1,122 / 1,315
第三十四章
1107 夢の形
しおりを挟む( マリン )
ルルには戦闘の才能はあっても心の適性はゼロ。
つまり無理に戦闘職につかせれば100%死ぬ。
結局人間なんて、自分の才能よりも心の適正の方が遥かに大事で、それがなければ能力を発揮できる事はない。
そしてそんな状態で戦えば、そのままそれは ” 死 ” に直結する。
しかも人を ” 躾ける ” などとほざく輩がいる所になど任せれば、あっという間に消費されるだけされて最後はポイ捨てされる事だろう。
私の宝物。
大事な大事な娘をそんな事に使われてたまるか!!
カッカしながら、私は部屋の荷物を少しづつ整理し始め、後は職場をやめてこの街から出ていこう!
そう考えながら朝出勤すると、また恒例となりつつあるオーナーの ” 娘を国に貢献~…… ” と始まった。
” はぁ……こんな薄情な人間の作る料理なんて、そもそも人様に出して良いのだろうかと思ってしまうよ。
これはお店のために、そんな冷たい人間はやめてもらうしか…… ”
” そうかい、ならちょうど良かった。
今日で辞めさせてもらうよ。あばよ、クソ野郎。 ”
そのまま店の制服を叩きつけて帰ろうとする私を、オーナーは ” えっ!!? ” と目を剥き、止めようとしてきたが、私は心底嫌そうにその手を払ってその場を去った。
そしてルルをつれて朝一で街を出る。
悪い街ではなかったが人自体が少なく、そのせいで固まってしまった価値観に反発できる者達は少なかった。
だから今度はもっと人が多い王都に近い所へ。
きっと人が沢山いれば、沢山の価値観を持った者達がいるはず。
その中ならルルの資質ではなくルル自身を見てくれる人がいるかもしれない。
そんな希望を胸に、ワクワクしながら馬車に乗っていたのだが───反対にルルはどんどんと暗く沈んでいった。
「 お母さん、ごめんなさい……。 」
とうとう謝罪までしてきたので、困ってしまった私はこっそりため息をつく。
ルルは優しくて……それでいて鋭い子だ。
だから自分のせいであの街から出ていくのだと、感づいていた。
気に病む事はなんにもないっていうのに……困ったねぇ。
ズ~ンッと暗くなってしまったルルを見て、ポリポリと頭を掻く。
私にとって ” 幸せ ” とは、地位やお金で手に入るモノではなく、ルルがいなければ決して手に入らないモノだ。
これは親になって初めて知った事。
かつて子供の時に思い描いた夢。
全てを掛けてでも叶えたかった夢は、子供が生まれて姿形をあっさり変える。
自分の夢の中心にはルルがいて、自分の力を試すのも出世して認められたいという気持ちも、自分がしたいというよりは、子供に伝えたい、残したいという気持ちへと変化していった。
それが不思議な事に本当に ” 幸せ ” で、立ち止まりそうになっても背中を押し続ける力となって、私は今も歩き続けることができている。
自分という存在がいつか消え去ったとしても、私の全てを引き継いで未来を歩んでくれる存在がいる事。
それが最大のモチベーションになっているのだから、つまりは私にとってルルが自分の夢そのものになる様なものだ。
自分の母もきっと同じだったに違いない。
母も自身の全ての知識、技術、思い出を私に託して、それはそれは幸せそうな笑みを浮かべて旅立っていったから。
勿論人によってはそれは ” 正しく ” ないのかもしれない。
” 子供や後世の者達のために夢を犠牲にするなんておかしい ”
” そんなあっさり形を変えてしまう程度の小さな夢だったんだろう?つまんない人生! ”
そう言ってくるやつらだっていて、でもそれはそれで悪くはない。
要は正しい、正しくないという話ではなく、私がそう望み、そうなったというだけの話だ。
だから私のかつての夢。
” 大きい店でお店を任されてみたい ”
” 自分の考えたメニューを出して、自身の腕前を確かめたい ”
これはルルが幸せな事が大前提にあるって事。
どっちかしか持っていけないなら私は間違いなく、ルルを選ぶ。
それを遠回しに伝えてやると、ルルは泣いてしまったので、そのまま私は馬車に揺られながら、外の景色に目を向け、穏やかな笑みを浮かべた。
それからルルと私は長い事馬車に揺られ、流れついた街は【 グリモア 】
そこで初めて夫が残してくれたお金に手をつけ、小さなお店【 森の恵み 】を開く。
ここでは誰もルルの資質の事は知らないので、ここで健やかに生きていってほしい、そう願い必死に働いた。
そんな願い通りにルルは目に見えて明るくなっていったが、やはり根本的な悩みは常に心の奥にあるらしく突発的に暗くなる事はあったが、ゆっくりと自分の好きな事ややりたい事を考えている様だ。
う~ん……。
う~ん…………。
そんな頭を抱えて悩む姿もみられる様になってきた。
そんな姿に喜びを、そしてほんの少しだけ寂しさを感じていた頃────命を助けられたリーフとレオンを店に連れてきた時から、その様子が激変する。
185
お気に入りに追加
1,993
あなたにおすすめの小説
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話
バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。 そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……? 完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公 世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる