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第三十章

997 奇跡

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( ヨセフ )

フンフンフンフ~ン♬

最後の一人が小さな悲鳴と共に噛み砕かれ、咀嚼されていく音を聞きながら、私の気分は絶好調で鼻歌まで歌ってしまう。

すると私のハッピーな気持ちを現すかの様に、木も花も枯れてしまっていた庭園は徐々に元の姿に戻っていき、元通りの美しい教会の庭園に戻った。

そして庭園内には、苦悶に満ちた表情を浮かべて息絶えている男たちの死体がそこら中に落ちている。


「 やれやれ。世界を汚す方々は最後まで汚いですねぇ。

さぁ、お掃除はどうしましょうか? 」


困った様なセリフを吐きながらも口元は大きく歪み、苦しみ抜いてココを去った男たちの姿に吹き出してしまった。

そしてゲラゲラと下品な笑い声を上げてしまったが、直ぐにおぉっと!と口元を押さえて隠す。


「 いけない、いけない……。

司教がこんな下品に笑ってしまってはセイに怒られてしまう。

気をつけないといけませんねぇ。

────皆には内緒ですよ? 」


口元から手を外し、いつもの ” 優しい司教様 ” へ戻ると、呆れた様子のレンジュが姿を現した。


「 相変わらずの無敵スキルですね。特に悪人には効果てきめんだ。

音一つせずに一瞬でこの人数を倒してしまうとは……いっそ暗殺者にでも転職したらどうですか?

今の何百倍と稼げますよ。 」


「 えぇ~。嫌ですよぉ。

私は愛の伝道師、そして ” 平等 ” の申し子なのですから!

このまま教会で出世して沢山の愛の出会い場所を提供していきま~す! 」


キリッ!と真面目な顔でそう宣言すると、レンジュは ” はいはい ” と言わんばかりの態度で面倒くさそうに息を吐いた。


「 愛の伝道師、” 平等 ” の申し子……ねぇ?

まぁ、そういう抽象的なモノは、どの視点で見るかによってコロコロ形を変えますから。

それこそ同じ教会の仲間でも同じ形ではないでしょうね。 」


「 フフッ、そうでしょうね~。

まぁ、それを見つけるのが人生の大事な目的の一つですから。

レンジュは自分の ” 平等 ” 見つかりましたか? 」


レンジュは鑑定にて教会に適した能力を告げられ、その場で教会に入る事を頼み込んできた子供だ。

” 自分なりの平等を見つけたい ”

そんな願いを持って。


その後すっかり大きくなって今や神官長まで登り詰めたレンジュは、私の質問にフッと笑うと、足で地面を軽くトンッと叩いた。



<内医士の資質>(ユニーク固有スキル)

< 貪欲な唇 >

指定した場所に大きな口唇を出現させて、作り出した巨大な胃袋空間へと対象を飲み込む特殊空間系スキル

飲み込んだ者をそこで消化することで術者の魔力回復をする事ができる

回復量は飲み込まれた者の魔力レベルに左右される

(発現条件) 

一定以上の魔力、魔力操作を持つこと

一定以下の精神汚染度でありながら、憎しみ、悲しみの感情ゲージが一定以上を上回った経験があること

一定以上の冷静、正義、信念を持つこと



レンジュのスキルが発動すると、庭園に出現した巨大な唇は、転がっている男たちを次々と飲み込んでいく。

そして最後の一人もやすやすと飲み込むと、《 ゲフゥッ!! 》と盛大なゲップ音を残して消えてしまった。


「 まぁ、概ね見つかりましたね。

誰かさんの影響を色濃く受けてしまいましたが……。 」


レンジュはポケットから無地の白いハンカチを取り出し、自身の唇をキュッと拭き取ると「 ご馳走様でした。 」と言って手を合わせる。


「 そうですか。 」


それを見届けた後私は笑い、そのまま正門の方へ視線を向けた。


「 ソフィア様がこの戦いを ” この国の未来を決める重要な分かれ道 ” とおっしゃっていましたが、本当にその通りの様だ。

まるで波紋の様に ” 想い ” が広がり、凄まじい速さで進んでいく。

しかもそれがお互いにぶつかりあってどんどん巨大化しているんです。

本来は開かないはずの ” 扉 ” まで次々と……こんな事は……あるはずがないのに。 」


沢山の閉じられていた ” 扉 ” 達が開き、その形を変えていくと、僅かに空いた ” 扉 ” の隙間からは眩ゆいばかりの光が漏れて、真っ暗闇の中で今まで見えなかった ” 扉 ” 達まで姿を表し始めた。

そしてそこから一人、また一人と ” 人 ” が飛び出しては、楽しそうに走っていく。

それを見送りニッコリ笑うと、過去に遠くに消えてしまった懐かしい ” 扉 ” が直ぐそこに見えて、私は期待を込めてその ” 扉 ” を睨みつけた。


「 これを超えればきっとこの国には新しい風が吹く。

この奇跡に乗り遅れるなよ、グレスター。 」



( 教会の庭園 )


ナックルクラスの冒険者達多数 VS ヨセフ司教


ヨセフ司教の圧勝


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