上 下
1,019 / 1,315
第三十章

1004 過去

しおりを挟む
( レイナ )

「 レイナ、初めて会った時、君はとても強く美しかった。

情報によって自分と同じ目に合う人を失くしたいと、そんな正義を掲げて必死に努力する姿を尊敬していたよ。

良き友、そして良き同僚としてこれからも共に戦っていけるとそう思っていたが────君は変わってしまった。 」


「 はぁ~?何?

カルパスってあんな冴えなくて地味な感じが好きだったの?

趣味悪すぎでしょ~。 」


鼻で笑いながら馬鹿にしていると、カルパスは、はぁ~……とため息をついた。


「 外面的な美しさなど私にとっては重要なモノではない。

私が言っているのは内面的な美しさの事だ。

正直今の君には何一つ魅力を感じない。

そんな安い欲望に負けてしまった君にはね。 」


「 ──────っなっ!!! 」


私はカルパスの言葉を聞き、今までの自分の努力も苦労も全てを否定された様な気分になり、カァァァ~ッ!!と頭に血が昇っていく。

ワナワナと震える私をやはり無表情で見下ろしながら、カルパスは続けて言った。


「 ────レイナ、今ならギリギリ間に合う。

それ以上進めば待つのは破滅だぞ。

それでも君は、そんなまやかしの美しい世界を取るのか? 」


カッ!!となった私は、カルパスのすまし顔を思い切り叩き怒りの形相で怒鳴り散らす。


「 ふっざけんじゃねぇ──よっ!!!

今の私に魅力がない?

お前程度の男にそんな偉そうな事言われたくねぇんだよ!!

馬鹿みたいに正義感を振りかざして悦に入ってる変態野郎がっ!!! 」


「 …………。 」


カルパスはやはり無表情のまま、動じる様子がなくただ黙っていた。

それを見て更に怒りが湧いたが────

” こんな男に付き合わなくてももっともっといい男が私の周りには沢山いる ” 

そう思えば波が引くように怒りの感情は消える。


「 ────あ~あっ!すっかり気分悪くなっちゃった。

この私がせっかく誘ってやったのに。

もういいわ。もっといい男なんて掃いて捨てるほどいるんだから。

バイバ~イ、不能男さん♡ 」


正義を振りかざすしか脳がない、こんなつまらない男に構う時間が勿体ない。

そう思い手を振りながら、カルパスに背を向ける。

そして出ていこうとしたのだが、私の背中に向かってカルパスは静かに言った。


「 ────次はないぞ。レイナ。 」


初めて聞くような真剣な声色であったが、既にカルパスに興味をなくしていた私の耳には一切入る事はなかった。



私を拒否する様な男は、私が創る完璧な世界には必要ない。


そのルールに基づき、私はその日から徹底的にカルパスを避けるようになっていった。

そしてコソコソと貴族に有利になる様な情報を流しては ” お小遣い ” を貰い、世界を輝かせてくれる沢山のアイテムを買い揃える。


キラキラ……。

キラキラ────……。


私の世界はお気に入りの宝石達の様にどんどんと美しく光り輝き、永遠にそれが続いていく────そう思っていたのに………


ある日、王都の商業街で、話題になっているお店のチェックをしにいった時の事。



「 ────レイナっ!!! 」



突然どこかで聞き覚えのある男性の声が聞こえ、後ろを振り返ると……

そこには、ヒョロヒョロの身体に薄汚い格好をした、特に記憶にも残らない様な平凡な顔をした男が立っていた。

更に左足は欠損している様で、一番安い木製の義足を嵌めている。


何こいつ……?

気持ち悪っ~。


” 嫌なものを見てしまった。 ”


そう思った私は顔を顰め直ぐに無視して行こうとしたが、それに全く気づかない男はボロボロと泣き始め、私に再度話しかけてきた。


「 レイナ!俺だよ!!君の婚約者のトマスだ!

ずっと……ずっと君を探していてっ……どんな姿になっていたって生きていてくれるならって……

本当に良かったっ……!! 」


そのまま泣きづつける男は、かつて婚約していた幼馴染のトマスであったらしい。


街が全滅した後、生存者はほぼゼロでトマスも死亡したと記録されていたのに……?


情報の食い違いに少々首を傾げたが、まぁ今となってはどうでも良いこと。

寧ろ死んでいると思われていたからこそ、今があるのだから感謝しないと。


フンッと鼻を鳴らし、自身の幸運を喜んだ。

そしてチラッともう一度トマスを上から下まで見つめ、げぇ~とその汚らしさに吐き気を催す。


私に話しかけてくるなんてなんて図々しい男なんだろう。

こんな男と知り合いなどと思われてしまえば私の格が下がってしまう。


そればかりが頭をグルグルと回っているのに、トマスは聞いてもない今までの経緯について詳しく話し出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?

バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。 嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。 そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど?? 異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート ) 途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m 名前はどうか気にしないで下さい・・

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話

バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。  そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……?    完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公   世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...