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第三十五章

1114 変わっていく

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( マービン )

うまく行かない現状にイライラしていた俺が次に始めた行動は ” 八つ当たり ”


今までの暴言よりももっと攻撃性を増した言葉の数々に、周りの者達の顔には、まるで全く同じ笑顔の仮面が張り付いている様に見えてきた。


誰でもいいから俺を ” 見て ”

空っぽな俺を認めて、ここに存在させて。



どうやったらこの中身を埋める事ができるのか誰か教えてくれよ!!



この時には、もう俺は自分の力だけで変わる力を無くしていて、でもそれが ” 正しい ” と言う母や兄、そして何も文句を言わずに、寧ろ俺と一緒に楽しむ同志達の存在によって、何かを変えるという概念すらも消え失せようとしていたその時────出会ったのがリーフ様だ。



あの王族に継ぐ絶対的な権力を持った公爵家【 メルンブルク家 】の次男。

正真正銘貴族達のトップに立つ超高位貴族。


そんな超大物人物が俺が在籍中に入学してくる。

なら、先に挨拶に伺わねばと母に話を振ったのだが、いつもとは違いやたら歯切れが悪い。


「 ……その必要はないわ。 」


それだけ言ってこの話題には触れない様にしていた母を見て、俺は首を大きく傾げていたのだが────その謎は入学院式にて全て判明した。



茶色い髪に緑色の目。

そんな平民代表の外見に、どこにでもいそうな特徴がない顔。



あの美しさで有名な【 メルンブルク家 】の血の欠片も感じない容姿に、汚らしい ” 混じり子 ” かと理解する。


恐らくカール様かマリナ様が気まぐれに相手した者との子供なんだろうが、なぜあんな外見の者を相手にしてしまったのか……。


ゲテモノでも食す様なものか?


ヤレヤレと呆れてしまいため息をつきながら、母が言い淀んでいた理由も理解しクスッと笑ってしまった。


アレは扱いに困っている存在であるらしい。


つまりは ” 公に仲良くなって欲しくないが、今は爵位から何らかのトラブルを起こされても困る ” といった所だろう。


多分成人後は強制的に捨てられ平民落ちになる事が決定しているだろうから、構うなと言う事だ。


俺は笑いが止まらずクスクスと笑い続け、胸がス~……とスッキリしていくのを感じた。


リーフ様は俺よりもっともっともっと ” 見て ” もらえないかわいそうな子供だ。

親に ” 見て ” もらえないどころか、完全にいらないと捨てられてる。

きっとリーフ様は俺以上に空っぽな人間に違いない!


” 自分よりも遥か下の存在がいる。”


その事は俺の心を非常に癒やしてくれて、安心感と幸福感を俺に与えてくれた。



しかし────────……。



その後リーフ様は遥か下どころか、見えないくらいに遠く遠く……遥か上にいる存在であった事が嫌と言うほど思い知らされた。


丸裸にされて磔にされてしまった俺の前で、沢山の人達に ” 見て ” 貰っているリーフ様。

こんな情けない姿でそれを見せつけられて悔しかった。悲しかった。


何で俺よりも遥かに何も持っていないリーフ様が皆に ” 見て ” 貰えるのか、受け入れてもらえるのか?


何で???


そして疑問に思う心は、直ぐに憎しみによって大きく覆われていった。


憎い……。

憎い……!

憎い!!!!


俺が欲しくて欲しくてたまらないモノを格下のリーフ様が持っているなんて許さない。

絶対に存在全てを叩き潰してやる!


そう決意し、それからはありとあらゆる手を使って復讐をしようとしたのだが……完膚なきまでに全てを叩き潰されたのは俺だった。



俺の何が悪いから ” 見て ” もらえないんだ!!


” 自分の魅力がないからだよ。 ” 



……俺はこのままだとどうなるの?


” ただ座っているだけの人形になるだろうね。 ”



……そしたら俺には何が残るの?


” YESしか言わない、君を利用し得を得ようとする人間だけ残るよ。 ”



その言葉の数々はグサグサと心をえぐり、傷つけ、ジリジリと焼いてくる。



そして気がつけば、俺の意識はあの広い荒野にあって、投げつけられた言葉達は俺の背中に深々と刺さっていた。


痛い。

痛い。

痛いな……。



クソ、クソ、クソ────っ!!


沢山の痛みと共に、ゆっくり母たちがいる楽園を目指す俺。


あぁ……早く……早くあの天国の様な楽園に辿り着きたい。


先にある輝く場所で、楽しくて楽しくてたまらない!と言わんばかりの笑顔を見せている母と兄を見て、俺は手を伸ばそうとしたが…………また背中にぶつかってきた言葉がその手をはたき落とした。



” そんな奴らに利用されるだけの権力者になっちゃ駄目だ。

今ならまだ引き返せるよ。 ”


痛みを与えてくるはずの言葉は、そのままジワジワと自分の身体に浸透していき、俺の足を止める。


すると不思議な事に、今いる薄暗い荒野が少しだけ明るくなったので、俺は首を傾げながら周囲を見渡した。


やはり寂しく薄暗い荒野ではあるが、ポツポツと空に小さな穴が空いていて、どうやらそこから僅かに光が漏れているらしい。


不思議な現象にポカンとしながら、また視線を母達がいる楽園へと戻すと─────楽園が僅かに薄暗くなっている様な気がした。
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