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第三十二章

1048 怒涛の展開

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( ニコラ )

男が出した小窓が開くと、そこからは大量の伝言シャボンが飛び出してきては、パチンパチンッと弾けて沢山の声を伝えてくる。


《 ロレイズ家アーリン、只今よりグリモア防衛戦に参戦いたします。 》


《 カントリー家ロレンツォ、グリモアに向かい、現在リターン中。 》


《 ライナーズ家、リヤル、只今より公爵家リーフ様の元、戦いに参戦いたします。 》


次々と伝えられる貴族の子息と令嬢からの声に、その親であるその場の者達はそれを聞きながら立ち尽くしていた。

私も含めて誰も彼もがその行動に驚き、それぞれ自身の子の名前を呟く。


それと同時に沢山の ” リーフ ” という言葉を聞き、顔面蒼白となってしまったカールとマリナ。

ワナワナと震え、今にも倒れそうな彼らは「 邪神の…… 」「 絶望の……神…… 」とブツブツ呟いていた。

エドワードは上手く事が運ばない事に激怒している様で、ブツブツと何かを呟きながら、瞳を濁らせている様だ。


何でも思い通りにしてきたが故、それが上手くいかない時は常人が想像できない程の激情に晒される。

権力と暴力で人を支配してきた彼らにこの状況は耐えられるモノではないはず。

だからまたそれを振りかざして反撃してくるだろうと思っていると、案の定騒ぎ出したのはエドワード派閥のNo.2ライロンド家のルィーンだ。


「 まぁまぁまぁっ!!!なんてことでしょう!!

皆様しっかりなさってくださいな!!

全ては子を育てそこなったご自分達を恥じて、貴族としてその失敗作をしかるべき対応で即刻切り捨てるべきですわ。

────全くっ!!どういう育て方をしたらこの様な恥知らずのお子が育つのでしょうね。

私には一切理解できません! 」


「 そうですわ!!

自身の家を守るという義務も果たさずこの様な勝手な行動をするなど……申し訳ありませんがまともな教育をしてこられなかったのかしら?と思ってしまいますわ。

貴族として選べる選択肢は一つしかありませんね。 」


ルィーンに続きエドワード派閥No.2レイモンド家の当主妻ローズが周りにいる貴族達を蔑む様な目で見回す。

するとそれに気を悪くした者達がそんな二人を睨み返すと、直ぐにレイモンド家の当主であるロイドが口を挟んだ。


「 貴族の子たるもの家のためにその命を使うべきだというのに、個人の感情で動くなどあり得ない事だ。

私はそんな愚かな行動をする子の家とは親しくしたくないですね。

信用はゼロ!

何を選ぶかはご自身で決めれば良いと思いますが……他の家族や領民達には迷惑が掛かるでしょうねぇ~? 」


遠回しに脅しを掛けてくるロイドに、睨んでいた者達は悔しげに唇を噛む。

その姿を見て勝利を確信した三人はニヤッとほくそ笑んだが────小窓から最後に飛び出た伝言シャボン達が弾けるとそのままビシッ!!と固まった。


《 ライロンド家マービンっ!!

これから俺は公爵家リーフ様の元、グリモア防衛戦に参戦する!!

全員俺に従えぇぇぇぇ────────!!!わーーっはっはっ!!! 》


《 レイモンド家クラーク。

これよりリーフ様の命により、グリモアへと戻り足掻いてハッピーエンドを目指します。 》


「「「 はぁぁぁぁぁ────────っ!!!!???? 」」」


まさにジャストなタイミングで、他の貴族の子らと同様にグリモアへ引き換えしたらしい自身の子の伝言を聞き、三人は顔色を無くして叫ぶ。

今まで順応で言う事を聞いてきた子らの反抗に思考は停止してしまった様だが、直ぐに立ち直ったルィーンは手に持つ扇子を振り回し怒鳴り散らした。


「 ────っ!!リーフぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!

そいつねっ!!我が子マービンをそそのかしたのはっ!!


ダリオスっ!!!直ぐに【 飛竜隊 】を出しなさいっ!!

マービンだけは何としても助ければ……っ!! 」


「 クラークっ!!!なんてことっ!!

クラークがここで命を落としてしまってはレイモンド家は……!! 」


「 ────くっ!!クラークにはこれから頑張ってもらわないと我が家は破滅だっ……!!


────っ!!そうだ!!【 四柱 】!!

今こそレイモンド家の主力部隊【 四柱 】を出す時です!!

クラークを直ぐに保護してもらわなければ……っ。


そうでしょう?!ドルトン様!! 」


ルィーンは自身の夫であり【 飛竜隊 】の隊長を務めているダリオスに自身の子であるマービンの救出を命じ、ローズとロイドは現在自分たちに従わないレイモンド家の専属私兵団【 四柱 】を動かして貰おうと先代であるドルトンに詰め寄る。


まさか貴族の子たちが一斉にこんな行動を起こす事に驚いた……。


ルィーンたちの滑稽な姿を他所に、私はグリモア上空を飛び回っている< 中継映像体 >の映像を見つめながら────自分の中から熱く滾る思いが飛び出そうになるのを感じていた。


「 まるで何かに導かれる様にどんどん状況が変わっていくな……。 」


ボソッと呟くとエドワードとカール夫妻がギロリッ!と私を睨みつけてくる。

勿論真っ向からその視線を受け睨み返してやったが、突然ルィーンの大きな金切り声に全員の視線がそちらに向いた。


「 ダリオスっ!!!聞いているのっ!!??

────全くっ貴方ときたら!!

所詮は元野蛮で頭足らずな第二騎士団出身だけありますわね!! 」


いつも通り無表情だが、ジッ……とグリモアの映像を見つめるダリオスに、思い通りにならぬ怒り全てをルィーンはぶつける様に怒鳴る。


「 無作法で下品で貴族の気品や誇りの欠片もない役立たずは黙って私の言う事を聞けばいいのよ!!

何を犠牲にしたっていいからさっさとマービンを助けに──── 」



そこでルィーンの話は不自然に止まった。

なぜなら────……



視線をルィーンに向けたダリオスが、突然思い切りルィーンに平手打ちをしたからだ。


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