上 下
1,115 / 1,370
第三十四章

1100 死んじゃうんだ……

しおりを挟む
( ルル )

” こいつは今日売れなきゃ破棄処分になる。

放流しちまえば恨みから沢山の人を傷つける存在になるから、確実に処分しないといけないんだ。 ”


” そ……そんな……! ”


リーフさんは握りしめた硬貨を見下ろし、意を決してそれを商人に差し出した。


” これで彼を買える? ”


それは普通の奴隷ならとても買えない様な少ないお金だったが、早々に厄介払いをしたかった商人は喜んでレオンさんをリーフさんに売り渡す。


それが二人の初めての出会いであった。


「 ……そうして二人の生活が始まり、生きる気力を失ったレオンさんは、リーフさんの自分を恐れぬ態度と大きな優しさに包まれ、やがて二人は────…… 」


ブツブツブツブツ…………。

とうとう口からその考えている内容が漏れ出すと、私は慌てて口を塞いだ。

しかし塞いだせいで今度は頭の中にその分沢山の妄想が溢れて目がグルグルと周り始め、近くの椅子によろめきながら座り込む。


これが禁断の愛……。

そして真実の……愛っ!!


────ダンッ!!

テーブルを叩いてこみ上げる衝撃に耐えていると、母がちょうど温かいお茶をいれてくれたらしく、スッ……と私の前にそのお茶を置いた。


「 いや~!あの二人兄弟にしては随分雰囲気が違うなと思っていたら、まさか同じ歳の……しかもコレだとはねぇ!

多分あの感じからしてレオンはもともと傭兵かなんかでもしてて、その時に呪いをもらっちまったんだろう。  」


母は恋人を示す指のジェスチャーをしながら、ニヤ~と下品な笑みを浮かべる。

私はといえば、母が話しかけてきてくれたにもかかわらず、心ここにあらずといった様子でまたブツブツと呟きだしてしまったので、母は私の顔の前で手をヒラヒラ振った。


「 ??お~~い。ルル~?? 」

ル~ル~?何をブツブツ言ってるんだい? 」


怪訝な顔でそう尋ねてくるが、私がやはり反応できないでいると、困った様に頭を掻く。


「 ──あ~……もしかしてビビっちまったのかい?

確かにあの姿はちょっと怖いかもしれないが、特に伝染るもんじゃなきゃ~問題は──── 」


「 お母さんっ!!私、ちょっと急用できたからっ!! 」


的を大きく外れた母の心配をバッサリ切る勢いで叫んだ後、私は目の前のお茶を一気飲みした。


「 ??あ……ああ。 」


ぽかんとしながら私を見つめる母に「 ごちそうさま! 」と言って、そのままダダッ!!と自室へ。

そして一人になった部屋で、私は後ろに仰け反り、頭をゴンッ!!と床にぶつけてその体勢のまま大声で叫んだ。


「 最高かぁぁぁぁぁ────────!!! 」


心の荒ぶるまま、身体はブルブル、ガタガタと震え続ける。


なんて衝撃!!

なんて最高の愛っ!!

そこには私の求めていた全てがあった。


男同士、禁断の恋、周囲からの奇っ怪な目や差別的な目。

山あり谷ありどころではない。

魔素領域へ全裸で飛び込む程の障害へとレベルUPした。


そして男同士という事でなんとも主観的になりにくい状況により、すんなり第三者として作品を楽しむ事ができる!


大好きな恋愛小説の男女を男男に変えただけで、それは劇的な変化を私にもたらした。


もう居ても立ってもいられず、私はシュバッ!と立ち上がると、いつもは読書を楽しむための机に着席する。

そしてその衝動のまま、その妄想を紙に書き出していった。



後日それを、ここグリモアに来てから仲良くしてくれている読書仲間の二人に見せた所、二人は────

「 %*(##@U**)%$##────!!!! 」

「 !@#^89&^$#@────!!!! 」

────と声にならない叫びを上げてブリッチ!


そのままビクビクと震えた後、一人が突然ペンを握り一心不乱に絵を書き始め、もう一人は自身の親が営んでいる【 アオゾラ商会 】が営んでいる出版部門への連絡をし始めた。


そうしてあれよあれよとリーフさんとレオンさんをモデルにした小説が出来上がり、限定小説として売り出されると、これが異例の大ヒット!!


私のペンネーム< るるなる >で売り出したこの本は、平民、貴族関係なく若い女性をメインに売れに売れ、実は今やお店の収入の10年分くらいのお金を軽く稼いでしまった。

更に続編も同様に大ヒットし、売上は未だ右肩上がり。

下手な貴族様よりもお金が入るため、ぜひとも母とリーフさんとレオンさんに恩返しを……と目論んでいるのだが、なにせ作品が作品なだけに下手に行動できない。

絶対にお金の出所を心配されて、言う羽目になるだろうと思われる。


多分母もリーフさんも否定したり怒ったりはしないと思うし、レオンさんは無視するだろうと分かっているが……やっぱりそういう性的な話題というか……恋愛に絡んだ系の話は親や年下の異性にしたくないというか……。


どうしようどうしようと悩んでいる間に、リーフさん達の活躍によって街に活気が戻ってきて、お店の売り上げも元通りになったため、とりあえずタイミングを測る事にした。

しかし気持ち程度は……と、母から頼まれた買い出しや日常品のモノは2ランクくらい良い物を。

リーフさん達に出す食べ物は更に上をいく良いものをこっそり買っている。


やっと自分の叶えたい夢が見つかった。

そう自信を持って言える日がすぐに来ると……そう思っていた。


だが────……



私は真っ暗に染まった空の下、ボンヤリと見ていた手のひらをギュッ!と握りしめる。


私、自分のした事が見つかったよって……母に言えずに死んじゃうんだ。


それにゾッ!!として、私は握った拳を顔に近づけ目を強く瞑った。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

処理中です...