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第三十五章

1128 暗くなっていった理由

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( マービン )

「 グリム、スワン。俺はこれからグリモアに戻る。

次期当主として、ここで逃げ出し辺境伯< ライロンド >家の名誉を汚すわけにはいかないからな。

だが、お前たちにはそこまでの責任はない。

だからこのまま二人は避難し、共に避難してきた貴族の同志たちを落ち着かせてくれ。

突然の出来事におそらく場はパニックになるだろうからな。 」


二人は俺の言葉の意味を理解したのか、硬い雰囲気の中、沈黙の時間が続いた。

そしてそれから少し経った後、スワンがゆっくりと口を開く。


「 ……俺の家< ダックス >家は代々防衛戦で最前線で戦う優秀な兵達を産出してきた家です。


俺はそんな祖先達を誇りに思い、将来は防衛戦の前線で戦う事を夢に見てきました。


─────ですが……俺が5歳くらいの時に、かなり強引な方法でマービン様の側近になる事が決まりました。

両親の思い詰めた様な様子から、これは断れない決定事項なのだと子供心に理解しましたよ。

そうして一つの夢はここで消えてしまいましたが、それでもマービン様と出会って楽しかったから、俺は新たな夢を得ました。


” これからは側近としてマービン様を支えよう ” と。


しかし……ある日、ルィーン様に言われた事でそれがグチャグチャになりました。 」


淡々と話始めたスワンだが、よく見れば震える手をギュッと握りしめて、なんとかそれを隠そうとしている事に気付いた。


「 ……一体何を言われた? 」


スワンの動揺する様子に気づかない振りをしながら、冷静に尋ねると。スワンは一度息を大きく吐き出してからそれに答える。


「 ” 【 城塞士 】は種を守るのに特化した資質だから、マービンの代わりに死んでくれる消耗品が近くにいてついてた。

実力なんてどうでもいい。

お前の役目はマービンの身代わりに死ぬことだけ。

心配しなくても大丈夫よ。

一つ消耗品が消えた所であと3つは替えがあるから。 ” と。


……俺には姉と、まだ幼い双子の妹達がいます。

俺が死んだり、気に入らないと言われれば、次は姉と妹達が犠牲になる。

そのため俺は今までマービン様の気に触らない様、必死に仕えてきました。 」


先祖代々受け継いできた誇り……その全てをグチャグチャに踏み荒らす酷い言葉の数々。


” 俺の身代わりの消耗品。 ”

” 死ねば姉妹が身代わりになる。 ”


よくそんな酷い事が言えたモノだと逆に感心してしまう程だ。


言い終わって下を向いてしまったスワンを見て、俺は何も言えずに口を閉ざす。


スワンの両親は、自分の息子に対しそんな事を言われて本当は嫌で嫌で仕方がなかったのだろうが、身分を盾にされて逆らう事はできなかったに違いない。

それこそ他にも子供達がいるなら尚更……。


シーン……としてしまったその場で、次に口を開いたのはグリムだった。

グリムとスワン同様、震える手を握りながらポツリポツリ……と話し出す。


「 俺の家もスワンとほとんど同じです……。

我が< ストリング >家は、薬膳の名家で、代々あらゆる不調に対して自然治癒を目指し薬膳を作っては、王族や貴族に対し様々なサポートをしてきました。

それが突然マービン様の側近にとルィーン様に命じられたんです。

両親は戸惑いながら、” 側近に適していると言えない能力だから ” と、ルィーン様に申し上げましたが、強引に……。

その時、ルィーン様は俺と両親にこういいました。 」


よほど言いにくい内容なのか、グリムは一旦言葉を切って、顔を大きく歪めながら続きを話
した。


「 ” 毒はいいわね。特に自然毒は。

検出されにくいから、自然死で片付ける事ができるものね。

大輪には汚らしい害虫が自ずと寄ってくるもの……だから害虫駆除をしてくれるモノを用意しないと。

二つの内どちらでも構わないわよ。 ” と……。


俺には弟が一人いて……虫も殺せぬとても優しい子なんです。

だから俺が……。


でも、いつかこの手で……本来は人を救うための……ご先祖様達が必死で創り上げてきた技術で人を……と思うと、毎日怖かった……。 」


片手で顔を覆い、大きく息を吐き出すグリム。


それを聞いて、俺は二人の笑顔がどんどん暗くなっていった理由を知る。

俺は俺の悲しみしか見て無くて、二人の苦しみなど気づきもしなかった事を、心から悔やんで後悔した。


こんな大事にしてきた家の誇りを粉々に砕かれ、更に人間扱いすらされぬ消耗品として、二人は家のため、家族のためにと感情に蓋をして今まで俺の側にいてくれたのだ。


これが【 空っぽの王様 】の理由。

心を持たぬ消耗品として ” 人 ” を自分の側に置くことで出来上がる王様か。


自分の今までしてきた事の罪深さをまた一つ知り、言葉を失くして項垂れていたが 「 でも────……。 」と、グリムが今までとは違う……まるで自分の事を探る様な言い方で続きを話し始めた。


「 昔はそれでも楽しかったなぁ……。

まだこんなに擦れてない時は。


……でも俺は、いつの間にかマービン様に暴言を吐かれている奴らを見て、胸がスカッ!とする想いを抱くようになっていました。


” こいつは俺よりもっと可哀想なヤツなんだ。 ”

” こいつより自分の方が幸せなんだ ” って……。


俺はそんな最低で小さい人間です。 」

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