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第三十六章

1141 王に選択させる

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( マリナ )

「 カール。レイナとジュワンに連絡を。

とにかく情報を把握してこちらも動かなければ、邪神に勝つことはできないわ。

いざという時に用意した切り札をこちらも使っていきましょう。 」


「 ────っ!!!そうだったね。マリナの言う通りだ。


……王はもはや邪神による洗脳で狂人へと成り果てた。

この場の者達も同様にね。

早く ” 正しき世界 ” に戻して、全員に天罰を下してやらないと。 」


直ぐにカールは片目を閉じて、そのままスキルを発動する。



< 魔突騎士の資質 >(シークレット固有スキル)

< 蜘蛛の細糸 >

あらかじめ認定した人物達と細い意識の糸を繋ぎ、その人物達の視覚、聴覚が捉えた情報をリアルタイムで覗く事ができる諜報系スキル

さらに思念による会話も可能であるため、連絡手段としての活用は多い

魔力によりその距離が、魔力操作によりその精度が決まる

(発現条件) 

一定以上の魔力、魔力操作、非情、冷静、合理思考を持つこと

一定回数以上の嘘を他者につき、それが成功している事



そしてカールは、視線を一瞬下げた後、直ぐにホッ……と息を吐き出した。


どうやらまだ設置した< 聖浄結石 >は無事の様だ。

私もその事が分かって胸を撫で下ろすと、カールは思念による会話チャンネルを開き、私の頭の中で話し始める。


『 まだ今のところ< 聖浄結石 >に異常はない様だね。

四つの内二つはジュワンとレイナに守らせているから、こちらはドノバンやユーリスレベルのヤツが向かわなければ大丈夫だろう。

そんな実力者は、現在溢れるモンスター共のお相手で忙しいから何の問題もない。


しかし……思った以上に戦力が整っているね。

やはり孵化するまで時間が掛かりすぎたようだ。


────全く……なんて忌々しいっ! 』


カールからの怒りや憎しみの感情が糸を通して伝わってくる。

それは私も同じ気持ちだ。


『 そうね……計画では、一ヶ月持たないと思っていたのに、1年弱も掛かってしまったものね。

その間に戦力が整ってしまって面倒な事になったわ。

で、いつ頃< 聖浄結石 >を使うの? 』


『 ギリギリまで待とう。

王に選択させなければ、こちらが断罪される側になってしまうからね。

幸いあの呪いの蝶には、モンスターを無限に生み出すといううってつけの能力がある。

だからまずは、戦況が傾きかけた瞬間に、仕掛けておいたモンスターボックスでトドメをさそう。

街が内側から壊されてしまえば、王は選択せざるを得ないからね。 』


” 王に選択させる事 ”

これは絶対に必須な事で、罪なき大勢の命を奪ってしまったという罪悪感により、王の精神を破壊する。

そうすれば、今後の行動は更にしやすくなるというもの。


ニコラ王は、” 悪 ” に対して非常に無情で、絶対に許すことはない人物だ。

だからこそ、自分がその ” 悪 ” になってしまえば、ニコラ王の世界は壊れる。


────フッ……。

私は扇子の下で笑みを零した。


迷う暇を与えず、内側から防壁を壊す。

そして後はモンスター達が勝手に証拠を食らってくれるので、後は壊れた王相手ならいくらでも偽装できるはず。


────勝った!

勝ちを確認し、笑みを浮かべながらカールに答えた。


『 タイミングと状況次第では、” ソフィア王女 ” が命を掛けて国を救ったというシナリオ外の結果になってしまうので、慎重にいきましょう。 』


もう一人の面倒な行動を起こした日和見姫に苛立ちながらそう言うと、カールからもイライラした不快な感情が伝わってきたが、私達は感情を消し去りお互い頷き合う。


そうしてタイミングを逃さぬ様、バタバタと動き回る愚か者達を冷ややかな目で見つめていたが、突然、カールから大きく動揺したような感情が伝わってきた。


『 どうなさったの? 』


冷静にそう尋ねると、カールは必死に己の感情を押さえながら答える。


『 ……ちょっとね……邪魔なハエ虫の様な輩がチョロチョロとうっとおしく飛び始めて……っくそっ!!!面倒なゴミ共めぇぇぇぇ────!!! 』


らしくない態度で怒鳴り散らすカールを見て、一体何が起きたのかと胸騒ぎがした私は、カールのスキル< 蜘蛛の細糸 >をジャックし、そこから見える情報を盗み見た。


< 魔麗術士の資質 >(シークレット固有スキル)

< 暴かれる心庭 >

一定以上自身に対する好感度を持つ相手にのみ発動できる精神干渉系スキル

その者の精神に入り込み、ありとあらゆる情報を得る事ができるが、消費魔力量が多いので乱発は難しい

魔力量により使用時間が、魔力操作によりその精度と距離が決まる

(発現条件) 

一定以上の魔力、魔力操作、魅力、誘惑した経験値、を持つこと

一定人数以上の人間からの好意を向けられた経験値があり、一定以上の話術をもって相手の感情を揺さぶった経験がある事

一定回数以上の嘘をつき、人を騙した成功体験を持つこと



ジャックした視界から見えたのは、< 聖浄結石 >を守る私達の駒達と、それに対峙する人物達の姿で、その中にはカルパスの姿もあった。


あくまでも私達に逆らうつもりか!!

あの恩知らずの飼い猫がっ!!!


あまりの事にカッ!!とし、扇子を持つ手に力が入る。
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