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第三十四章

1084 新たな敵

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( クラーク )

マービン様の家である< ライロンド家 >は、エドワード派閥内では現在No.2に君臨している。

それはマービン様の実の母であるルィーン様が非常に身分に偏った考えを持っている過激な性格をしているからなわけだが、そんなルィーン様がここへ戻ってしまったマービン様を許すはずがない。


つまりこれは実質子から親への絶縁を叩きつけた形になってしまうわけだが、それに後悔はないのかと、アゼリアは言いたいのだ。


そしてそこに隠された意図を理解し……俺は目を伏せた。


アゼリアが本当に聞きたかったのはマービン様ではなく、俺に対して。


なぜなら両親もルィーン様と同じく、非常に偏った身分に対する考えを持つエドワード派閥のナンバー3だから。

つまり俺がココへ戻ったという事は────両親に絶縁を叩きつけたという事だ。


記憶の中の両親を思い出すと、今の俺を指差し大罪人であるかの様に罵り断罪してきたので、俺はフンッと鼻で笑ってやった。


” 親と子の絆は尊いものである ”

親は子のため命を賭けて守ろうとし、子は親のために身を犠牲にしても助けようとする……そんな世に溢れている親子の姿は、確かに尊いモノで世界一素晴らしいモノだと思う。


しかし……


残念ながらそうでないモノも存在している。



それが俺の両親と俺。そしてアゼリアだ。


今まで過ごしてきた日々を思い出し、眉間にシワが寄る。


歪んでしまった家族の形では誰も前に進めない。

前に進もうとしても、全力でのしかかり ” 進ませるものか! ” と共に地獄に落ちるしかできない親と子もいるのだ。

俺は灼熱の地獄で彷徨いながら背負わされていたモノを思い出し、ソッ…と肩に触れた。


「 共に地獄に行くよりマシだろう。

それに……どちらか一方でも落ちなければ、いつかは這い上がってこれるかもしれないからな。 」


俺の答えにアゼリアは不思議そうな顔をしたが、「 そうかもな。 」と言ってそれきり何も聞いてこない。

アゼリアの気遣いを感じ、俺は楽しくなってきて思わずクックッと笑ってしまった。


あの灼熱の地獄に置いてきた両親は今頃どうしているのだろうか。

自分の足で歩かねば一生このままだと気づき、必死に歩き始めたのか……それとも自分たちを捨てていってしまった俺への呪詛を唱えながら、まだあそこでジッと俺が戻るのを待っているのか……。


俺は絶対に戻らない。

だから自分の足で歩かねばこの先二度と会うことはない。


「 俺の両親に対する想いは今、貴様が持っている想いとほぼ同じだと思うぞ。

────うん、悪くない気分だ。 」


歪んだ家族との決別は既に終えた。

だから俺もアゼリア同様、後ろは振り返らずに前に進む────という趣旨の事を言うと、アゼリアは突然ニタリッと凶悪な笑みを浮かべる。


「 なるほど?

つまり貴様もあいつらをぶっ飛ばすつもりであると、そういう事だな。 」


その言葉のせいで急速に盛り上がっていた心は一瞬で冷えた。


「 ……違う。一緒にするな。蛮族女。 」


「 …………。 」


「 …………。 」


その後二人で揃って無言になったが、直ぐに突っ込んできたモンスター達を蹴散らし、見事なチームタッグで敵を倒す。


「 ────くそっ……!本当にきりがないな!

そもそも呪いの化け物にプラスしてここまでやる必要などなかろう! 」


アゼリアが前から飛びかかってこようとしたモンスターをふっとばしそう叫ぶと、俺はモヤモヤと先程から心を曇らせる不安を口に出した。

「 ……どうかな?

俺は寧ろこれだけではないのではないかと……そんな気がするんだ。

もっと何か……。 」


具体的な事は思いつかないが、ずっとガンガンと警告の様なモノが体内で鳴っている様な気がして落ち着かない。

これは魔力が高い者特有の第六感的なモノで、何か重大な事が起こる前に身体に未知の感覚が湧き上がる事がある。

今がまさにそれで、嫌な事にそれが外れた事は今までない。

警戒を強めていく俺とは対照的に、アゼリアはやれやれと肩をすぐめ、俺を小馬鹿にする様に言った。


「 流石にこれ以上はないだろう。

連中もまさか ” 呪い ” を消してしまう者が現れるなど想定外の事だっただろうからな。 」


「 ……そうだといいがな。 」


未だ歯切れの悪い俺に、アゼリアは小馬鹿にするのを止め真剣な顔に戻る。

どうやらアゼリアも俺同様に嫌な予感を感じ始めた様子だった。


” 悪 ” は相手を叩き潰す事に手を抜かず、常人では考えもつかない方法を使ってくるモノ。


それをアゼリアとて嫌という程知っているはずだからだ。


そのまま二人で無言で敵を倒していると────突然街中にまた爆発音が鳴り響いた。

しかも連続して何度も鳴ったので、驚いて同時にハッ!と街の方へ視線を向け────俺の方は正体不明のあるモノの気配を感じ、ドッ!と汗を大量に掻いて固まる。


「 何だ?!また爆発……?もしや別のモンスターボックスか!? 

くそっ……まだ増えるというのか。 」


チッ!と舌打ちしながら文句を口にするアゼリアだったが、俺の様子がおかしい事に気づきピクリと肩を動かした。


「 ……おい、どうし──── 」


「 アゼリア、絶対に気を抜くな。

街中にあり得ない程強大な魔力を持った奴らが複数出現した。

こんな魔力……Aランク……?


────いや、そんなレベルでは……。 」


青ざめてブツブツ呟く俺に驚いていたアゼリアだったが、ものすごいスピードで近づいてくるその中の一匹の存在にやっと気付いたらしく、直ぐに青ざめ無言で刀を構える。

すると、その瞬間────空を舞う伝電鳥達が一斉に叫んだ。
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