


こんなどうしようもない自分を救ってくれたヨセフに対し、また一つ罪悪の気持ちが芽生えたが、今はただヨセフが肯定してくれた自分を私も認めようと、そう思う。

私はヨセフが去ったドアに向かってそのまま長い事祈り続け、カトリーナとジェニファーが待つ家に帰った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...