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第三十章

992 死の痛み

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まだまだグロさん注意!


( 冒険者の男 )

激しく動揺しながらそいつらを見渡せば、やはり先ほどの仲間の男同様、身体の一部に手足が生えて、なんとか本体から離れようとしている姿が見て取れた。

そいつらは ” 体 ” をモゾモゾと懸命に動かしながらもそこについている小さな口で、まるで世間話でもする様にペラペラと話しだす。


『 まぁ!それは災難ですわね~。

ウチの人は何かを絞め殺すのが大好きでねぇ?

見た目が麗しい男女を攫っては、ジワジワ首を締めて藻掻く姿をみながらよく腰を振っていますわよ~。
             
そんな気持ち悪い行為を毎回伝わされて……
   
本当に使いが荒いお方!汚らわしい獣そのものよ、気持ち悪い。 』


『 俺の所の本体は噛みちぎるのが趣味でさぁ~。

恐怖に怯えて逃げる人を追いかけて少しづつ噛みちぎって遊ぶのが好きなんだ。

俺、そんなモノ噛みたくなくて本当にウンザリだよ。

美味しいご飯を噛みたいなぁ…… 』


『 うわぁ………それは最悪だね。

僕の所の本体は可愛らしい男の人を虐めるのが大好き。

それで遊ぶだけ遊んだらバラバラにしてポイッさ。

そんな音聞きたくないんだけどな、空気読んで欲しいよ。 』


そうして体の一部達は己の不満をここぞとばかりに吐き出し、そのまま本体から自身の体を引きちぎっては逃げていく。

俺も気がつけば同じ様に耐え難い痛みに叫び、とうとう内蔵までもが逃げ出すのを目にすると────拷問が生ぬるく感じる様な痛みの中、意識は遠ざかっていった。


そして────





………パチンッ。




指を鳴らす音が遠い場所から聞こえると、意識は凄まじい早さで現実へと戻り、ハッ!!!と目を開ける。

すると、眼の前には穏やかな笑みを浮かべるヨセフ司教と一面咲き乱れる秋空花達が……


風によって白い花びらが舞い上がり、一瞬ここが天国かどこかだと思ったがーーー


「 ………はっ………はっ………。 」


先程の酷い痛みを思い出し、ガタガタと震えながら短い息を吐き出した。


は幻なんかじゃなかった。

本物の……… ” 死 ” の痛み………っ!


慌てて先程去っていった自身の一部が変わらず身体についている事を確認し、ホッと息を吐き出すと、ヨセフ司教はクスクスと楽しそうに笑う。


「 おやおや~?皆様どうしました?

もしかして水たまりにでも落ちたのでしょうか?

全員下半身がぐっしょり濡れてますけど。 」


ヨセフ司教はそのまま声を上げて笑いながら俺達の下半身を指差すと、カッ!!と怒りが吹き出し、その衝動のまま俺は剣でヤツの首目掛けて振った。


「 クソ司教がっ!!!くたばれっ!!! 」


そしてその首を正確に捉えた俺の剣はヨセフ司教の首をスパンっ!!と斬り、ポ────ン……とその首は吹っ飛んでいったが────……


その首の切り口から吹き出たのは血ではなく、大量のチビリンゴクッキーであった。


唖然としてボロボロと地面に落ちていくチビリンゴクッキーを見下ろしていると、首を失ったその体は、切られた断面からクッキーを落としながら、飛んでいってしまった首の方へとスタスタ歩いていく。

そして地面に転がる自身の首をヒョイッと拾い上げ俺達の方へ向くと、その首はやはりニコニコと笑っていて、堪らず俺達はヒィィィッ!!!と悲鳴を上げてしまった。

更に立っていられなくなった仲間達もいて、そのまま尻もちをつきながら全員でヨセフ司教の首を凝視していると、奴は首からこぼれ落ちるチビリンゴクッキーを一つ摘み、自分の口に放り込む。


「 美味しいですね~。これ、昔から私の大好物なんですよ。

貴方達も好きですか? 」


何でもない日常会話の様に喋りかけてくるヨセフ司教を、俺達はまるで幽霊を見たかの様にゾッとしながら見つめた。

するとヨセフ司教は不思議そうな顔をして、手に持つ首をグイッと横に倒す。


「 おやおや~?どうされたのですか?

随分顔色が悪い。何か怖い怖~いモノでも見ましたか? 」


「 こ、こいつ……ただの聖職者じゃねぇっ!! 」


「 ばっ化け物だっ……!! 」


仲間たちは恐怖に塗れた表情で悲鳴を上げ始めた。

そんな中、先程幻影の耐性があると言っていた仲間がワナワナと震えながらヨセフ司教を指差す。


「 な、何故だ……?!これは幻影じゃねぇはずなのにっ!

ヨセフ司教はGランクモンスターですら倒せない最弱司教のはずじゃねぇのかよ!! 」


「 その通りです~。その情報に間違いはありませんよ。

私、モンスター相手だとカユジ虫にも負けちゃうんで!


────でも……それってモンスターに繊細な感情を持つ ” 心 ” がないからなんですよね。

それがないと私の才能ってガラクタなんです。 」


ニコニコと笑いながらそう言ったヨセフ司教は、手に持つ自分の首を上に持ち上げ、ヨイショッ……と元の場所に首を戻すと、そのままクルクルと回した。

そして俺達の方を向いた状態で首の回転を止めると、ヨセフ司教は穏やかな笑みを浮かべたまま俺達を見つめる。

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