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第三十四章

1108 待っているからさ

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( マリン )

グリモアの治安悪化に伴い、料理に使うハーブ類の薬草が手に入りづらくなってしまったため、まだモンスターの活動が活発でない明け方あたりの時間を狙い、森の入口付近でそれを探していた。

中々ないもんだねぇ……。

入口付近では中々見つからないハーブにため息を漏らしていた、その時────



バキバキバキ──────!!!!!



少し遠いところで木が倒れる様な音と、こちらに向かって走ってくる巨大な生き物の足音に青ざめる。


まさか─────────っ!!!


この時間だと大抵のモンスターは寝ているはずなのに、突然のこの状況は……恐らくあの街にやってきた盗賊紛いの冒険者たちが、何やらちょっかいを掛けたに違いない。

まずいっ!と思った私は直ぐに門に向かうが、少しだけ離れた場所に来てしまっていたせいで、間に合わない!!


「 クソったれめ!!

────────ルル、ごめんっ!! 」


走馬灯の様にルルの事や夫の事、今まで関わってきた人達の事を思い出していると、突然追いかけてきていたモンスターが一瞬で倒された。


ズズ────────ン……


真っ二つになって崩れ落ちるモンスターを見つめながらポカーンとしていたら、恐らくそれをやったまだ少年と言える様な幼い少年が、私の方を見てキラキラと輝く目を向けてくる。


か……神様……??


一瞬そう思ってしまったが、イシュル様からかけ離れたその姿と、「 お怪我はありませんか!?お美しい女神様!! 」という変な言葉によって全て吹き飛んだ。


それからお互いの自己紹介や、どうしてここにいるのか?という理由などを聞く中で、その少年の名はリーフ。

そしていつの間にか隣にいた黒フードの青年?はレオンという名である事。

二人揃って今年からライトノア学院の生徒になった事。

食料の調達をしにきた事。


などなどの話を聞いてしまえば、これも縁というモノ。

これからこいつらの食生活を預かってやるか!と決意した私は、早速二人をお店に連れ帰った。


そうして家に帰った途端、ルルに怒られてしまったが、とりあえず人見知りのルルはリーフ達が気になるのか、そちらに意識がいってしまった様だ。

私も改めて二人の方へ視線を向け、う~ん……?と少々違和感を感じた。


リーフは普通。

ただ、後ろの黒フードの子がちょっと変というか……?


今まで食堂で様々な荒くれ者や、食えないヤツらを見てきたが、分類がイマイチできない不思議な雰囲気がある気がする。


……顔が隠れているからかね?


黒いフードを顔全てが隠れるくらい被っているため、どんな顔をしているのかは全く分からない。

しかし全身を見れば、リーフと同じ歳とは思えない程の高身長に服の上からでも分かる引き締まった身体……もしや英才教育を受けたお貴族様なのでは……?とフッと思った。


よくよく考えればそれが正解な様な気がして、そうだとすると平民のリーフと仲良くしているという事が違和感の正体か……。


そんな自分なりの答えを出して、レオンが貴族だとしても顔を隠している事からそれに触れてほしくないのだろうと判断した後は、普通に座る様に言って調理場に向かったのだが────


…………ストン。


指定された椅子にレオンが座り、その上にリーフが座った。


それを調理場の方にいた私とルルは気づかず、ササッとご飯を作り終えて持っていった時にそれを目にしてギョッと目を剥く。


冷静な思考は、スポンッ!と飛んでいき、目の前の光景に釘付けに。


お貴族様の膝の上に……???


ルルもこれにはびっくりしたのか、普通にご飯を二人の前に置いたが、ブルブルと小さく震え続けている様だ。


まぁ、お貴族様は同性の愛人を持つのがステータスだって聞くしねぇ?

本人が嫌がってないなら……別にいいか。


リーフの様子をしっかり観察すると、自ら嬉しそうに後ろのレオンにご飯を食べさせているので、大丈夫そうだ。

更に獣人の性別関係なく口説く姿もそれなりに見たことのあった私は、そのままあっさりと二人の関係を受け入れた。

すると突如いたずら心が湧き上がり、恋人のジェスチャーつきでからかってやったのだが、なんとリーフは、まるで呪われている様なレオンの容姿を私達に見せつけ必死に説明をする。


” 俺達、ご察しの通り恋人同士なんだ! ”

” 呪いは大丈夫! ”


一応呪いという事もあって慎重になろうとしたが、目の前でこれだけぺったりくっついているのだから、本当に問題はない様だと判断した。

それに…………。


私はレオンの首筋にある奴隷陣を注視し、ふ~む……と考え込む。


予想は大外れし、レオンがリーフの奴隷だった。

────という事は年齢も考えて、親に捨てられて借金奴隷ってところか……。


チラッチラっ!

もう一度レオンの外見を観察し、そこで確信した。


レオンはあの外見で親に捨てられたが、誰も買ってくれずに大安売り。

そこで平民のリーフが手元にあったお金で買った……ってところかねぇ?


納得いく答えが出た私は、頷きながら再度そんなリーフとレオンの存在を受け入れる。


しかし、娘のルルは大丈夫だろうか?


そう心配して、今度は娘の様子をチラッと伺うが、何だかこっちの方が様子がおかしい事に気づき、首を傾げた。


ブルブル……。

そわそわそわ~~!


怖がっているのとは少し違う様な反応を見せるルル。

それはリーフとレオンがイチャイチャとご飯を食べさせている間も続き、とうとう帰っていくまでそのままだった。


もしやリーフとレオンのどっちかにときめいてしまったのだろうか?


そんな可能性がよぎったが、それにしては ” 嫉妬 ” 的な感情は全く感じない。


「 …………? 」


もしかして呪いにびびっちまったか?

そう考え、大丈夫だと伝えようとしたが、これまた初めて見る様な興奮した様子で目の前に置いたお茶をグイ───!!と飲み干した。


「 お母さんっ!!私、ちょっと急用できたからっ!! 」


「 ??あ……ああ。 」


あまりの勢いにしどろもどろで答えると、ルルは二階の自室へ。

その後はバッタンバッタンと暴れる音がして、その後はシ~~ンと無音になったため、怖くて様子も見に行けない。


そのため放って置く事に決め、遅くまで光が漏れる娘の自室に ” おやすみ ” と告げて、私は就寝についた。


それからルルはまるで水を得た魚の様に生き生きとし始める。

街では頻繁に出ては仲良くなった友達と楽しそうに話す姿に親としてはホッと胸を撫で下ろしたが────同時に寂しさもあった。

以前の様に私にピーピーと弱音を吐いていたルルを思い出すと、きっと私は心配だった反面、まだまだ自分の子供でいてくれる事が嬉しかったのだと思う。

子供が一人立ちをしてくれる日を誰よりも望んでいるのに、いざ目の前でその姿を見せつけられると、寂しさがブワッと溢れる。


この相反する気持ちに、私はこれからゆっくり折り合いをつけていかないといけない。

子供の自立は親にとって最大の試練であると、私は身を持って理解した。



戦う決意をし、真剣に宙に浮かんだスクリーンを見上げているルルの顔をボンヤリ見つめながら、そんな事を思い出す。

初めて大事なモノを守るため、前に進もうとしているその姿に感動と喜びと……そして同時に自分の元から飛び立とうとしている事に寂しさを。

そんな2つの気持ちを心の中にグッと隠し、私は問いかけてきたニーナに向かって答えた。


「 子供が自分で決めた事さ。

親の私が口を出すなんて野暮な事はできないよ。

それにしても子どもの成長は本当に早いねぇ。

まるで風みたいにあっという間だった。 」


「 そうねぇ。ウチのナッツや親友のリーンちゃんも最近ずいぶん変わっちゃったもの。

そんな成長が嬉しい反面、寂しくて寂しくて……。

結局支えているつもりが実は支えられているのよね。

だからフッ!といなくなっちゃうと、今まで自分一人でどうやって立っていたのかも忘れちゃって、膝から崩れ落ちそうになるのよ!

でも少しづつまた立てる様にしないと。

寂しさに負けて子供に手を伸ばせば、私の元で子供は腐っちゃうからね。


あ─────親って本当に報われな~い! 」


はぁ~~……と大きなため息をつきながら、がっくり肩を落とすニーナを見て吹き出して「 その通りだ! 」と返し、もう一度ルルを見つめる。


この戦いに生き残れたら、ルルの成長は加速しあっという間に私の手が届かない大空に飛び立つだろう。

そして私はそんな飛んでいったルル見守りながら、今度は自分一人で立てる様にリハビリをしないといけない。


娘との思い出に浸りながら、ゆっくり立つ練習をしていくさ。

自分が飛び立った時に暖かく見守ってくれた自分の母の様に。


私はルルから視線を外し、黒く染まってしまった空を見上げる。

そして貝殻がモチーフのキーホルダーを手に持ち、そのまま柄にもない祈りを空に捧げた。


「 こんな黒い空じゃ飛び立てないからね。

どうか皆の未来を救っておくれ、小さな神様。

沢山料理を作って待っているからさ。 」

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