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第三十五章
1115 確かな変化
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( マービン )
リーフ様と出会って半年が経つ頃。
その頃には叱られる事がコミュニケーションの一貫になっていて、俺はそれが欲しくて欲しくて必死に手を伸ばす様になっていた。
何をやっても見つかって、どこまでも追いかけられては怒られて。
全力で反撃してもコテンパンにやり返されて、心を抉る説教にゲンコツに、ひどい時には尻を叩かれる。
俺はここにいる。
俺という存在がこの世界に存在して、しっかり大地を踏みしめて立っている。
その感覚に俺は夢中になっていた。
だから周りが引くほど、何度も何度も毎日リーフ様に突っかかって、俺がここにいるという事を確かめにいく。
すると、不思議な事に周りが俺に向けてくる目が変わっていった。
今までは直ぐ逸らされる視線が交わる様になったのだ。
そこには確かに俺に向けた感情がある。
恐怖や嫌悪ではない心地よい感情が……。
そして貴族同士の関係性もガラリと変わっていき、リーフ様という共通の敵が現れた事で、水面下でバチバチしていた派閥同士に絆が生まれ始めた。
なんといっても単体でバラバラと挑みにいったところで勝ち目はない事は、皆嫌と言うほど思い知らされたからだ。
だからこそお互い手を組み、再度チームプレイを駆使して戦えば単体よりは健闘できたので、それからは必死に頭を捻って考えた。
あーでもない。
こーでもない。
でもコレはイケる気がする!
負けた事で得た経験を活かして挑み続ければ、今までよりも遥か上へ自分の立ち位置が移動していた事に気づく。
いつの間に……??
常に上にいるリーフ様にしか目がいかなかったので、誰も気づかなかったが、俺達は自力で随分と上まで上がっていたらしい。
その事実は自信へと繋がり、自分の目を新たなステージへと向けさせる。
下になど目を向ける暇はない。
だって追いつきたい場所は遥か遠くの上にあるから。
それが俺達の共通の想いで、だからこそ今までの様に ” 自分よりも爵位が下のくせに ” とか ” 爵位や実力が下だから従うべき ” などを考える暇なんてない。
他人を陥れて見下ろし満足などしている間にも、リーフ様はどんどんどんどんと一人で上へと進んでいき、あっという間に見えなくなってしまう。
だから視線は常に上へ。
俺達はひたすらそこを目指して進み続けた。
すると元々持っていたポテンシャルもあってか、俺達はライトノア学院始まって以来の< 頂点世代 >と呼ばれる様になっていたのだ。
……まぁ、それでもリーフ様の足元にも及ばなかったけど。
俺に自覚はなかったが、毎日毎日踊りだしたいくらい学院生活を楽しんでいて……しかし母の機嫌は俺と反比例する形で悪くなっていった。
母は俺が飛竜に認められなかった日から、自分の時と同じ様に飛竜達を使える強力な資質持ちの貴族女性を探し始めたが、中々同世代で見つからず焦っている様だ。
更に俺がリーフ様に磔にされた事で、メルンブルク家との間に気まずい雰囲気が漂っていたのも一つの原因であった。
口を開けば母は世界を呪う言葉を吐く。
” 飛竜をうまく扱える貴族女性が見つからないのは、使えない女性達しか生めなかった貴族達が悪い。 ”
” メルンブルク家と気まずくなってしまったのは、学院の役に立たない教員達と、リーフ様のご機嫌を取れなかった他の貴族達と下層民達が悪い。 ”
” 自分の機嫌が悪くなるのは、全て自分の周りを取り巻く世界が悪いからだ! ”
次から次へと出てくる呪詛の様な言葉の数々。
以前は兄と共に俺も ” その通りだ ” と頷いていたのだが、今の俺にとって、何だかその言葉は酷く遠いモノの様な気がして……。
俺は、それを肯定し、同じ様に毒を吐き出す兄と母をただボンヤリと見つめていた。
そんな母だったが、ある日の朝、突然不機嫌から一転。
ニコニコとご機嫌で朝食を取り始めた。
ここ最近の不機嫌っぷりを見ていた従者達は怯え、俺はというと一瞬驚いたものの ” 俺の良い婚約者でも見つかったのだろう ”
そう考え、あえて何も言わずに黙っていたのだが、母は唐突に口を開く。
「 お掃除はいいわね。
汚らしいゴミが視界から消えてくれるのは、本当に心が洗われるわ。
ゴミってあっという間に増えてしまうから……たまには大掃除が必要よね。 」
言っている意味がさっぱり分からず俺は首を傾げたが……
” まぁ機嫌が悪いより良いだろう ”
そう思いあえて何も聞かずに、次はどんな手を使ってリーフ様に挑んでやろうかと考えていた。
だから俺は気づかなかったのだ。
この時、父ダリオスの顔色が酷く悪かった事。
その手がガタガタと震えていたことに……。
俺はとても能天気で浮かれていたため、徐々に迫りくる ” 何か ” に気づく事はなかったのだが、最近随分と笑う様になった側近候補の二人、グリムとスワンは何か感じ取っていた様で、ある日のランチ時に唐突にスワンが口を開いた。
「 ……マービン様、最近家で変わった事はありませんか?
もしくは異変とか……。 」
「 ─────はっ??? 」
突然の話に驚き素っ頓狂な声を上げてしまえば、スワンは気まずそうな顔で「 あ、いえ……ないなら良いです……。 」と答える。
「 一体なんなんだ?
その質問は? 」
軽い感じでそう質問したが、スワンはよほど説明しにくい内容なのか、難しい顔をしてたので、もう一度声を掛けようとした、その前に─────今度はグリムが喋りだした。
リーフ様と出会って半年が経つ頃。
その頃には叱られる事がコミュニケーションの一貫になっていて、俺はそれが欲しくて欲しくて必死に手を伸ばす様になっていた。
何をやっても見つかって、どこまでも追いかけられては怒られて。
全力で反撃してもコテンパンにやり返されて、心を抉る説教にゲンコツに、ひどい時には尻を叩かれる。
俺はここにいる。
俺という存在がこの世界に存在して、しっかり大地を踏みしめて立っている。
その感覚に俺は夢中になっていた。
だから周りが引くほど、何度も何度も毎日リーフ様に突っかかって、俺がここにいるという事を確かめにいく。
すると、不思議な事に周りが俺に向けてくる目が変わっていった。
今までは直ぐ逸らされる視線が交わる様になったのだ。
そこには確かに俺に向けた感情がある。
恐怖や嫌悪ではない心地よい感情が……。
そして貴族同士の関係性もガラリと変わっていき、リーフ様という共通の敵が現れた事で、水面下でバチバチしていた派閥同士に絆が生まれ始めた。
なんといっても単体でバラバラと挑みにいったところで勝ち目はない事は、皆嫌と言うほど思い知らされたからだ。
だからこそお互い手を組み、再度チームプレイを駆使して戦えば単体よりは健闘できたので、それからは必死に頭を捻って考えた。
あーでもない。
こーでもない。
でもコレはイケる気がする!
負けた事で得た経験を活かして挑み続ければ、今までよりも遥か上へ自分の立ち位置が移動していた事に気づく。
いつの間に……??
常に上にいるリーフ様にしか目がいかなかったので、誰も気づかなかったが、俺達は自力で随分と上まで上がっていたらしい。
その事実は自信へと繋がり、自分の目を新たなステージへと向けさせる。
下になど目を向ける暇はない。
だって追いつきたい場所は遥か遠くの上にあるから。
それが俺達の共通の想いで、だからこそ今までの様に ” 自分よりも爵位が下のくせに ” とか ” 爵位や実力が下だから従うべき ” などを考える暇なんてない。
他人を陥れて見下ろし満足などしている間にも、リーフ様はどんどんどんどんと一人で上へと進んでいき、あっという間に見えなくなってしまう。
だから視線は常に上へ。
俺達はひたすらそこを目指して進み続けた。
すると元々持っていたポテンシャルもあってか、俺達はライトノア学院始まって以来の< 頂点世代 >と呼ばれる様になっていたのだ。
……まぁ、それでもリーフ様の足元にも及ばなかったけど。
俺に自覚はなかったが、毎日毎日踊りだしたいくらい学院生活を楽しんでいて……しかし母の機嫌は俺と反比例する形で悪くなっていった。
母は俺が飛竜に認められなかった日から、自分の時と同じ様に飛竜達を使える強力な資質持ちの貴族女性を探し始めたが、中々同世代で見つからず焦っている様だ。
更に俺がリーフ様に磔にされた事で、メルンブルク家との間に気まずい雰囲気が漂っていたのも一つの原因であった。
口を開けば母は世界を呪う言葉を吐く。
” 飛竜をうまく扱える貴族女性が見つからないのは、使えない女性達しか生めなかった貴族達が悪い。 ”
” メルンブルク家と気まずくなってしまったのは、学院の役に立たない教員達と、リーフ様のご機嫌を取れなかった他の貴族達と下層民達が悪い。 ”
” 自分の機嫌が悪くなるのは、全て自分の周りを取り巻く世界が悪いからだ! ”
次から次へと出てくる呪詛の様な言葉の数々。
以前は兄と共に俺も ” その通りだ ” と頷いていたのだが、今の俺にとって、何だかその言葉は酷く遠いモノの様な気がして……。
俺は、それを肯定し、同じ様に毒を吐き出す兄と母をただボンヤリと見つめていた。
そんな母だったが、ある日の朝、突然不機嫌から一転。
ニコニコとご機嫌で朝食を取り始めた。
ここ最近の不機嫌っぷりを見ていた従者達は怯え、俺はというと一瞬驚いたものの ” 俺の良い婚約者でも見つかったのだろう ”
そう考え、あえて何も言わずに黙っていたのだが、母は唐突に口を開く。
「 お掃除はいいわね。
汚らしいゴミが視界から消えてくれるのは、本当に心が洗われるわ。
ゴミってあっという間に増えてしまうから……たまには大掃除が必要よね。 」
言っている意味がさっぱり分からず俺は首を傾げたが……
” まぁ機嫌が悪いより良いだろう ”
そう思いあえて何も聞かずに、次はどんな手を使ってリーフ様に挑んでやろうかと考えていた。
だから俺は気づかなかったのだ。
この時、父ダリオスの顔色が酷く悪かった事。
その手がガタガタと震えていたことに……。
俺はとても能天気で浮かれていたため、徐々に迫りくる ” 何か ” に気づく事はなかったのだが、最近随分と笑う様になった側近候補の二人、グリムとスワンは何か感じ取っていた様で、ある日のランチ時に唐突にスワンが口を開いた。
「 ……マービン様、最近家で変わった事はありませんか?
もしくは異変とか……。 」
「 ─────はっ??? 」
突然の話に驚き素っ頓狂な声を上げてしまえば、スワンは気まずそうな顔で「 あ、いえ……ないなら良いです……。 」と答える。
「 一体なんなんだ?
その質問は? 」
軽い感じでそう質問したが、スワンはよほど説明しにくい内容なのか、難しい顔をしてたので、もう一度声を掛けようとした、その前に─────今度はグリムが喋りだした。
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