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第二十九章
986 運命は残酷で
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( ヨセフ )
グレスターにとっても大切な人であったセイの死は、どうやら単純な悲しみの他にもカトリーナやジェニファーとの永遠の別れを想像させてしまったらしく、今の今までずっと苦しんでいた様だった。
元は同じ穴を抱えていた私には、グレスターの気持ちは痛い程分かる。
今の自分が幸せであればあるほど不安は募り、特に私達の様に歪な心を持っている者ほどやっと手に入れた幸せに酷く怯えてしまうのだ。
私はかつて自身が感じていたモノと同じ苦しみを抱えるグレスターを見て、セイと過ごした数々の思い出達を振り返った。
それを完全に払うには、確固たる ” 居場所 ” とそこで過ごす沢山の時間が必要だ。
「 グレスター、悩む心にとって万能な治療薬があるんだが、それが何か知っているか? 」
「 ……?なんだろうか……。
その悩みの原因を解決する的確な解決法ではないか? 」
予想通りの答えに私はチッチッと指を振る。
「 まぁ、だいたいの人はそれが正しいと答えるだろうな。
だが、私は少し違うと思うんだ。
そもそも悩みとは心が疲弊している状態に多く起きるモノだろう?
例えるなら悩みとは風邪を引いた時の咳みたいなモノだ。
どんなに咳だけを止めようとしても、根本の原因である風邪が良くならなければすぐにまた新たに咳が、更に熱、鼻水と他の良くない症状まで起こし始める。 」
「 なるほど…?確かにそうかもしれないな。
一つ悩みが解決しても、元の心に問題があれば直ぐに次の新たな悩みに苛まれる。 」
グレスターは真面目に考えながらそう答えたので、私はニヤリと笑って言った。
「 その通り。
そしてそんな心を回復させる万能薬、それは『 時間 』だ。
自分の安心できる居場所で過ごすその『 時間 』こそが何よりの万能薬なんだよ。
ただし、心の回復は体の回復の何十倍……いや、何百倍かもしれないな。
とにかく時間が凄くかかるんだ。
壊すのは一瞬だと言うのに、本当に心は複雑で繊細なものだとつくづく思うよ。
つまり私が言いたい事は──── 」
不思議そうな顔で私を見つめてくるグレスターの肩をポンポンと軽く叩く。
「 君には『 時間 』が必要だと言う事だ。
カトリーナとジェニファーがいる幸せの居場所で過ごす『 時間 』が。 」
そう言ってやると、グレスターはボロボロと泣き出し「 ヨセフ……ごめん…ごめん…… 」と何度も謝罪してきた。
「 気にするな。 」
私はそれだけグレスターに伝えると、そのままソッ……とその場を後にした。
それからグレスターの薄暗い表情はゆっくりと消えていき、仕事の合間を見つけて会いにいけば、順調に己の心を修復していっている様に見えた。
これからきっとグレスターの胸に空いた穴は埋まっていき、いつしかその上には美しい花が咲き乱れる楽園の様な場所になるだろうと、私は確信していたのだ。
しかし────……
運命とはとても気まぐれで残酷で……グレスターの心を完膚なきまでに叩き壊す出来事が彼に襲いかかる。
ある日、カトリーナは自身の欲しかった宝石が隣町に入荷したと聞きつけ、いつもの様に早速馬車に飛び乗ろうとしたのだそうだ。
しかしその日は生憎天候に恵まれておらず、土砂降りの雨。
「 明日にしたらどうか? 」
心配になったグレスターはそう提案したそうだが……カトリーナは例え火の中水の中、とにかく欲しいもののためならば何処へだろうと直ぐに駆けつけなければいられない性格であったため、押し切られたグレスターは最終的にそのまま見送った。
それから少し経った頃────
家で当時三歳を過ぎたくらいのジェニファーと家でゆったりしていた時、突然緊急の連絡が入る。
” カトリーナの乗っていた馬車が竜巻に巻き込まれ、木っ端微塵になった。 ”
どうやら大雨の影響か、激しい風と共にそのまま巨大な竜巻が突如発生し、その道を通っていた馬車はほぼ全滅状態になってしまったのだという。
その馬車の中にカトリーナが乗っていた馬車もあったのだ。
その後家に帰宅した五体満足ではないカトリーナの亡骸を前に、グレスターはただ呆然としていた。
周りの声や私の声は勿論、自身の娘であるジェニファーの声さえ全く聞こえない様子で……
カトリーナは誰よりも自由に生き、まさに電光石火と言える人生を生きた。
周りの者達は誰もがその早すぎる死に嘆き悲しんだが、最後は ” 実に彼女らしい最後だった ” とその死を受け入れていく。
しかしグレスターにとってそれは到底受け入れられるモノではなく、それを証明する様に、グレスターは葬儀の後、目を話した隙に自死を試みた。
ナイフを一気に喉に突き立てる。
誰が見ても致命傷の傷を自らつけたグレスター。
しかし……彼の開花していた能力は高い自己再生能力を持っていたため、痛くても苦しくても死ぬことは叶わない。
それでも何度も何度もグレスターは自らを殺そうと試みて、その全てに失敗し続けた。
グレスターにとっても大切な人であったセイの死は、どうやら単純な悲しみの他にもカトリーナやジェニファーとの永遠の別れを想像させてしまったらしく、今の今までずっと苦しんでいた様だった。
元は同じ穴を抱えていた私には、グレスターの気持ちは痛い程分かる。
今の自分が幸せであればあるほど不安は募り、特に私達の様に歪な心を持っている者ほどやっと手に入れた幸せに酷く怯えてしまうのだ。
私はかつて自身が感じていたモノと同じ苦しみを抱えるグレスターを見て、セイと過ごした数々の思い出達を振り返った。
それを完全に払うには、確固たる ” 居場所 ” とそこで過ごす沢山の時間が必要だ。
「 グレスター、悩む心にとって万能な治療薬があるんだが、それが何か知っているか? 」
「 ……?なんだろうか……。
その悩みの原因を解決する的確な解決法ではないか? 」
予想通りの答えに私はチッチッと指を振る。
「 まぁ、だいたいの人はそれが正しいと答えるだろうな。
だが、私は少し違うと思うんだ。
そもそも悩みとは心が疲弊している状態に多く起きるモノだろう?
例えるなら悩みとは風邪を引いた時の咳みたいなモノだ。
どんなに咳だけを止めようとしても、根本の原因である風邪が良くならなければすぐにまた新たに咳が、更に熱、鼻水と他の良くない症状まで起こし始める。 」
「 なるほど…?確かにそうかもしれないな。
一つ悩みが解決しても、元の心に問題があれば直ぐに次の新たな悩みに苛まれる。 」
グレスターは真面目に考えながらそう答えたので、私はニヤリと笑って言った。
「 その通り。
そしてそんな心を回復させる万能薬、それは『 時間 』だ。
自分の安心できる居場所で過ごすその『 時間 』こそが何よりの万能薬なんだよ。
ただし、心の回復は体の回復の何十倍……いや、何百倍かもしれないな。
とにかく時間が凄くかかるんだ。
壊すのは一瞬だと言うのに、本当に心は複雑で繊細なものだとつくづく思うよ。
つまり私が言いたい事は──── 」
不思議そうな顔で私を見つめてくるグレスターの肩をポンポンと軽く叩く。
「 君には『 時間 』が必要だと言う事だ。
カトリーナとジェニファーがいる幸せの居場所で過ごす『 時間 』が。 」
そう言ってやると、グレスターはボロボロと泣き出し「 ヨセフ……ごめん…ごめん…… 」と何度も謝罪してきた。
「 気にするな。 」
私はそれだけグレスターに伝えると、そのままソッ……とその場を後にした。
それからグレスターの薄暗い表情はゆっくりと消えていき、仕事の合間を見つけて会いにいけば、順調に己の心を修復していっている様に見えた。
これからきっとグレスターの胸に空いた穴は埋まっていき、いつしかその上には美しい花が咲き乱れる楽園の様な場所になるだろうと、私は確信していたのだ。
しかし────……
運命とはとても気まぐれで残酷で……グレスターの心を完膚なきまでに叩き壊す出来事が彼に襲いかかる。
ある日、カトリーナは自身の欲しかった宝石が隣町に入荷したと聞きつけ、いつもの様に早速馬車に飛び乗ろうとしたのだそうだ。
しかしその日は生憎天候に恵まれておらず、土砂降りの雨。
「 明日にしたらどうか? 」
心配になったグレスターはそう提案したそうだが……カトリーナは例え火の中水の中、とにかく欲しいもののためならば何処へだろうと直ぐに駆けつけなければいられない性格であったため、押し切られたグレスターは最終的にそのまま見送った。
それから少し経った頃────
家で当時三歳を過ぎたくらいのジェニファーと家でゆったりしていた時、突然緊急の連絡が入る。
” カトリーナの乗っていた馬車が竜巻に巻き込まれ、木っ端微塵になった。 ”
どうやら大雨の影響か、激しい風と共にそのまま巨大な竜巻が突如発生し、その道を通っていた馬車はほぼ全滅状態になってしまったのだという。
その馬車の中にカトリーナが乗っていた馬車もあったのだ。
その後家に帰宅した五体満足ではないカトリーナの亡骸を前に、グレスターはただ呆然としていた。
周りの声や私の声は勿論、自身の娘であるジェニファーの声さえ全く聞こえない様子で……
カトリーナは誰よりも自由に生き、まさに電光石火と言える人生を生きた。
周りの者達は誰もがその早すぎる死に嘆き悲しんだが、最後は ” 実に彼女らしい最後だった ” とその死を受け入れていく。
しかしグレスターにとってそれは到底受け入れられるモノではなく、それを証明する様に、グレスターは葬儀の後、目を話した隙に自死を試みた。
ナイフを一気に喉に突き立てる。
誰が見ても致命傷の傷を自らつけたグレスター。
しかし……彼の開花していた能力は高い自己再生能力を持っていたため、痛くても苦しくても死ぬことは叶わない。
それでも何度も何度もグレスターは自らを殺そうと試みて、その全てに失敗し続けた。
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