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第二十九章

981 幸せな傀儡師

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( ヨセフ )


レイティア王国で出版された作者不明の絵本シリーズ。


その中で『 シュペリンの踊り猫 』だけは誰でも知っている絵本だが、それ以外の本は初めて知った話ばかりであった。

それをグレスターと会った何度目かに見せてもらったのだが……私はその本に言い知れぬ恐怖を感じ、最後まで読むことが出来なかった。


何が怖いのか?と言われても分からない。


ただ ” 怖い ” 


そんな私の様子を見ていたセイとグレスターは首を傾げたが、多分内容がスッキリしないモノが多いからではないか?と結論を出した様だ。


確かに『 シュペリンの踊り猫 』以外の話は陰鬱な内容のモノばかりで、正直子供が読む様な内容ではない様に思える。

とりあえず心配する二人の手前、私はそれにうなづいておいたが、多分私は……


その絵本に隠された ” 何か ” がきっと怖かった。


それを思い出しながら、フッとグレスターの方を見ると、グレスターはキラキラと眩しいくらいの笑みを浮かべて一冊の本を手にしていた。


「 お目当てのモノが見つかったのか? 」


「 あぁ!これは【 忘却の魔女 】と【 星探しの双子 】と同じ時代の話とされている【 幸せな傀儡師 】だよ!

これは他のシリーズにも出てくる ” 黒いドラゴン ” が出てくる話でね。

その書き方からしても、どうもこの本の主人公はダークサイド側の様なんだ。

一体この絵本達は何を伝えたいんだろうね。

このシリーズを全て集めれば、その謎が解ける日がくるのだろうか? 」


グレスターは興奮気味にワー!と喋り切ると、そのまま急いで店主と値段の交渉を始める。

それを横目で見ながら、私は以前グレスターから聞いたその本の内容について思い出していた。



【 幸せな傀儡師 】

その主人公は愛を知らずに育った貧しい生まれの男の子。

男の子の両親にはお互い ” 真に愛する人 ” がいて、その男の子の存在によってその愛する者のところに行く事が叶わず自分達の子供であるその男の子の事を酷く憎んでいた。


生涯愛し合い、共に人生を歩む事を神に誓った二人。

そして愛し合った結果にできた子供であると言うのに……


彼らの愛は吹けば飛ぶ様な軽い愛であった様で、今ではその痕跡すら見つける事はできない。

結局、両親は言葉を掛ける事も目線すらも合わせる事もなく、男の子が一人でも生きていける年齢になると一目散に自身の愛する人の元へ行ってしまった。


一人残された男の子はその後、神に仕えし者になる。


毎日欠かさず祈り、善行を重ね、誰が見ても素晴らしい人間だと言われる程の人物になったが、心の中には深い闇を抱えたまま。

それをどうやって祓えば良いのか分からず、ただただ生きていく。


そんな時、彼が抱えた深い闇を全て祓ってくれる女神様が彼の元に舞い降りた。


女神様は彼に ” 愛 ” を与え、初めての ” 幸せ ” を与えてくれる。

それは彼が生まれてこの方初めて手に入れたモノたちばかりで、彼はそれに夢中になった。


” このままずっと幸せに…… ”


そう願ったが……そんなささやかな願いは叶う事はなかった。


女神様がある日突然、天に帰ってしまったからだ。

この淀みきった世界にいる事に耐えきれなくなったのか、それとも何か別の理由があったのかは分からない。

ただ原因が何であれ彼が最愛の人を失った事に変わりはない。

彼は必死にその天の扉を叩きそこに入ろうとしたが、その扉が開く事はなかった。


くる日もくる日も彼は決して開かぬ扉の前でひたすら女神様を待ち続けたが、一瞬ウトウトした瞬間、今度はその扉が煙の様に消えてしまう。

僅かな可能性に縋っていた彼にとってそれは ” 絶望 ” で、彼はフラフラとそのまま街の中を歩き回った。


” この命が終えれば、また女神様に会えるだろうか……? ”


そんな考えが頭を過った、その時────

廃棄処分となっていたゴミの山の中に一体の傀儡人形を見つけた。


ボロボロで薄汚い女の子型の傀儡人形。


それがどうにも今の自分と似ている気がして……彼はそれを放っておけずに拾って持ち帰る事にした。

そうして家に持ち帰りその人形を丁寧に洗うと、その人形はどことなく女神様に似ている容姿をしている事に気づく。

彼は心に空いてしまった大きな穴を埋める様に、その人形に熱心に語りかけ、お世話をし、矛先の失った ” 愛 ” の全てをその人形に与え続けた。


すると人形はある朝、彼の ” おはよう。 ” というあいさつに対し────

” おはよう!今日はいい天気ね! ”

そう返事を返したのだ。


彼の大きな ” 愛 ” により、心が宿った人形。


彼はそれに歓喜して、より一層その人形の世話を献身的にし始めた。

人形もそんな彼の事が大好きで、また ” 愛 ” に溢れた生活が戻って来る、誰が見てもそう思われたが……


この時点で彼の心は修復が不可能である程欠落してしまっており、その方向は徐々に間違った方向へと進んでいく。


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