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第三十章

1001 不幸な人生

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( レイナ )

生まれさえ違かったら────今そこにいるのは私だったかもしれないのに……。

周りにいる者達全員に嫉妬の気持ちが浮かび、私の表情は徐々に曇っていった。


こんな素晴らしい世界、私は今まで知らなかった……いや、知ることが出来なかったのだ。

小さな街に狭いコミュニティーは、そこで世界が完結してしまうから。


そうしてそんな世界に閉じ込められて、外を見ることも知ることもできずに、鳥籠に閉じ込められた小鳥の様な人生を幸せだと思っていた。


でも今はどうだ?


その籠から一歩でも飛び出せば、自分が不幸であった事に気づく。


私は今まで ” 不幸 ” な人生を送っていた。

それにたった今気付いてしまったのだ。


グッ……と唇を噛み締め下を向いた私を、エルビスとカルパスは苦々しい顔で見つめていたが、私は自身の ” 不幸 ” とその ” 不幸 ” を作り出した全てのモノに怒りが湧いていて、それに気づかない。


そしてエルビスが何か言おうと、口を開きかけたその時────二人の人物が私達の元へ近づいてきた。


大きくなった足音にやっと気づき、ハッとして顔を上げれば、そこには……

まるでこの世のものとは思えないほどの ” 美 ” を持った男性と女性がいた。


「 やぁ、エルビス。久しぶりだね。

元気そうで何よりだよ。

そちらが今話題の期待のルーキー達かな?


フフッ。初めまして、可愛い新人さん達。

本日は私達の主催するパーティに来てくれてありがとう。 」


男性の方のニコッと微笑む顔は本当に綺麗で、男性なのにまるで女神様の様。

ポケッ~としてしまった私とは対照的に、エルビスとカルパスは、隙がない完璧なお辞儀をしたので、それを視界の端に入れながらフッとその女神様のような男性の言う言葉を思い出す。

” 私達の主催するパーティー ”

つまりは────


私は一瞬でドバッ!!と大量の汗を掻き、慌てて頭を下げた。


公爵家メルンブルク家当主。

カール・アルケイド・メルンブルク様!!


まさしく雲の上の上のそのまた上の神様の世界にいてもおかしくない程の存在を前に、体はガチガチに固まる。

そしてそんな私を見て、カール様はフッと笑うと隣に立つ美しい女性に一度視線を向けた。


「 此度のパーティーは妻のマリアが企画してくれたものでね。

マリナは人との出会いをすごく大事にするんだ。

だから今日のパーティーで君たちに会えるのを今か今かと心待ちにしていたんだよ。 」


「 もう、カールったら、また私を誂って……でもワクワクしていたのは本当よ。

初めまして。会えて嬉しいわ。

それに貴方のドレスとても素敵ね。そのデザインは有名デザイナーのバジャール様のモノかしら?

私の今日のドレスもバジャール様のデザインのモノなのよ。

私達、とても趣味が合うわね。 」


こんなに綺麗な人に褒められた!!

私はカァァァ~!と顔を赤らめ、喜びに震えた。


「 お褒め頂きありがとうございます!

マリナ様の様なお美しい方に褒められるなど恐れ多いです。 」


一杯一杯になりながらそう答えると、お二人からはコロコロと笑う声が聞こえる。

きっと田舎者丸出しの酷い態度と言葉だろうに、それを咎めたり嫌な顔一つしない。


美しいだけではなく、なんて優しい方々なんだろう!


それに感動しながら、同時に先程感じた嫉妬や理不尽への怒りがじわじわと再燃してきたのを感じた。


溢れんばかりに光り輝くこの世界。

そこでこんなにも心穏やかに過ごせるなんて羨ましい。

いいな……いいな……。


私も……この世界に住みたい。


カール様とマリナ様をボンヤリと見ながら、突然頭に浮かんできたのは────


その隣に立つ……美しく着飾った私だった。


その映像に夢中になっている私をチラッと見たエルビスは、困った様に眉を下げた後、私とカルパスを紹介し始める。


「 本当にこの二人はとても優秀な諜報員です。

二人の活躍により既に沢山の街が救われました。

二人はこれからの諜報ギルドを引っ張っていく者達だと思っております。

カルパスとレイナ、その両名をどうかこれからよろしくお願いします。 」


ペコリと頭を下げるエルビスに続きカルパスが、そして私も慌ててもう一度頭を下げた。

そしてそれからお二人に投げつけられる様々な話題に私は精一杯答える。

そうしてぎこちなくオドオドしながら話す私とは対称的に、カルパスは酷く落ち着いて……いや、冷めていると言ってもいいくらいのクールな対応をしていた。

それにチリッ……と湧く嫉妬や面白くない気持ち。

そして負けたくないという気持ちまで出てきて、そんな自分の変化が少しだけ怖かった。

「 …………。 」

ムッとした態度を隠さずカルパスを睨むと、カール様はパンッと軽く両手を叩く。


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