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第三十四章
1092 逃げていただけ
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( クラーク )
「 全てに対してだ。
クラークには全ての重荷を押し付けた事。
そしてアゼリアに対しては、冷遇されているのを知っていたにもかかわらず、見て見ぬふりをし続けた事だ。 」
その内容にも驚き固まってしまった俺達だったが、先に立ち直った俺が、まだ頭を挙げないドルトン様に話しかける。
「 そ……それは仕方のない事です。
ドルトンお祖父様はご引退された身……口を出す権利がそもそもなかったではありませんか。
謝罪していただく事は何も……。 」
「 確かにそれも原因の一つではあった。
引退した身で現当主となった者に口を出すのは烏滸がましい事……しかし、それが本当の理由ではないのだ。
私は…… 」
ドルトン様は、ブルブルと小さく震え出し、絞りだす様な声で続けて言った。
「 私は……怖かったのだ……。
子を育てそこね、代々続いてきた誇りあるレイモンド家を汚す原因を自分が作ってしまった事が……。
それに向き合う勇気がなかった。
自分が今までしてきた沢山の努力が……その結果打ち立ててきた功績の数々が……全て無意味なモノだったと突きつけられる様で……。
だから私は逃げてしまったのだ。
” やることは全てやった。 ”
” 自分の役目はここまでだ。 ”
────と。 」
「 …………。 」
自分の祖父であり、前レイモンド家の当主であったドルトン様は、レイモンド家に相応しい魔法の才を持って生まれ、今まで偉業とも言える沢山の功績を残してきたお方だ。
それこそ伝説の様に語られている初代様を思い出させる様な存在だと周りも言う。
しかし────……。
俺は今目の前で小さく震えているドルトン様を見つめながら、その心中を察した。
努力すればするほど……そして周りがそれを認めてくれればくれるほど、何かにつまずいた時にどうしていいのか分からなくなってしまったのかもしれない。
自分の過去を思い出し、ズキリ……と胸が痛む。
失敗を受け入れると言う事は、今まで自分が築き上げてきた事全てを否定しなければならない。
それはそこにたどり着くまで必死に努力する程、辛く耐え難いモノだ。
……その気持ちは痛いほど分かる。
形は違えど俺も同じだったから。
俺は未だ沈黙を続けているアゼリアの方をチラッと見ると、アゼリアは驚きすぎて思考が停止している様だ。
そしてその後、ドルトン様は静かに頭を上げて、俺達を見下ろすと自傷気味に笑った。
「 しかしこんな情けなくともいつかは決着をつけなければならん。
元レイモンド家の当主として、親として……。
だから私はお前たちが成人した後、ローズとロイドを道連れに命を断つつもりであった。
これ以上己の罪によって祖先たちが守り続けてきたレイモンド家を好きに扱わせるわけにはいかなかったからな。 」
それにはギョッ!!と目を剥き、同様を隠せなかった俺とアゼリアは、大きく身体を震わせドルトン様を見上げる。
するとそこには嘘偽りのない真剣な目があった。
本気で俺の両親と共に心中を……。
重い言葉に息を飲めば、ドルトン様は困った様に笑う。
「 子を育てそこねた情けない男にはそれしか責任の取り方はないと思っていた。
しかし──── 」
────バッ!!
ドルトン様は突然勢いよく真っ黒に染まった空を見上げて大声で叫んだ。
「 ” 足掻いて足掻いてハッピーエンド ” !! 」
「「 …………っ!!?? 」」
俺とアゼリアは覚えがあり過ぎる言葉に動揺して、視線は黒き空へ。
ドルトン様はそのまままるで少年に戻ったかの様にワクワクした顔で俺達の方へ視線を戻す。
「 なんて強烈で重たい言葉なんだろうな!
今まで私は何一つ足掻いてなどいなかった!
ただ否定されることを恐れて逃げていただけで、そんな臆病者の命一つで全てを終わらせようとしていたのだ。
ただ流されるまま、過去の栄光だけを必死に抱えて……。 」
耐える様に言い放ったドルトン様をただ見つめていると、突然【 四柱 】と戦っていた< ヒャクメ・カオス >が攻めきれない状況に苛立ったのか、瞳の色を ” 茶色 ” に変えて、こちらに向かって全力で突進してきた。
「 茶色……っ!土属性か!! 」
アゼリアが叫び、視線を俺の方へ。
俺がそのまま土属性の魔法を打とうと魔力を練ろうとしたのだが────……ドルトン様は静かに俺達の前に出ると、巨大な魔力を纏った拳を大きく引いてそのまま< ヒャクメ・カオス >を殴りつけた。
<剛魔術師の資質>(ユニーク固有スキル)
< 剛腕の魔術師 >
属性魔力を拳に集中させて使う事ができる特殊強化系攻撃スキル
魔力、属性魔力値、力のステータス値が高い程その威力は増す超火力型の攻撃をする事ができる。
また全ての攻撃に ” 物理属性 ” もプラスされる
(発現条件)
一定以上の体力、魔力、魔力操作、属性魔力値、力のステータス値を持つこと
一定回数以上魔力なしの拳での戦闘経験値を持ち、勝利する事
ドルトン様の拳に纏っている魔力は ” 土属性 ”
土属性に有利な風属性の結界を張られてしまったが、それでも殴りつけられた< ヒャクメ・カオス >は大きく吹き飛っとんでいったため、ワッ!!と周りからは歓声が上がった。
とんでもない力押しの魔術に俺とアゼリアがあんぐりと口を開けていると、ドルトン様はフッ!と自身の拳に息を吹きかけ不敵に笑う。
「 全てに対してだ。
クラークには全ての重荷を押し付けた事。
そしてアゼリアに対しては、冷遇されているのを知っていたにもかかわらず、見て見ぬふりをし続けた事だ。 」
その内容にも驚き固まってしまった俺達だったが、先に立ち直った俺が、まだ頭を挙げないドルトン様に話しかける。
「 そ……それは仕方のない事です。
ドルトンお祖父様はご引退された身……口を出す権利がそもそもなかったではありませんか。
謝罪していただく事は何も……。 」
「 確かにそれも原因の一つではあった。
引退した身で現当主となった者に口を出すのは烏滸がましい事……しかし、それが本当の理由ではないのだ。
私は…… 」
ドルトン様は、ブルブルと小さく震え出し、絞りだす様な声で続けて言った。
「 私は……怖かったのだ……。
子を育てそこね、代々続いてきた誇りあるレイモンド家を汚す原因を自分が作ってしまった事が……。
それに向き合う勇気がなかった。
自分が今までしてきた沢山の努力が……その結果打ち立ててきた功績の数々が……全て無意味なモノだったと突きつけられる様で……。
だから私は逃げてしまったのだ。
” やることは全てやった。 ”
” 自分の役目はここまでだ。 ”
────と。 」
「 …………。 」
自分の祖父であり、前レイモンド家の当主であったドルトン様は、レイモンド家に相応しい魔法の才を持って生まれ、今まで偉業とも言える沢山の功績を残してきたお方だ。
それこそ伝説の様に語られている初代様を思い出させる様な存在だと周りも言う。
しかし────……。
俺は今目の前で小さく震えているドルトン様を見つめながら、その心中を察した。
努力すればするほど……そして周りがそれを認めてくれればくれるほど、何かにつまずいた時にどうしていいのか分からなくなってしまったのかもしれない。
自分の過去を思い出し、ズキリ……と胸が痛む。
失敗を受け入れると言う事は、今まで自分が築き上げてきた事全てを否定しなければならない。
それはそこにたどり着くまで必死に努力する程、辛く耐え難いモノだ。
……その気持ちは痛いほど分かる。
形は違えど俺も同じだったから。
俺は未だ沈黙を続けているアゼリアの方をチラッと見ると、アゼリアは驚きすぎて思考が停止している様だ。
そしてその後、ドルトン様は静かに頭を上げて、俺達を見下ろすと自傷気味に笑った。
「 しかしこんな情けなくともいつかは決着をつけなければならん。
元レイモンド家の当主として、親として……。
だから私はお前たちが成人した後、ローズとロイドを道連れに命を断つつもりであった。
これ以上己の罪によって祖先たちが守り続けてきたレイモンド家を好きに扱わせるわけにはいかなかったからな。 」
それにはギョッ!!と目を剥き、同様を隠せなかった俺とアゼリアは、大きく身体を震わせドルトン様を見上げる。
するとそこには嘘偽りのない真剣な目があった。
本気で俺の両親と共に心中を……。
重い言葉に息を飲めば、ドルトン様は困った様に笑う。
「 子を育てそこねた情けない男にはそれしか責任の取り方はないと思っていた。
しかし──── 」
────バッ!!
ドルトン様は突然勢いよく真っ黒に染まった空を見上げて大声で叫んだ。
「 ” 足掻いて足掻いてハッピーエンド ” !! 」
「「 …………っ!!?? 」」
俺とアゼリアは覚えがあり過ぎる言葉に動揺して、視線は黒き空へ。
ドルトン様はそのまままるで少年に戻ったかの様にワクワクした顔で俺達の方へ視線を戻す。
「 なんて強烈で重たい言葉なんだろうな!
今まで私は何一つ足掻いてなどいなかった!
ただ否定されることを恐れて逃げていただけで、そんな臆病者の命一つで全てを終わらせようとしていたのだ。
ただ流されるまま、過去の栄光だけを必死に抱えて……。 」
耐える様に言い放ったドルトン様をただ見つめていると、突然【 四柱 】と戦っていた< ヒャクメ・カオス >が攻めきれない状況に苛立ったのか、瞳の色を ” 茶色 ” に変えて、こちらに向かって全力で突進してきた。
「 茶色……っ!土属性か!! 」
アゼリアが叫び、視線を俺の方へ。
俺がそのまま土属性の魔法を打とうと魔力を練ろうとしたのだが────……ドルトン様は静かに俺達の前に出ると、巨大な魔力を纏った拳を大きく引いてそのまま< ヒャクメ・カオス >を殴りつけた。
<剛魔術師の資質>(ユニーク固有スキル)
< 剛腕の魔術師 >
属性魔力を拳に集中させて使う事ができる特殊強化系攻撃スキル
魔力、属性魔力値、力のステータス値が高い程その威力は増す超火力型の攻撃をする事ができる。
また全ての攻撃に ” 物理属性 ” もプラスされる
(発現条件)
一定以上の体力、魔力、魔力操作、属性魔力値、力のステータス値を持つこと
一定回数以上魔力なしの拳での戦闘経験値を持ち、勝利する事
ドルトン様の拳に纏っている魔力は ” 土属性 ”
土属性に有利な風属性の結界を張られてしまったが、それでも殴りつけられた< ヒャクメ・カオス >は大きく吹き飛っとんでいったため、ワッ!!と周りからは歓声が上がった。
とんでもない力押しの魔術に俺とアゼリアがあんぐりと口を開けていると、ドルトン様はフッ!と自身の拳に息を吹きかけ不敵に笑う。
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