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第三十五章

1126 血まみれの上に立つ者達

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( マービン )


────────ハッ!!!


突然浮上した意識は現実へ。


今座っているのは馬車の中で、目の前には青ざめたままガタガタと震えるグリムとスワンがいて、その様子からも時間が全く経っていない事に気づく。

          ・・・
なんだか随分長い間、あそこにいた様な気がするのだが……。


感覚のズレを不思議に思いながら、俺は自分の今までの人生を振り返った。


愛されなかった自分が過ごしてきた日々。

その思い出の中で、俺に向かって笑顔で拍手する母と兄と、俺を褒め称え、欲しい言葉だけを贈ってくれる人々の姿。


その全てはドロドロと形が崩れ始め─────元楽園にいた肉の塊の姿へと形を変える。

     ・・・・・
俺はずっとあんなモノに愛を乞うていたのか。




くくっ……。


思わず笑いを漏らすと、今にも泣き出しそうな顔をしていたグリムとスワンが、不思議そうに俺を見るが、笑いは止まらない。


俺は生まれて初めて、今まで母達に ” 見て ” 貰えなかった事に感謝し、俺は自分の胸の中に入れたいと願うモノについて考えた。


それを手に入れるためには、逃げるわけにはいかない。


一つの選択肢を選んだ俺は、窓の外に広がる黒い世界を睨みつける。



世界を飲み込む勢いで広がる黒い空。


これは【 空っぽの王様 】達が成し遂げようとしているシナリオの序曲だ。


そして─────……。



俺は続けてグリモア上空に浮かぶ大きな蝶の形のモヤを睨みつける。


あいつはそのシナリオを進めてくれる、奴らの ” 神様 ” だ。


” 呪災の卵 ”

その正体に気付いた、今。

やっと奴らの……母の狙いが分かった。


一つの巨大大国の半分を消し去った呪いの化け物を倒す方法は一つだけ。


つまり母達は、ソフィア様の命か大勢の人間の命を捧げる事を王に選択させる。

そしてどちらを選んだとしても、それを最大限に生かして王を失脚させるつもりだ。


犠牲が出た時点で、その恨みを持つもの達の矛先はその選択をしたモノ、つまり王に向くため、後は────簡単というわけか……。


ゾッ……とするほど、冷酷で残酷な方法をなんでもないかの様に実行する母達。

その恐ろしさを考えれば、なぜ人の想いを形にした ” 呪い ” が強大なのかが分かってしまう。



俺はポスンッ……と座席の背もたれに深くもたれかかり、大きく息を吐き出すと、母やその首謀者達に対し激しい怒りの感情が湧く。


なんてものを持ち込んだんだ……!!

俺にはここまでして自分の理想を手に入れたい気持ちが理解できない。


そのままカッカとしていると、突然グリムがか細い声で喋りだした。


「 お……俺の両親は……こんな恐ろしい事に協力していたのですね……。

そ……そんな……嘘だ……。

両親が……こんな……っ!! 」


グリムは言いながら耐えられなくなったのか、口元を押さえ、そのまま窓の外に向かって盛大に吐き出してしまう。

そんなグリムを見て、スワンは吐きはしないが気分が悪そうに口元を押さえて震えていた。


今、二人の頭の中には優しく愛してくれた両親との思い出と、目の前に突きつけられた現実が瞬間に入れ替わり立ち替わり、頭の中をぐるぐると回っているのだろう。


自分をこの世に生み出してくれた絶対的な存在を疑うのは本当に辛い事だ。


俺はそんな絶望的な顔で頭を抱えている二人を落ち着かせるため、声を掛けた。



「 二人とも落ち着け。

恐らく二人の両親は実際に何が起こるのかは知らなかったはずだ。

以前スワンが話していた内容からもそれは間違いないだろう。

……あいつらは秘密が大好きだからな。 」


「 そ、そうでしょうか……? 」


「 …………。 」


二人は表情こそ硬いものの、多少は落ち着いた様子を見せる。


恐らく実際に何が起こるのか知っていたのは、エドワード派閥でも上の層の者達のみのはず。

これは母もよく使う手だから、俺は確信していた。



” 何が起こるか分からないが、何やらよくない事が起こる。 ”


それを匂わせつつ、それを回避する情報だけを秘密裏に相手に与えれば、確証がなくとも人は必ずそれを回避しようとするだろう。


そしていざ事が起きれば、自分だけが助かったという罪悪感や、人によっては自分は選ばれた側の人間だと喜ぶ者達もいるだろうが、それらの感情を最大限に使って、その者達を囲いこむのだ。


全てが終わってから話され、現状自分が助かっていることから、もう ” 知らなかった ” と逃げる事はできずに永遠にその秘密に縛られる。


汚いやり方に反吐が出そうだ。


俺はチッ!と舌打ちをし、今回の母をも超える、残忍で冷酷な黒幕達について考えた。



血に濡れた旗を持ち、沢山の死体の山々の上に堂々と立つ男の姿と、その近くで必死に戦い死に絶えた者達の死骸を指差し、楽しそうに笑う美しい男女の姿。


あいつらがこんな悪魔の様な計画を思いついた張本人だ。

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