1,137 / 1,370
第三十五章
1122 いつかなるから
しおりを挟む
( マービン )
” こんなに沢山食べているのに、なぜこんなにもお腹が減ってしまうのだろう?? ”
その疑問の答えはとても簡単なものだった。
王の腹に大きな大きな穴が空いていたからだ。
そのため飲み込んだ金銀財宝は、飲み込んだ後にその大きな穴から全て落ちていき、そのまま床に散らばってしまっていた。
そしてその床に落ちている財宝達を見て、臣下達は我先にと飛びつき、一心不乱にそれをかき集めている。
王である自分がココにいるというのに、臣下達の目は下の財宝達しか見ていなかった。
更に臣下達はお互い口汚く罵りあい、ついには自分の懐にいれた財宝達を奪うために殺し合いまで始めてしまうと、美しく黄金色に輝いていたそれらは、みるみる内に血で汚れていき、全ては真っ赤に染まっていく。
それを見た王は、存在しない空っぽな腹を抱えながらゲラゲラと笑った。
そして殺し合う財宝に群がる臣下達や、自分を満たす事のできない世界を睨みつけ、こう言い放つ。
” 自分を満たせない様な世界など滅びてしまえ。 ”
王がそう言った瞬間────まるで見計らった様に大地から黒い煙が立ち上り、ドラゴンの形になると、あっという間に辺り一面は焼け野原になってしまった。
そこに佇む一人の王は、そのまま笑い続けながら、足元に落ちている血まみれの金銀財宝を次々と飲み込んでは穴が空いた腹から落としていく。
いつまでもいつまでも幸せな笑みを浮かべながら……。
俺は空っぽな自分の腹をかき回し、必死に探し続けたが……やはり中には何一つありはしない。
それに気付いた瞬間、俺の心は ” 絶望 ” に覆われてしまった。
俺は【 空っぽの王様 】
あの母と兄と同じ……化け物だったのだ。
────ガクッ……。
身体中の力が抜けてしまい、その場で俺は項垂れた。
空っぽな自分を埋めたくて、無関係な者達にそれを求めた。
空っぽな自分を認めたくなくて、無関係な者達を虐げ、優越感でそれを隠し続けた。
俺を ” 見て ” !
俺を認めて!
俺を受け入れて!
一番 ” 見て ” なかったのは?
一番認めてなかったのは?
一番受け入れてなかったのは……?
──────────俺だった。
全ての事実を目の前で突きつけられて、俺は悲しくて情けなくて、ボロボロと涙を流す。
一度出てしまった涙は止まらなくなってしまい、俺の顔はきっと今までで一番汚いと思った。
成人をまもなく迎えるいい大人がこんなみっともなく泣いてしまい恥ずかしいが、それ以上に辛くて辛くて、自分の感情をコントロールする事ができない。
そのまま身体を丸めて人目もはばからず、わんわんと赤子の様に泣いていると、突然俺は大きな影に覆われた。
それに気づき視線を上げると、そこには不思議そうな顔をしたじいさんの顔が……。
「 泣いているの? 」
そう尋ねてくるじいさんに ” 見れば分かるだろう! ” と怒鳴り返したかったが、鳴きすぎた喉ではとっさに声が出ず、うぅ~……とうめき声の様な声を出すと、じいさんはニコニコと笑う。
「 そうか、そうか~。 」
そして勝手に何か納得した様子で頷くと、そのまま俺の脇に手をいれ、そのままヒョイッ!と抱っこされてしまった。
突然の行動にびっくりして泣き止む俺の身体を、更にゆったりとした動きで揺らし始め子守歌のようなモノまで歌い出したのだ!
「 よ~し、よし。泣くのはお止め、泣き虫坊や。
大丈夫大丈夫。 」
そしてあろうことか、ペンっ!ペンっ!と小さな子供をあやすように背中まで叩かれる。
” やめろ!! ”
そう怒鳴ってやりたかったが、何だか今の俺にとってその行動は酷く気持ちが良いモノで……そのままその腕の中で力を抜いて、この身を全て任せてしまった。
そうしてすっかり気持ちが落ち着いた所で、フッ……とこの正体不明のじいさんの事を考えると、なんだか誰かさんが歳をとったらこうなるだろうなという外見をしている事に気づく。
「 ……じいさん、あんた一体誰なんだよ。
そもそも何でこんな所にいるんだ?? 」
「 ん~?そうだねぇ……?
なんだかいい天気だったから、お散歩でも行こうかなって思って歩いていたんだ。
そしたら君が崖に飛び降りようとしていたから、俺凄くびっくりしちゃったよ。 」
「 いや……だから、別に崖に飛び降りようとしていたんじゃねぇんだって……。 」
マイペースな物言いと、マイペースな行動。
それもどっかの誰かさんそっくりだと思いながら、俺はもたれかかっていた上半身を離し、そのまま自分の胸に空いた穴を見下ろした。
何度見ても空っぽ……。
その穴をボンヤリと眺めながら、俺は未だ俺をゆすり続けるじいさんに向かってそこを見せつける様に指差す。
「 なぁ、俺の胸さぁ……大きな穴が空いているだろう?
俺、中身が空っぽなんだ。
きっと一生このままでさぁ、いつかきっと【 空っぽの王様 】みたいになるよ。
俺は酷いヤツだから。 」
「 えぇ?あのお腹が減って宝物を食べ続けた王様の話? 」
「 そう、それ。
だって同じ様に穴が空いている母と兄はとっくに【 空っぽの王様 】になっていたからさ。
俺もじきにあんな化け物になるんだ。
早いか、遅いか……それだけの話だよ。 」
「 んん~??? 」
じいさんは俺の胸が空っぽな事に初めて気づいた様で、そのままジ~~……とそこを見つめた。
” こんなに沢山食べているのに、なぜこんなにもお腹が減ってしまうのだろう?? ”
その疑問の答えはとても簡単なものだった。
王の腹に大きな大きな穴が空いていたからだ。
そのため飲み込んだ金銀財宝は、飲み込んだ後にその大きな穴から全て落ちていき、そのまま床に散らばってしまっていた。
そしてその床に落ちている財宝達を見て、臣下達は我先にと飛びつき、一心不乱にそれをかき集めている。
王である自分がココにいるというのに、臣下達の目は下の財宝達しか見ていなかった。
更に臣下達はお互い口汚く罵りあい、ついには自分の懐にいれた財宝達を奪うために殺し合いまで始めてしまうと、美しく黄金色に輝いていたそれらは、みるみる内に血で汚れていき、全ては真っ赤に染まっていく。
それを見た王は、存在しない空っぽな腹を抱えながらゲラゲラと笑った。
そして殺し合う財宝に群がる臣下達や、自分を満たす事のできない世界を睨みつけ、こう言い放つ。
” 自分を満たせない様な世界など滅びてしまえ。 ”
王がそう言った瞬間────まるで見計らった様に大地から黒い煙が立ち上り、ドラゴンの形になると、あっという間に辺り一面は焼け野原になってしまった。
そこに佇む一人の王は、そのまま笑い続けながら、足元に落ちている血まみれの金銀財宝を次々と飲み込んでは穴が空いた腹から落としていく。
いつまでもいつまでも幸せな笑みを浮かべながら……。
俺は空っぽな自分の腹をかき回し、必死に探し続けたが……やはり中には何一つありはしない。
それに気付いた瞬間、俺の心は ” 絶望 ” に覆われてしまった。
俺は【 空っぽの王様 】
あの母と兄と同じ……化け物だったのだ。
────ガクッ……。
身体中の力が抜けてしまい、その場で俺は項垂れた。
空っぽな自分を埋めたくて、無関係な者達にそれを求めた。
空っぽな自分を認めたくなくて、無関係な者達を虐げ、優越感でそれを隠し続けた。
俺を ” 見て ” !
俺を認めて!
俺を受け入れて!
一番 ” 見て ” なかったのは?
一番認めてなかったのは?
一番受け入れてなかったのは……?
──────────俺だった。
全ての事実を目の前で突きつけられて、俺は悲しくて情けなくて、ボロボロと涙を流す。
一度出てしまった涙は止まらなくなってしまい、俺の顔はきっと今までで一番汚いと思った。
成人をまもなく迎えるいい大人がこんなみっともなく泣いてしまい恥ずかしいが、それ以上に辛くて辛くて、自分の感情をコントロールする事ができない。
そのまま身体を丸めて人目もはばからず、わんわんと赤子の様に泣いていると、突然俺は大きな影に覆われた。
それに気づき視線を上げると、そこには不思議そうな顔をしたじいさんの顔が……。
「 泣いているの? 」
そう尋ねてくるじいさんに ” 見れば分かるだろう! ” と怒鳴り返したかったが、鳴きすぎた喉ではとっさに声が出ず、うぅ~……とうめき声の様な声を出すと、じいさんはニコニコと笑う。
「 そうか、そうか~。 」
そして勝手に何か納得した様子で頷くと、そのまま俺の脇に手をいれ、そのままヒョイッ!と抱っこされてしまった。
突然の行動にびっくりして泣き止む俺の身体を、更にゆったりとした動きで揺らし始め子守歌のようなモノまで歌い出したのだ!
「 よ~し、よし。泣くのはお止め、泣き虫坊や。
大丈夫大丈夫。 」
そしてあろうことか、ペンっ!ペンっ!と小さな子供をあやすように背中まで叩かれる。
” やめろ!! ”
そう怒鳴ってやりたかったが、何だか今の俺にとってその行動は酷く気持ちが良いモノで……そのままその腕の中で力を抜いて、この身を全て任せてしまった。
そうしてすっかり気持ちが落ち着いた所で、フッ……とこの正体不明のじいさんの事を考えると、なんだか誰かさんが歳をとったらこうなるだろうなという外見をしている事に気づく。
「 ……じいさん、あんた一体誰なんだよ。
そもそも何でこんな所にいるんだ?? 」
「 ん~?そうだねぇ……?
なんだかいい天気だったから、お散歩でも行こうかなって思って歩いていたんだ。
そしたら君が崖に飛び降りようとしていたから、俺凄くびっくりしちゃったよ。 」
「 いや……だから、別に崖に飛び降りようとしていたんじゃねぇんだって……。 」
マイペースな物言いと、マイペースな行動。
それもどっかの誰かさんそっくりだと思いながら、俺はもたれかかっていた上半身を離し、そのまま自分の胸に空いた穴を見下ろした。
何度見ても空っぽ……。
その穴をボンヤリと眺めながら、俺は未だ俺をゆすり続けるじいさんに向かってそこを見せつける様に指差す。
「 なぁ、俺の胸さぁ……大きな穴が空いているだろう?
俺、中身が空っぽなんだ。
きっと一生このままでさぁ、いつかきっと【 空っぽの王様 】みたいになるよ。
俺は酷いヤツだから。 」
「 えぇ?あのお腹が減って宝物を食べ続けた王様の話? 」
「 そう、それ。
だって同じ様に穴が空いている母と兄はとっくに【 空っぽの王様 】になっていたからさ。
俺もじきにあんな化け物になるんだ。
早いか、遅いか……それだけの話だよ。 」
「 んん~??? 」
じいさんは俺の胸が空っぽな事に初めて気づいた様で、そのままジ~~……とそこを見つめた。
162
お気に入りに追加
2,014
あなたにおすすめの小説
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト
しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。
悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公・グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治をし、敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。
前世の記憶『予知』のもと、目的達成するためにグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後少しずつ歴史は歪曲し、グレイの予知からズレはじめる…
婚約破棄に悪役令嬢、股が緩めの転生主人公、やんわりBがLしてる。
そんな物語です。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる