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第三十二章

1041 呪いを消す者

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( ニコラ )

自分の心を覆っていた ” 絶望 ” が一気に吹き飛ばされ、熱くなっていく胸を堪らず抑えた。


” 未来を諦めるな!! ”

” 足掻いて足掻いて足掻いて──────ハッピーエンドを目指せ!! ”


諦めていた思いが外に飛び出し、綺麗事と切り捨てられてしまった正義の心が輝きだす。


「 の……呪いの攻撃が────っ消え去りました……っ!!! 」


その場にいた解析担当者が拳を握りしめ、感極まった様子でそう言うと、一部の貴族達から今度はワッ!!と大きな歓声が上がった。

勿論私も必死に平静を装いながら、心の中で叫び声を上げる。


どんなにどうにかしようとも ” 呪い ” が相手である限り、諦めるしか方法はなかった。

しかし────……!


私は目を輝かせて、堂々と光の中に立つ神様の様な少年を見つめる。


まさに神の奇跡か…… ” 呪い ” を消し去る者が、今、このタイミングでこの世に現れた!


” もしかすると、あの大厄災の呪いの化け物を……? ”


それは強烈な ” 希望 ” となって私達絶望に塗れた者達の心に光を与えてくれる。


「 そ、そんな……呪いが……打ち消されるなんて……

まさか……神の………う、嘘だっ……!!! 」


ヨロヨロと後退りしながら呟いたのは大司教のグレスターで、それが合図の様に、エドワード派閥の者達はザワザワと騒ぎ出した。


「 あ……あり得ない……っ…あの少年は一体誰なんだ……っ! 」


「 冒険者か……?それとも傭兵……!? 」


「 ……いや、どちらにせよ呪いを消す ” 人 ” などいるはずが……! 」


その正体を知らない者達はああでもないこうでもないと大騒ぎしていたが、私が静かに口を開くと、全員がピタリと動きを止める。


「 彼は……リーフ……リーフ・フォン・メルンブルク。

メルンブルク家の次男だ。 」


” メルンブルク ”

その名を聞いて全員の視線が一斉にカールとマリナへと注がれた。

カールとマリナは二人揃って顎が外れそうな程大きく口を開き、表情を取り繕う事もできない様子であったが、自分たちに視線が集中している事に気づくと、慌てて表情を引き締める。


「 ────な……なんという事でしょう!!

我が最愛の息子があの様に勇ましく化け物に戦いを挑むなど……っ!! 」


片手で顔を覆い、嘆き悲しむカール。

そしてマリナは両手で顔を覆い、ワッ!と泣き出した。


「 私の可愛い息子がそんなっ……!!

あぁ、どうしたらいいのでしょう!!

きっと優しい子だから、一人戦いに戻ったに違いないですわ!! 」


二人はさも心から子供を案じる親の様に見えるパフォーマンスをしたが、その隠された顔の下では、怒りと憎しみに満ち溢れている様だ。

そしてそれ以上に捨てたはずの子供の謎の能力について驚愕しているらしく、驚きの感情がビシビシと伝わってきた。

私も勿論同様に驚いており、画面越しでも震えが止まらぬ程恐ろしい化け物を前に、勇ましく立つメルンブルク家の次男を見上げる。


彼はカールとマリナの正式な子で、生まれて直ぐに捨てられた子供だ。

理由は酷く単純なモノで、 ” 自分たちの持つ価値観に合わないから ” 


そんな馬鹿みたいな理由で捨てられた子供は、当時メルンブルク家の専属執事を務めていたカルパスが保護したため安心していたのだが、まさかこんな場所で見ることになるとは夢にも思わなかった。

まじまじとその姿を見つめていると、なんと続く呪いの蝶の攻撃をまたもや全て打ち消したではないか!

二度も続く呪いの消える瞬間をこの目で見て、もはやこの少年こそ世界で唯一呪いの天敵である事は疑いようはないのだが、それでも信じられないと言った様子で叫ぶ者がいた。


「 そんな馬鹿なっ!!!あり得ないっ!!!

私は信じません!!呪いが消えるなど何かの間違いです!!

だって……だって……そんな事が事実だとすれば────…… 」


大司教のグレスターだ。


グレスターは尋常ではない汗を掻き、頭を抱えている。

そして全ての呪いの攻撃が消えていく様を見て、とうとうその場にヘナヘナと尻もちをついてしまった。


自分が協力したであろう事態を邪魔する ” 奇跡 ” が起きた。

その事は、神に仕えし聖職者にとってまるで信じていた神に拒絶された様な気持ちなのかもしれない。


痛々しいその姿を見つめていると、突然バタバタと音を立ててこの謁見の間に飛び込んできた者達がいた。

その顔には汗が流れ落ち、全力で走ってきたのが分かる様子であった。


「 何事ですっ!!!王の前ですぞっ!!!なんと不敬なっ!! 」


苛つきながらカールが怒鳴ったが、その者達はそれを完全に無視して私の前に跪き頭を下げる。


「 突然の事で大変失礼いたします。

伯爵家< スタンティン家 >の現当主オルガノと妻のアリシアでございます。

我々はニコラ王にご報告をしたく馳せ参じました。 」


「 そうか。問題ない。

────して、報告とは何だ? 」


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