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第三十一章

1029 大事なモノはそこに

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( カルパス )

「 以前我が主人の邸に、捨て駒の傭兵たちをけしかけただろう?

その時にお前の偵察用虫型モンスターとこいつをこっそり替えておいた。

約1年弱掛かったが、こいつがお前の内部を少しづつ食い荒らしてくれたお陰でもう身体の自由は……きかないだろう? 」


「 そ、そんな……馬鹿なっ……っ!!

そんな前から私の中に……そんな虫をっ……!?

だから最近私の虫たちの動きがおかしかったのかっ……! 」


動揺しながらレイナが後ずさろうとすると、後ろの方の足もボロボロと崩れ、そのままズド────ンッ!!と大きな音を立てながら地面に倒れてしまう。


「 ぐ…ぐぅぅぅ~っ!! 」


呻きながら私を憎々しげに睨むつけるレイナだったが、新たに自身の胸元から飛び出した< カメレオン・カブト >が持っている、赤いビー玉の様な玉を見て目を大きく見開いた。


「 あ……あ……っ…!!! 」


サァァァーーと顔から血の気が引き、それを凝視するレイナ。

その視線の中、その赤い玉は直ぐに私の手に渡され、私はそれをレイナに見せつける様に前に差し出した。


「 お前のそのスキルは人の身を捨てるモノだ。

だからその身体は最も力の溢れていた20代の姿で止まっているのだろう?

本体は虫の魂と同化し、この玉になってしまっているというわけだ。

これがなければその仮初の姿は保てない。

そうだろう? 」


「 か……返せっ返せっ返せっ────────!!!

それは私の……大事なっ────っモノだっ!!!

とっととその薄汚い手から離せぇぇぇぇぇ────────っ!!!! 」


最後の力を振り絞り、レイナは私の方へと足を伸ばしたが────


バキィィィ────ン………


私はそれをあっさり握りつぶす。


無惨にも砕け散ったその赤い玉は、砕け散りそのままサラサラと砂の様に崩れていった。



「 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ────────────っ!!!!!!! 」



その瞬間、レイナの身体もその玉同様にサラサラと崩れていき、その痛みにレイナは叫びのたうち回ったが………最後にその場に残るのはレイナの上半身だけで、それすらも少しづつ崩れていく。

私はそんなレイナの姿を見て、今までの思い出が一瞬で頭の中を通り過ぎていった。


かつては同志としてお互い切磋琢磨してきた仲間が、欲望に負けてこんな最後を迎える事になった事。

まさにエルビスの言った通り、今の私の心にあるのは怒りも憎しみもなくただ ” 悲しい ” であった。


その感情に支配された私の顔は、現在どんな顔になっているかは知らないが、レイナは私を虚ろな目で見上げグッ……と顔を歪ませる。


「 ……ちっ…ちくしょ……う……。私は……あんたに……ま……けたの……??

い……一体何が……駄目だった……の……?

私の……何……が────っ…… 」


「 駄目……とは言わないさ。

お前の生き方も、きっと ” 人 ” の元々もっている気質の一つなんだろうと思う。

それは誰もが持つ欲望の一つだ。


だが────…… 」


パクパクと口を動かし続けるレイナを見下ろし、困った様に笑った。


「 それに従えば、最後はこうなる。

人はずっと頂点ではいられない。

” 寿命 ” という終わりがある限り、人を使って叶えてきた欲望は残酷な終わりをその者に与えるだろう。 」


「 く……そぉぉ……死にたく……な……い……。

何でも手に入る……最高の……世界から……消えたく……な……い……。


今までの……人生に後悔なんて……して……な……いっ。

役に立たない……ゴミ……を使って……幸せに……っ!クソ田舎じゃ……こんな幸せ……は……手に入らなかったっ!! 」


ゴボッ!!と大きく咳き込んだレイナは最後は大声で叫び、自身の正当性を語る。

それについて無言で返事を返すと、レイナは大きく息を吸い虚ろな目で、口をゆっくりと開いた。


「 …………でも……何故かしら……ね……?

今、私の頭の中……に浮かぶの……は……キラキラ光る……世界じゃ……ない……の。

クソ田舎……での……辛い日々……。

何もない……広いだけ……畑…………老いぼれ……た両親と、甘ったれ……妹と弟……それに────。 」


レイナの目からは小さな水滴が流れ落ち、それは地面に静かにポタッと落ちる。


「 ……優しい……だけ……が……取り柄……の…………トマ……ス…………。 」


それだけレイナは呟くと、目は光を失いそのまま二度と口を開く事はなかった。


私は防御を失った< 聖浄結石 >を手に取り、そのまま粉々に砕くと、物言わぬレイナの身体を見下ろし、眉を僅かに下げる。

                  ・・
「 それはお前にとって最も大切だったモノがそこにあったからだろう。

この愚かな者め。 」



< 傭兵ギルド前 >


カルパス VS レイナ


カルパスの勝利

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