上 下
1,107 / 1,315
第三十四章

1092 逃げていただけ

しおりを挟む
( クラーク )


「 全てに対してだ。

クラークには全ての重荷を押し付けた事。

そしてアゼリアに対しては、冷遇されているのを知っていたにもかかわらず、見て見ぬふりをし続けた事だ。 」


その内容にも驚き固まってしまった俺達だったが、先に立ち直った俺が、まだ頭を挙げないドルトン様に話しかける。


「 そ……それは仕方のない事です。

ドルトンお祖父様はご引退された身……口を出す権利がそもそもなかったではありませんか。

謝罪していただく事は何も……。 」


「 確かにそれも原因の一つではあった。

引退した身で現当主となった者に口を出すのは烏滸がましい事……しかし、それが本当の理由ではないのだ。


私は…… 」


ドルトン様は、ブルブルと小さく震え出し、絞りだす様な声で続けて言った。


「 私は……怖かったのだ……。

子を育てそこね、代々続いてきた誇りあるレイモンド家を汚す原因を自分が作ってしまった事が……。

それに向き合う勇気がなかった。

自分が今までしてきた沢山の努力が……その結果打ち立ててきた功績の数々が……全て無意味なモノだったと突きつけられる様で……。


だから私は逃げてしまったのだ。


” やることは全てやった。 ”

” 自分の役目はここまでだ。 ”


────と。 」


「 …………。 」


自分の祖父であり、前レイモンド家の当主であったドルトン様は、レイモンド家に相応しい魔法の才を持って生まれ、今まで偉業とも言える沢山の功績を残してきたお方だ。

それこそ伝説の様に語られている初代様を思い出させる様な存在だと周りも言う。

しかし────……。


俺は今目の前で小さく震えているドルトン様を見つめながら、その心中を察した。


努力すればするほど……そして周りがそれを認めてくれればくれるほど、何かにつまずいた時にどうしていいのか分からなくなってしまったのかもしれない。


自分の過去を思い出し、ズキリ……と胸が痛む。


失敗を受け入れると言う事は、今まで自分が築き上げてきた事全てを否定しなければならない。

それはそこにたどり着くまで必死に努力する程、辛く耐え難いモノだ。


……その気持ちは痛いほど分かる。


形は違えど俺も同じだったから。



俺は未だ沈黙を続けているアゼリアの方をチラッと見ると、アゼリアは驚きすぎて思考が停止している様だ。

そしてその後、ドルトン様は静かに頭を上げて、俺達を見下ろすと自傷気味に笑った。


「 しかしこんな情けなくともいつかは決着をつけなければならん。

元レイモンド家の当主として、親として……。

だから私はお前たちが成人した後、ローズとロイドを道連れに命を断つつもりであった。

これ以上己の罪によって祖先たちが守り続けてきたレイモンド家を好きに扱わせるわけにはいかなかったからな。 」


それにはギョッ!!と目を剥き、同様を隠せなかった俺とアゼリアは、大きく身体を震わせドルトン様を見上げる。

するとそこには嘘偽りのない真剣な目があった。


本気で俺の両親と共に心中を……。


重い言葉に息を飲めば、ドルトン様は困った様に笑う。


「 子を育てそこねた情けない男にはそれしか責任の取り方はないと思っていた。

しかし──── 」


────バッ!!

ドルトン様は突然勢いよく真っ黒に染まった空を見上げて大声で叫んだ。


「 ” 足掻いて足掻いてハッピーエンド ” !! 」


「「 …………っ!!?? 」」


俺とアゼリアは覚えがあり過ぎる言葉に動揺して、視線は黒き空へ。

ドルトン様はそのまままるで少年に戻ったかの様にワクワクした顔で俺達の方へ視線を戻す。


「 なんて強烈で重たい言葉なんだろうな!

今まで私は何一つ足掻いてなどいなかった!

ただ否定されることを恐れて逃げていただけで、そんな臆病者の命一つで全てを終わらせようとしていたのだ。

ただ流されるまま、過去の栄光だけを必死に抱えて……。 」


耐える様に言い放ったドルトン様をただ見つめていると、突然【 四柱 】と戦っていた< ヒャクメ・カオス >が攻めきれない状況に苛立ったのか、瞳の色を ” 茶色 ” に変えて、こちらに向かって全力で突進してきた。


「 茶色……っ!土属性か!! 」


アゼリアが叫び、視線を俺の方へ。

俺がそのまま土属性の魔法を打とうと魔力を練ろうとしたのだが────……ドルトン様は静かに俺達の前に出ると、巨大な魔力を纏った拳を大きく引いてそのまま< ヒャクメ・カオス >を殴りつけた。



<剛魔術師の資質>(ユニーク固有スキル)


< 剛腕の魔術師 >

属性魔力を拳に集中させて使う事ができる特殊強化系攻撃スキル

魔力、属性魔力値、力のステータス値が高い程その威力は増す超火力型の攻撃をする事ができる。

また全ての攻撃に ” 物理属性 ” もプラスされる


(発現条件) 

一定以上の体力、魔力、魔力操作、属性魔力値、力のステータス値を持つこと

一定回数以上魔力なしの拳での戦闘経験値を持ち、勝利する事




ドルトン様の拳に纏っている魔力は ” 土属性 ” 

土属性に有利な風属性の結界を張られてしまったが、それでも殴りつけられた< ヒャクメ・カオス >は大きく吹き飛っとんでいったため、ワッ!!と周りからは歓声が上がった。


とんでもない力押しの魔術に俺とアゼリアがあんぐりと口を開けていると、ドルトン様はフッ!と自身の拳に息を吹きかけ不敵に笑う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結】異世界転移パパは不眠症王子の抱き枕と化す~愛する息子のために底辺脱出を望みます!~

北川晶
BL
目つき最悪不眠症王子×息子溺愛パパ医者の、じれキュン異世界BL。本編と、パパの息子である小枝が主役の第二章も完結。姉の子を引き取りパパになった大樹は穴に落ち、息子の小枝が前世で過ごした異世界に転移した。戸惑いながらも、医者の知識と自身の麻酔効果スキル『スリーパー』小枝の清浄化スキル『クリーン』で人助けをするが。ひょんなことから奴隷堕ちしてしまう。医師奴隷として戦場の最前線に送られる大樹と小枝。そこで傷病人を治療しまくっていたが、第二王子ディオンの治療もすることに。だが重度の不眠症だった王子はスリーパーを欲しがり、大樹を所有奴隷にする。大きな身分差の中でふたりは徐々に距離を縮めていくが…。異世界履修済み息子とパパが底辺から抜け出すために頑張ります。大樹は奴隷の身から脱出できるのか? そしてディオンはニコイチ親子を攻略できるのか?

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

処理中です...