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第三十六章

1147 最高の喜劇

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( マリナ )


『 カール……。 』


決意を込めて名を呼ぶと、カールはブツブツと呟き始める。


『 ……全く……嫌になるよ。

こうもお馬鹿な者たちばかりだと、管理するのが大変だね。

やはり他種族は劣化種だと、今、目の前で証明された。

一時の感情で動くケモノだよ、彼らは。 』


『 その通りね。
    
……もう、を使うしかないわ。

できれば使いたくなかったけど、仕方ないわね。 』


私がハァ……と大きなため息をつくと、カールも同様にため息をついた。


『 ” 代償 ” がかなり減ってしまうから、嫌だったんだけど仕方ない。

馬鹿な選択をした己自身のせいで犠牲が増えたと理解できるといいけど……まぁ、無理だろうね。


────さぁ、” 世界 ” の大掃除を始めようか。 』


カールは、もう一人の仲間へ合図を出した、すると────……。


ドカンッ!!!!

────ドンッ!!ドンッ!!!!ドドドド────っ!!!!


グリモアの街中、そして各門の周辺で大きな爆発が起き、ニコラ王や各国の王たち、そしてオルガノやアリシアを始めとする各貴族達は驚いた様子でスクリーンを見上げた。

そこはまだ濃い砂埃で視界が悪く何も見えないが……解析班の者がガクガクと震えながら声を上げる。


「 グ……グリモアの各所にて……新たなモンスター反応あり……。

これは……そんな……馬鹿なっ……!! 」


「 どうした! 」


尋常ではない様子の解析班に向かい、ニコラ王が声を上げたが……その瞬間砂埃が晴れ、” 現実 ” が姿を表した。


「 え……Sランクモンスター……!! 」


見たことがない様な醜悪で、恐ろしい姿をしているモンスター達の姿。

それを見たニコラ王は大きく顔を歪んで叫び、他の三カ国の王達も目を大きく見開く。


「 準備を急げ────!!! 」


ニコラ王は直ぐに、動きを止めた自国の者たちに向かって叫んだ。


【 Sランクモンスター 】は人の手に余る強さを持ったモンスター達へつけられる称号の様なモノ。

彼らはたまにフッ……と人里へ降りてきては人を喰らい、地を破壊し、満足すればまた魔素の濃い居心地の良い地へと帰っていく。


討伐するとなると、勿論実力の高い戦闘員達で形成される大部隊が必要となるのだが、それでも討伐の成功率はかなり低く、現状は追い返す事で精一杯といった状況が人型種の歴史上、長く続いていた。

人型種は沢山の犠牲の中、彼らの弱点や攻撃パターンを探り、そのお陰で討伐できた数としては数例に留まってはいるが、犠牲を最小限に押さえる事には成功している。


そんな中、エドワード様と私達エドワード派閥は、ある妙案を思いつく。


Sランクモンスターを捕獲し、なんとか使う事はできないか?と……。


そう考えた私達は、モンスターをおびき寄せる< 魔引力珠 >を使い、Sランクモンスター達を呼び寄せた。

そして莫大な金と捕獲用の魔道具や薬剤、強力な資質持ちの優秀な戦闘員と使い捨て用の犯罪奴隷、その全てを余すこと無く使って、最後はある特殊スキルを持っている我々の駒を使い大量に捕獲する事に成功したのだった。


しかし……あくまで捕獲しただけで、ソレを上手く使う事は非常に難しい。


パワー、スピード、守備力……全てのステータスが桁違いな上に、それぞれが特殊能力の様なモノを持っていて、現実的にそれをコントロールして使う事は不可能だった。


それこそ混乱した戦場下で、暴れされるくらいしか使い道がないと、そう思われていたのだが……。


私は、早速移動を始めたSランクモンスター達をスクリーン上で見つめながら、心の中でニヤッと笑う。


今回の計画では、最悪な場合の切り札として使えると考え、予めSランクモンスターを閉じ込めたモンスターボックスを多数仕掛けておいた。

もし、ニコラ王の選択が思ったよりも早く、犠牲が最小限となってしまった際の保険として使うつもりで。


” 呪災の卵 ” が消えても、Sランクが残っている限り、直ぐに討伐に向かうのはまず第二騎士団。

それで邪魔な第二騎士団を壊滅に追い込む。


そして更には沢山の防衛機関や戦闘機関を出動させれば、仮に追い払う事に成功したとしても戦闘員にも民間人にも多くの犠牲がでるだろう。


その責任は全て王の責任。


愛する者たちを失った悲しみ、憎しみは全てニコラ王に向き、私達はその隙を逃さずエドワード様を王へ押し上げるつもりだった。


使用目的はだいぶズレてしまったが……まぁ仕方ないでしょう。

現段階では今がSランクモンスター達を使うBESTなタイミング。


これなら証拠は全て ” 呪災の化け物 ” の能力によりゾクゾクと生まれていくモンスター増殖スキルが証拠を消し去ってくれる、まさにうってつけの状態だ。


心の中だけに隠していた笑顔は次第に現実へと現れ始め、また歪みそうになる顔を直ぐに扇子で隠した。


流石に街の住人を守りながらSランク複数を相手にする事は無理!

更にそのウチの一体はとびきりの強さをもったSSランクだ。

万が一でも ” 人 ” に勝機などない。


今までの不快や焦りなどの感情は吹き飛び、私は晴れやかな気分のまま冷静にスクリーンを見上げた。


後はゆっくり楽しみましょうか。

この命を使った最高の喜劇を。


私はフフッと笑いを漏らしながら、周りが悲鳴を上げたり、更にバタバタと忙しなくなる横で、そのまま上機嫌で成り行きを見守り始める。


そしてそんな緊迫した場で、ただ一人……大司教グレスターだけは、何をするわけでもなくへたり込んだまま、自分の娘が映っているスクリーンをただ見つめていた。
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