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第三十一章

1040 絶望の神と希望の神

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( ニコラ )


あれが ” 呪災の卵 ” 

全てを呪う本物の化け物か。


私は思わず手を組み、イシュル神に祈りを捧げた。


この恐怖に負けてはならない。

どうか私に力をお貸し下さい。


心の中でそう呟き平静を取り戻すと、目をしっかりと開けてその化け物を睨みつける。


ここからが私の戦いだ。

避難を終えるまで、時間を稼ぐ。

エドワード派閥の者達にこちらの動きを悟らせない様に。


「 王よっ!!今こそご決断をっ!!! 」


エドワードが叫ぶと、高位貴族達は一斉に賛同の声を上げた。


「 呪いの化け物を倒すため、今こそ浄化の力を────っ!! 」


「 どうか ” 正しき ” ご決断を!! 」


「 あの ” 悪 ” を打ち倒し、国を救いましょう!! 」



” そして自分たちにだけ都合の良い国を作りましょう ”



そんな心の声が聞こえてきて、あまりの滑稽さに思わず吹き出しそうになったが、穏やかな笑みでそれを完璧に隠しながら私は言う。


「 その通りだな。

” 悪 ” は滅ぼさなければならぬ。

今日はこの国にはびこる ” 悪 ” の命日だ。 」


自分達の言葉を肯定されたと思ったエドワード派閥は、またワッ!と歓声を上げた。

自分たちの望む ” 正しい世界 ” に間もなく手が届くと信じる彼らにとって、あの呪いの化け物は神様の様なモノだ。

自分の望みを叶えてくれる絶対的存在である神様。


私はその絶望しか与えない恐ろしい神をスクリーン越しに睨みつけた。


「 ある者には ” 希望 ” を与える ” 絶望 ” の神……か。 」


” 希望 ” を与えられたエドワード達はまるでこの世が楽園になったかの様に幸せな顔をしているが、沢山の ” 絶望 ” の上に立つ幸せを喜ぶその姿は、呪いの化け物よりよほど怖いモノだと私は思う。

恐ろしいモノを見つめるかの様にその姿を眺めていると、突然絶望の神様は羽を大きく折りたたみ、周りを舞う小さな蝶達が一箇所に集まりだした。

そしてそれはどんどん大きくなって一つの巨大な球状の黒い塊を前に創り出す。


「 あれはまさかっ……呪いの攻撃?! 」


またしても悲鳴で溢れた中、カールは大きく口元を歪めせ私に叫ぶ。


「 王っ!!何をしておられるのです!!


────あぁっ……!!なんてことだ!!

これで犠牲者がでてしまう……。

残念ながら、これは王の失態でございます。

遅れれば遅れる程国民達の不満の声は大きくなってしまいますぞ? 」


気遣う様に聞こえて、脅すカールの言葉。

ある程度犠牲者を出し、それを最大限に使って私を引きずり下ろすつもりだろう。

見え見えの作戦にハァ……とため息をつきながら、犠牲になるであろう守備隊の戦士達を想う。


すまない……。

しかし、そなたたちの犠牲は決して無駄にはしない。


最大限の敬意を払い、その命の最後をしっかり目に焼き付けるため私はスクリーンを見つめた。

すると放たれた黒い球体はゆっくり……ゆっくりと街を覆う様に落ちていく。


「 ………っ。 」


顔を歪めてその様を見つめる私や一部の貴族達。

そしてまるで尊き神を見上げる様に目を細めるエドワードやカール達高位貴族達。



呪いの神が世界に ” 絶望 ” を────────……





────────ピッ!!!



自分の心も絶望に染まっていく中、黒く覆われていくスクリーン上に、不意に一筋の光が走った。


あれは一体……???


疑問に思ったのも束の間、何と街を覆い尽くさんとする黒い球体は一瞬で消え失せ、スクリーンは光で溢れる。


それにこの場にいる全員が驚き目を見開きながら、尻もちまでつく者達まで現れた。


私もあり得ないその光景に驚き、崩れそうになる足を必死に踏みしめながらスクリーンを見続ける。


呪いが消えた……??

そんな事は……あり得ないっ!!


常識が今見た光景を否定する中、まるで天からの祝福の様に一部の空が晴れ上がり光が地上を照らした。


「 ば……馬鹿な……。 」


スクリーンを見たまま呆然と呟くエドワード。

先に我に帰ったカールが、映像を映し出している魔道具使いに怒鳴るように映像を近づける様に指示を出すと────近づいてくる映像の中、光のスポットの中心に一人の少年らしき人物が立っていた。


茶色い髪に緑色の瞳。

ごく普通の少年にしか見えないその姿には見覚えがあった。


私の視線は、自然と視線はカールとマリナの方へ。

カールとマリナは────────お得意のポーカーフェイスを被る余裕がない様子で目は限界まで見開き口は大きく開いたまま。

汗を大量に掻きながらガクガクと震えている。


「 じゃ……邪神の…子……っ! 」


ボソッとつぶやかれた言葉を聞いて確信した。


あれはメルンブルク家の隠された子供


< リーフ・フォン・メルンブルク >!!


誰もかれもが絶句している中、そのリーフは叫ぶ。



「 俺に呪いは効かないぞ!お前は俺がぶっ飛ばす!!


だから皆!!自分の ” 未来 ” を諦めるな!!



足掻いて足掻いて足掻いて────全員でハッピーエンド、目指そうっ!!! 」


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