上 下
1,163 / 1,315
第三十六章

1148 ” グレスター ”

しおりを挟む
( グレスター )

へたり込んだ床の冷たさも感じないまま、長い間スクリーンに浮かぶ我が最愛の娘、ジェニファーを見つめていた。

画像は混乱状況を語る様に安定しておらず、所々途切れてしまったり様々な違う場所が映ったりしているが、そこに映るジェニファーの顔は全て同じ。


初めて見る様な、強い意思を感じる目をしていた。


まるで別人の様に見える娘の姿。

” 何故? ”

” そうして? ”

そんな気持ちが心の大部分を締めていて……呆然と娘の姿を見続ける事しかできなかった。


ただ座っているだけで、欲しいモノは全て手に入る。

そんな夢の様に幸せな生活に背を向け、何故そんな死地へと向かうのか?


それが理解できずに、その場で頭を抱えた。


何が足りなかった?

何が悪かった?


そんな疑問がぐるぐると頭の中を回り、心の中はドス黒い ” 絶望 ” へと変わっていく。

このままではまた私の大事な存在が手の届かない場所に行ってしまう。

我が最愛の……今は亡き妻< カトリーナ >と同じ場所へ。





” グレスター ”


この名は私が生まれた貧しい農村で ” 豊作 ” を意味する言葉だ。


両親は揃ってその村の農夫をしていて、あまり実りの良くない土地だった故、我が家は非常に貧しかった。


両親と私、そして一つ下の弟。

家族四人がなんとか暮らしていける程度の生活で慎ましく暮らしていたが、私が小学院に入る前、モンスターによる被害で畑が大打撃を受けてそれすらも厳しくなってしまった。


踏み荒らされ、焼け焦げた畑の土と作物。

残されていたのは、僅かな収穫した野菜と備蓄のみ。


そんな状態になってしまった畑を見て、両親はある決断をした。


” 子供を一人捨てよう。 ”


勿論捨てるといっても、そのままポイッと森に捨てたりなどはしない。


この国には生活に困った親が厳正な審査の元、子供の親権を教会に移せるという【 親代わり制度 】というモノがあって、要は育てられない子供を一時的に教会に預かってもらうという子どもの救済制度だ。


ただしあくまで教会は ” 親代わり ” であるため、両親はいつでも子供に会いに来る事は可能。

更に生活が安定すればいつでも親権を戻す事ができるため、預けたとしてもだいたい八割程の両親が時間さえあれば子供に会いに来て、生活基盤が整えば子供を迎えにくる。


しかしその際には守らなければならないルールがあった。


その①:親権を両親に返還する際は、預けた年数分の定められた養育費を教会に返納する事。

その②:子供が個人で働ける年齢、準成人を迎えてからの親権の移動はできない。


これをクリアーしなければ、子供の親権を再度両親へ移せない。


これは準成人を迎える直前に、子どもの親権を取り戻したがる両親があまりに多かったための措置。

要は準成人まで教会に面倒を見てもらい、その後は養って貰おうと考える両親や、最悪の場合借金だけ押し付けて逃げてしまおうという非道な輩が多かったからだ。


本当に子供を捨てたくて捨てたわけじゃない親は、なんとか生活を整えてまだ養育費が少ない内に子供を迎えにくるが……そうでない親は、莫大に膨れた養育費を払ってまで子供を迎えには来ない。


その場合は子供の親権は教会のまま、親に利用される事なく自分の人生を歩んでもらおうという目的があった。


” 一時的に預けるだけ。 ”


” 生活が整ったら直ぐに迎えに来るから。 ”


ペラペラとそう私に説明した両親は、最後に ” すまない。グレスター。 ” と頭を下げ、その後ろには優越感に酔いしれた弟の姿がある。


両親はその選択に迷いがなかった。

なぜなら一歳下の弟には既に農夫としての才能が見え隠れしていたからだ。


弟が両親と同様の農業系の資質をもっている事は間違いなさそうで、そんな兆しなど1ミリも見られない私とでは、迷う要素が一切なかったのだ。


遺伝による要素が多いと言われている資質だが、稀に全く関係ない資質に恵まれる事があって、それを【 突発型資質 】というが、私は確実にそれに当てはまっていた。


確かに暑い日差しの中、畑でピンピンと動ける両親や弟達に比べ、私は体力も対してないし力も強くない。

重いものも持てないし、私が植えた作物の成長は遅かった。


しかし、身体は妙に丈夫で風邪などは引いたことがないし怪我をしても直ぐに治ってしまうため、親としては ” 役に立たない不気味な子供 ” と映った様だ。


その事から家庭内で居場所があった事は一度もない。


それに対し、理不尽な扱いへの不満や怒り、悲しみ、憎しみなどがあったかと言われれば……正直一切そんな感情はなかった。


唯一思う事は、” まぁ、仕方がない。 ” くらい。


貧しい村では子供もお手伝いと称しているが、立派な労働力だ。

いくらイシュル神様が子供は神の子であると言っても、結局は稼ぎがなければ共倒れ。

そのため健康で自営業を立派に継げる子が、この村に置いてはとても価値ある事だったから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...