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第三十一章

1038 最初の一手

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( ニコラ )

アーサーを一言で表すのなら ” 天才 ” だ。


アーサーは普通では考えられぬ様な視点で物事を考え、思いもよらぬ方法でどんどん新しいモノを作っていく。

そして周りに流されず、広い視野を持ちながら常に物事の真意を的確につく。


そんな大局を見て最善を瞬時に導き出す天才的な能力に、実力高き者達はアーサーに王の片鱗を見たのだと思う。

その事で今まで何とか一つに纏まっていた貴族たちが大きく二分化してしまい、更にそれに目をつけ完全に分断させてしまったのがカールだった。


” 兄弟の確執 ”


これは歴史上を見ても大きな争いを引き起こす非常に危うい感情で、それこそ血なまぐさい戦いや末代まで祟る程因縁深いものだってある。

それをカールはよく理解していて、あろうことか自身の欲望を叶えてくれる環境を作りやすいエドワードに味方し、派閥をあっという間に立ち上げてしまった。


そしてそんな環境は、エドワードが元々持っていた気質を更に開花させてしまい、努力も虚しくエドワードは────私の手が届かない場所へと行ってしまったのだ。


私は後悔した。


カールの性格を考えれば、こんなチャンスを逃すわけがないと気付いてはいたのに、それを止められなかった自分を。

そうして塞ぎ込んでしまった私を慰めてくれたのは、同じ苦しみを味わっていた妻のリンディアだった。


「 兄弟とは共に競い合いお互いを高めるのに最高なモノでもあります。

しかし、だからこそ周りで囁かれる声に誘惑される事も多いでしょう。

辛い時ほど自分を肯定するだけの優しい声に流されてしまいますから。 」


そう言ってリンディアは悲しげに目を伏せる。


王族である限り、必ず大人の思惑や欲望に晒される。

それに対し、まだ未熟な心を持つ子供達は自分を肯定してくれる優しい言葉に、つい誘惑されてしまう事も多いと思うが……王になるならそれでは駄目だ。


自分にだけ優しい世界は多くの者達にとっては地獄だからだ。


それはもはや ” 国 ” ではなく、ただの自分を楽しませるだけの ” おもちゃ ” になってしまう。


虚しさと悲しみを感じ目を閉じると、浮かび上がってきたのは弟であるカールと我が子のエドワードの姿。


そんな ” おもちゃ ” を手にするため、前に進み続けるカールとエドワード。


頭の中に浮かび上がった彼らはひたすら前へと歩いていき、どんどん私がいる場所から遠ざかっていった。


どんなに叫んでも、手を伸ばしても、前しか見えない彼らの歩みは止まらない。

もう自らの足を止める事はできなくなっている様だった。


私はゆっくり目を開け、目を伏せていたリンディアと目を合わせると困った様に笑う。


「 優しい世界からの声を無視するのはとても難しいのだろうな。

人に ” 欲望 ” という感情がある限り。 」


リンディアは私の言葉を聞き、私同様困った様に笑った。


「 そうでしょうね。

今のエドワードに私達の声は届かないし、周りの者達全員の考えを変える事だって難しい。


────なら、私達は立ちふさがる壁になりましょう。

叶えば叶う程巨大化していく欲望を叶えさせない事。

それが国のため、国民達のため、そしてエドワードのためにできるBESTな事です。 」


「 ……そうだな。 」



 ・・
” アレには気をつけろ。決して心を許すな。


────戦え。 ”



リンディアの言葉を聞いて久しぶりに思い出したのは、父の最後の言葉。


持って生まれた気質、それにそんな気質を大きく育ててしまう環境。


どんなにそれを止めようとしても、権力に群がり利用しようと目論む者達がいる限り、エドワードの歩みは止まる事はないだろうと思われる。


それを理解した私達の選んだ選択肢は ” 戦う事 ” で、そんな私達がまず最初にした事は ” 権力の分散化 ” だった。


今まで国の全ての権力は王一人に収束されていて、それにより独裁的にしようと思えばできてしまう環境にあった。

現在身分が高い貴族達の殆どがエドワードについている状況。

そんな中で王の権力を一つにしておけば、仮に私に何かあってエドワードが王になってしまった場合、全ての権力はエドワードのモノになってしまう。


そのためまずは同じ中立派であった教会と手を組み、王である私と子供たちであるエドワード、アーサーに平等に権力を与えた。


そうしてハッキリと権力の線引きをされてしまったエドワードとその派閥達は、教会、私、アーサーと敵対することになり、動き辛くなってしまう。


勿論カールはこの権力の分散化に対し猛反発したが、当時の大司教の男は完全なる中立派で、エドワード派閥に対し否定的な考えを持っていた。

そのためその反発も真っ向から拒否。

流石のカールもまだ幼いエドワードでは私や教会の持つ権力に勝てないと悟り、時を待つことにしたようだ。

これで当分は無茶をしてこようとはしないだろうが、それも一時的な事でこのままではまだ足りない。


エドワードの成長と共に派閥もどんどん成長していき、このままではまずはアーサー派閥を潰しに掛かり、その戦いによって多くの犠牲者を出してしまうだろう。


そのため私は次の手を考えなければならなかったが、そんな中で生まれたのがソフィアだった。


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