1,141 / 1,315
第三十五章
1126 血まみれの上に立つ者達
しおりを挟む
( マービン )
────────ハッ!!!
突然浮上した意識は現実へ。
今座っているのは馬車の中で、目の前には青ざめたままガタガタと震えるグリムとスワンがいて、その様子からも時間が全く経っていない事に気づく。
・・・
なんだか随分長い間、あそこにいた様な気がするのだが……。
感覚のズレを不思議に思いながら、俺は自分の今までの人生を振り返った。
愛されなかった自分が過ごしてきた日々。
その思い出の中で、俺に向かって笑顔で拍手する母と兄と、俺を褒め称え、欲しい言葉だけを贈ってくれる人々の姿。
その全てはドロドロと形が崩れ始め─────元楽園にいた肉の塊の姿へと形を変える。
・・・・・
俺はずっとあんなモノに愛を乞うていたのか。
くくっ……。
思わず笑いを漏らすと、今にも泣き出しそうな顔をしていたグリムとスワンが、不思議そうに俺を見るが、笑いは止まらない。
俺は生まれて初めて、今まで母達に ” 見て ” 貰えなかった事に感謝し、俺は自分の胸の中に入れたいと願うモノについて考えた。
それを手に入れるためには、逃げるわけにはいかない。
一つの選択肢を選んだ俺は、窓の外に広がる黒い世界を睨みつける。
世界を飲み込む勢いで広がる黒い空。
これは【 空っぽの王様 】達が成し遂げようとしているシナリオの序曲だ。
そして─────……。
俺は続けてグリモア上空に浮かぶ大きな蝶の形のモヤを睨みつける。
あいつはそのシナリオを進めてくれる、奴らの ” 神様 ” だ。
” 呪災の卵 ”
その正体に気付いた、今。
やっと奴らの……母の狙いが分かった。
一つの巨大大国の半分を消し去った呪いの化け物を倒す方法は一つだけ。
つまり母達は、ソフィア様の命か大勢の人間の命を捧げる事を王に選択させる。
そしてどちらを選んだとしても、それを最大限に生かして王を失脚させるつもりだ。
犠牲が出た時点で、その恨みを持つもの達の矛先はその選択をしたモノ、つまり王に向くため、後は────簡単というわけか……。
ゾッ……とするほど、冷酷で残酷な方法をなんでもないかの様に実行する母達。
その恐ろしさを考えれば、なぜ人の想いを形にした ” 呪い ” が強大なのかが分かってしまう。
俺はポスンッ……と座席の背もたれに深くもたれかかり、大きく息を吐き出すと、母やその首謀者達に対し激しい怒りの感情が湧く。
なんてものを持ち込んだんだ……!!
俺にはここまでして自分の理想を手に入れたい気持ちが理解できない。
そのままカッカとしていると、突然グリムがか細い声で喋りだした。
「 お……俺の両親は……こんな恐ろしい事に協力していたのですね……。
そ……そんな……嘘だ……。
両親が……こんな……っ!! 」
グリムは言いながら耐えられなくなったのか、口元を押さえ、そのまま窓の外に向かって盛大に吐き出してしまう。
そんなグリムを見て、スワンは吐きはしないが気分が悪そうに口元を押さえて震えていた。
今、二人の頭の中には優しく愛してくれた両親との思い出と、目の前に突きつけられた現実が瞬間に入れ替わり立ち替わり、頭の中をぐるぐると回っているのだろう。
自分をこの世に生み出してくれた絶対的な存在を疑うのは本当に辛い事だ。
俺はそんな絶望的な顔で頭を抱えている二人を落ち着かせるため、声を掛けた。
「 二人とも落ち着け。
恐らく二人の両親は実際に何が起こるのかは知らなかったはずだ。
以前スワンが話していた内容からもそれは間違いないだろう。
……あいつらは秘密が大好きだからな。 」
「 そ、そうでしょうか……? 」
「 …………。 」
二人は表情こそ硬いものの、多少は落ち着いた様子を見せる。
恐らく実際に何が起こるのか知っていたのは、エドワード派閥でも上の層の者達のみのはず。
これは母もよく使う手だから、俺は確信していた。
” 何が起こるか分からないが、何やらよくない事が起こる。 ”
それを匂わせつつ、それを回避する情報だけを秘密裏に相手に与えれば、確証がなくとも人は必ずそれを回避しようとするだろう。
そしていざ事が起きれば、自分だけが助かったという罪悪感や、人によっては自分は選ばれた側の人間だと喜ぶ者達もいるだろうが、それらの感情を最大限に使って、その者達を囲いこむのだ。
全てが終わってから話され、現状自分が助かっていることから、もう ” 知らなかった ” と逃げる事はできずに永遠にその秘密に縛られる。
汚いやり方に反吐が出そうだ。
俺はチッ!と舌打ちをし、今回の母をも超える、残忍で冷酷な黒幕達について考えた。
血に濡れた旗を持ち、沢山の死体の山々の上に堂々と立つ男の姿と、その近くで必死に戦い死に絶えた者達の死骸を指差し、楽しそうに笑う美しい男女の姿。
あいつらがこんな悪魔の様な計画を思いついた張本人だ。
────────ハッ!!!
突然浮上した意識は現実へ。
今座っているのは馬車の中で、目の前には青ざめたままガタガタと震えるグリムとスワンがいて、その様子からも時間が全く経っていない事に気づく。
・・・
なんだか随分長い間、あそこにいた様な気がするのだが……。
感覚のズレを不思議に思いながら、俺は自分の今までの人生を振り返った。
愛されなかった自分が過ごしてきた日々。
その思い出の中で、俺に向かって笑顔で拍手する母と兄と、俺を褒め称え、欲しい言葉だけを贈ってくれる人々の姿。
その全てはドロドロと形が崩れ始め─────元楽園にいた肉の塊の姿へと形を変える。
・・・・・
俺はずっとあんなモノに愛を乞うていたのか。
くくっ……。
思わず笑いを漏らすと、今にも泣き出しそうな顔をしていたグリムとスワンが、不思議そうに俺を見るが、笑いは止まらない。
俺は生まれて初めて、今まで母達に ” 見て ” 貰えなかった事に感謝し、俺は自分の胸の中に入れたいと願うモノについて考えた。
それを手に入れるためには、逃げるわけにはいかない。
一つの選択肢を選んだ俺は、窓の外に広がる黒い世界を睨みつける。
世界を飲み込む勢いで広がる黒い空。
これは【 空っぽの王様 】達が成し遂げようとしているシナリオの序曲だ。
そして─────……。
俺は続けてグリモア上空に浮かぶ大きな蝶の形のモヤを睨みつける。
あいつはそのシナリオを進めてくれる、奴らの ” 神様 ” だ。
” 呪災の卵 ”
その正体に気付いた、今。
やっと奴らの……母の狙いが分かった。
一つの巨大大国の半分を消し去った呪いの化け物を倒す方法は一つだけ。
つまり母達は、ソフィア様の命か大勢の人間の命を捧げる事を王に選択させる。
そしてどちらを選んだとしても、それを最大限に生かして王を失脚させるつもりだ。
犠牲が出た時点で、その恨みを持つもの達の矛先はその選択をしたモノ、つまり王に向くため、後は────簡単というわけか……。
ゾッ……とするほど、冷酷で残酷な方法をなんでもないかの様に実行する母達。
その恐ろしさを考えれば、なぜ人の想いを形にした ” 呪い ” が強大なのかが分かってしまう。
俺はポスンッ……と座席の背もたれに深くもたれかかり、大きく息を吐き出すと、母やその首謀者達に対し激しい怒りの感情が湧く。
なんてものを持ち込んだんだ……!!
俺にはここまでして自分の理想を手に入れたい気持ちが理解できない。
そのままカッカとしていると、突然グリムがか細い声で喋りだした。
「 お……俺の両親は……こんな恐ろしい事に協力していたのですね……。
そ……そんな……嘘だ……。
両親が……こんな……っ!! 」
グリムは言いながら耐えられなくなったのか、口元を押さえ、そのまま窓の外に向かって盛大に吐き出してしまう。
そんなグリムを見て、スワンは吐きはしないが気分が悪そうに口元を押さえて震えていた。
今、二人の頭の中には優しく愛してくれた両親との思い出と、目の前に突きつけられた現実が瞬間に入れ替わり立ち替わり、頭の中をぐるぐると回っているのだろう。
自分をこの世に生み出してくれた絶対的な存在を疑うのは本当に辛い事だ。
俺はそんな絶望的な顔で頭を抱えている二人を落ち着かせるため、声を掛けた。
「 二人とも落ち着け。
恐らく二人の両親は実際に何が起こるのかは知らなかったはずだ。
以前スワンが話していた内容からもそれは間違いないだろう。
……あいつらは秘密が大好きだからな。 」
「 そ、そうでしょうか……? 」
「 …………。 」
二人は表情こそ硬いものの、多少は落ち着いた様子を見せる。
恐らく実際に何が起こるのか知っていたのは、エドワード派閥でも上の層の者達のみのはず。
これは母もよく使う手だから、俺は確信していた。
” 何が起こるか分からないが、何やらよくない事が起こる。 ”
それを匂わせつつ、それを回避する情報だけを秘密裏に相手に与えれば、確証がなくとも人は必ずそれを回避しようとするだろう。
そしていざ事が起きれば、自分だけが助かったという罪悪感や、人によっては自分は選ばれた側の人間だと喜ぶ者達もいるだろうが、それらの感情を最大限に使って、その者達を囲いこむのだ。
全てが終わってから話され、現状自分が助かっていることから、もう ” 知らなかった ” と逃げる事はできずに永遠にその秘密に縛られる。
汚いやり方に反吐が出そうだ。
俺はチッ!と舌打ちをし、今回の母をも超える、残忍で冷酷な黒幕達について考えた。
血に濡れた旗を持ち、沢山の死体の山々の上に堂々と立つ男の姿と、その近くで必死に戦い死に絶えた者達の死骸を指差し、楽しそうに笑う美しい男女の姿。
あいつらがこんな悪魔の様な計画を思いついた張本人だ。
164
お気に入りに追加
1,993
あなたにおすすめの小説
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話
バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。 そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……? 完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公 世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる