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第三十四章

1090 【 荒唐の道化師 】

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( クラーク )

解析班の言葉に焦った周りの兵達は、効かないと分かっていても気を逸らそうと一斉攻撃を開始し、アゼリアは俺の前に立ち刀を構える。


「 魔法攻撃が来る!!どけっ!!アゼリア!! 」


「 脆弱な防御陣でそんなモノが全て防げるか!!

少しでも威力を削ぐ!! 」


今の状況でこんな攻撃を俺一人で受け止めれば恐らく……。


自分の身体がバラバラになる映像が頭に一瞬浮かぶと、ブルッと身体は大きく震えたが、それと同時にアゼリアも一緒にバラバラになる映像が浮かび、身体の震えは更に大きくなった。


「 どけぇぇぇぇ────────っ!!! 」


焦った俺はと力の限り叫んだ、その瞬間────────化け物から凄まじい威力の雷魔法が打たれる。


カッ!!と強い光を周囲に振りまき帯電しながらこちらへまっすぐ向かってくるそれを目にし、考えるより先に身体が動いた。


俺の手は前にいるアゼリアの襟元へ。

そして力の限り、グッ!!と後ろに引っ張り、俺の後方へとふっとばす!


「 ────はっ?? 」


前の攻撃に全意識を集中していたアゼリアは簡単にふっ飛ばされてくれて、間抜けな顔がスローモーションの様に俺の目に映った。


俺が倒れたら結界が!────とか……全ての事は頭からすっぽ抜けて、ただ目の前にいる ” 家族 ” を助けようと動いてしまったのだ。


そして目の前に迫る、巨大な雷の塊と訪れるであろう ” 死 ” を感じ、突然フッと理解した。


これが本当の ” 家族愛 ” か────と。


欲しい言葉だけ一方的に与えるのではない、お互いを想い助け合いたい気持ち。

家族愛って貰うだけでもあげるだけでも駄目なモノだったのか……。


冷静にそんな事を考えながら口からは笑みが溢れる。



俺はずっとずっとそれが欲しくて、だからそれを持っているはずだと思い込んでいた両親に縋り続けた。

でもそれを持っていたのはずっと疎んで犠牲にし続けたアゼリアだったとは……こんなに皮肉で滑稽な話はない。


これではまるで俺は【 荒唐の道化師 】の様だなとボンヤリと思った。




【 荒唐の道化師 】


これは天賦の才を授かった、ある男の話。

男には生まれつき類まれなる頭脳と武の才能があり、それをたいそう喜んだ男の両親は、男をまるで神様の様に扱い惜しみない愛を与えた。


” 私達の可愛い可愛い息子。 ”

” お前は私達の誇りだ。 ”


そこは眩いばかりの光が差す場所で、投げられるのは尊敬の眼差しと己を褒め称える賛辞の声の数々。

男はこの場所こそが世界で最も幸せな場所なのだと確信していた。


────が……そんな男の唯一の汚点。


男には出来こそないの兄が兄がいて、兄はこれといった才に恵まれず、両親からも周囲からも疎まれて生きていた。


” 何も持っていない兄は我が家の恥! ”


兄のいる場所は、陽の差さぬ真っ暗な場所で、ぶつけられるのは見下す様な目と己を罵る言葉の数々。

そんな世界一不幸せな場所でも────兄は努力することを諦めなかった。

男はそれが目障りで目障りで仕方がない。


そんなある日の事。

才はなくとも周りに何を言われようとも努力をし続けた兄は、女神の目に留まり、神の国の住人に選ばれた。

すると途端に男のいる場所は、光が差す場所から一転。

真っ暗な闇の中へ。


実は光が差していた幸せの場所は全て幻で、そこは地獄だったのだ。


それから男はその地獄の中を宛もなく彷徨う事になったが、そんな苦痛に塗れた日々の中、頭に常に浮かんでいたのは兄の事。

そして自分が本当に望んだ場所はどの様な場所だったのか、欲しかったモノは何なのか?だった。


しかしその答えは分からず、やがて地獄は形を変えていき大きな翼が生えると、そのまま神の国を襲い始める。

神の国はそれはそれは美しい国で、それが闇に飲まれていくのを目にした男は、唐突に理解した。


” あぁ、俺はこの場所に辿り着きたかったのか ” 


それに気付いた時にはもう手遅れ。


最後まで懸命に戦い二度と動かなくなってしまった兄の亡骸を見下ろし、その場所は全て兄が持っていってしまったと気付いたから。


そしてそれに気付いてしまった男の身体はゆっくりと地獄と同化していく。


” もっと早くに気づいていれば、結末は変わったのだろうか? ”


心は ” 絶望 ” を生み出し、それが男から感情を奪っていった。

もう痛みも苦しみも感じない。


地獄と完全に同化してしまった男にとって、そこが幸せの場所になったから。




小さい頃に気まぐれで父が買ってきた不気味な絵本。

当時の俺の心には何一つ響かなかったその内容が、今は驚くほど自分の中に入ってきた。


この【 荒唐の道化師 】は俺だ。

流され続けてしまった先の未来にいる俺。


失わなければ何一つ気づかない滑稽な男の話。

そして失っても尚、変わる事ができずにとうとう地獄そのものになってしまった。


後ろにふっとばしたアゼリアが、間抜けな面から一転し焦った様子で手を伸ばす姿が、これまたスローモーションで見えて、俺は非常に満足して微笑む。


最後の最後で俺は【 荒唐の道化師 】にならなかったぞ!

ざまぁみろ!


未だに俺を隙あらば引っ張ろうとしていくる ” 地獄 ” に向かって大声で叫んだ後、俺は凄まじい衝撃を覚悟し、ギュッ!と目を閉じた。



────────が……?

待てども待てどもその衝撃は来ず、俺はゆっくりと目を開ける。


するといつの間にか俺の前には四人の男女が立っていて、その前方には非常に複雑な術式で描かれている魔法陣が形成されていた。


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