980 / 1,315
第二十九章
965 ” 正義 ” の裁き
しおりを挟む
( レンジュ )
グリモア教会の現最高管理者【 神官長 】
< レンジュ >
私は以前よりソフィア派に属し司教< ヨセフ >の直属の部下としてこの教会に務めてきた。
今までは特に問題はなかったグリモア教会であったが、小さな異変がグリモアを襲いだし教会の治療院はそれによりどんどんと切迫した状況に追い込まれていく。
何故こんなにもモンスターが異常発生している?
そして何か妙な気配に胸騒ぎが……
これはただ事ではないかもしれないと思い、すぐに上司であるヨセフ司教に連絡をすると、ヨセフ司教は至急こちらへ移動する事になった。
元々教会では、神官長以上の身分を持つ【 大神官 】や【 司教 】【 大司教 】に付属する教会はなく、何か問題が起きればその度に、その街の教会に派遣されるシステムとなっている。
しかし【 司教 】や【 大司教 】が派遣されるにはそうとう追い込まれた状況でなければ基本は【 大神官 】が派遣されるはず。
そのためヨセフ司教自らがこのグリモア支部にきた事に驚いてしまったが、ヨセフ司教はいつものおちゃらけた雰囲気は引っ込め私に言った。
「 遠く離れた地まで伝わる程の気味の悪い空気……恐らくただ事ではない。
信じられない程の ” 負の感情 ” を感じるのに ” 入口 ” がないんだ。
恐らく、原因に ” 感情 ” 自体がないんじゃないかな?
…………心底恐ろしいよ。 」
「 …………。 」
ヨセフ司教がここまで言ったのは初めて聞いたため多少動揺してしまったが、結局私達のすることに変わりはない。
全力でけが人の治療に当たり、私達のできることで街を守る。
変わらぬ信念を持ち続け、必死にやってきた。
しかしどんどん酷くなる状況に焦り、不安は大きくなっていくと、漠然と────
” もうこの街は駄目なのかもしれない ”
そう思った事も一度や二度ではない。
しかし、街を捨てて逃げる事はどうしてもできなかった。
住む故郷を失う事は悲劇だ。
モンスターに襲われ故郷を追われた者達や、魔素の拡大により土地を失った者達の辿る末路は、秀でた能力がなければ殆どの者達は犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれる。
今までは周りに沢山の友や顔見知りの優しい知り合い達がいたのに、新しい街では誰も彼もが知らぬ者達。
そしてそんな知らぬもの達でガッチリと固まった中に入って生活していくには、能力ありきでなければ難しい。
たまたま今までいた環境と似ていて、運が良ければ大した能力がなくても入る事はできるかもしれないが、それは稀。
街の人達だって自分たちの生活があるのに、命一つの無一文、更に何も役に立たない者達をそうは助けられないというのが本音だと思う。
その気持ちはよく分かる。
しかし、中に入れてもらえず職も住居も手に入らないなら……結局行き着く所は生きるために人を傷つけるしかなくなってしまうのだ。
私や両親も故郷をモンスター被害によって追われ、近くの街に命からがら辿り着いたが、やはり突出した能力はなし。
そして辿り着いた街も決して裕福とは言えなかったため、移民、かつ特に能力のない両親を助けてくれる場所はなかった。
ならまた他の街へと思っても子供の私がいて、かつ命からがら逃げてきた身一つでは馬車すら乗れない。
そのため必死に頭を下げる両親に対し、中には水を掛けて追い払おうとする人達もいて、多分両親は突然のモンスター被害で親しい人達を亡くした心の傷と、更にそういったどうしようもできない現状に追い込まれ冷静に判断する心を無くしていたのだと思う。
今考えれば沢山他の方法だってあったはずなのに、疲弊した心では何も考えられなかった。
そんな中で両親はとうとう食べ物を盗んでしまい、あっけなく守備隊に見つかってしまう。
確かに盗みは犯罪で悪い事だ。
でも両親だってしたくてしたんじゃない。
それを訴えた所で、余所者という事もあって誰もそんな事に耳を傾けてはくれず、守備隊達は問答無用で両親を連れてこうとした。
” 止めて! ”
” 止めてよ!!両親は悪くない!! ”
そんな叫びは ” 正義 ” の前にかき消される。
私はこの時、他の守備隊員達に保護という名の拘束をされながら……多分世の不平等さを憎んだ。
何故私だけが?
何故故郷を追われ辛い思いをしたのに、またこんな辛い目に合うの??
” 運 ” という不平等さによって私達は ” 悪 ” にされ、世の ” 正義 ” に裁かれる。
涙をポロポロ流しながら、遠ざかっていく両親の背中に必死に手を伸ばした。
そして─────
心は黒く染まっていく。
憎い、憎い、憎い!
世界全てが憎くて憎くて仕方がない!!
───────こんな世界、壊れてしまえ!!
届かない手が、フッ……と下に落ちようとした、その時ーーーその手をガシッと掴まれた。
驚き顔を上げると、そこにいたのは穏やかな笑みを浮かべた綺麗なお兄さんで、お兄さんは私を見下ろしニコッと笑う。
驚いてヒュッ!と息を飲む私の手をそのままグイグイと引っ張り、そのまま守備隊に引っ張られていく両親の元まで私を引きずっていくと、そのまま──────
─────ギュッ……。
両親との手を繋いでくれたのだ。
私は届いた手を離すものかと握り、そして両親も同様に強く握り返す。
守備隊員はギョッ!と驚いた後、そのお兄さんの顔を見て更に驚き慌てて頭を下げた。
「 ヨ……ヨセフ大神官様!どうしてこちらに……! 」
グリモア教会の現最高管理者【 神官長 】
< レンジュ >
私は以前よりソフィア派に属し司教< ヨセフ >の直属の部下としてこの教会に務めてきた。
今までは特に問題はなかったグリモア教会であったが、小さな異変がグリモアを襲いだし教会の治療院はそれによりどんどんと切迫した状況に追い込まれていく。
何故こんなにもモンスターが異常発生している?
そして何か妙な気配に胸騒ぎが……
これはただ事ではないかもしれないと思い、すぐに上司であるヨセフ司教に連絡をすると、ヨセフ司教は至急こちらへ移動する事になった。
元々教会では、神官長以上の身分を持つ【 大神官 】や【 司教 】【 大司教 】に付属する教会はなく、何か問題が起きればその度に、その街の教会に派遣されるシステムとなっている。
しかし【 司教 】や【 大司教 】が派遣されるにはそうとう追い込まれた状況でなければ基本は【 大神官 】が派遣されるはず。
そのためヨセフ司教自らがこのグリモア支部にきた事に驚いてしまったが、ヨセフ司教はいつものおちゃらけた雰囲気は引っ込め私に言った。
「 遠く離れた地まで伝わる程の気味の悪い空気……恐らくただ事ではない。
信じられない程の ” 負の感情 ” を感じるのに ” 入口 ” がないんだ。
恐らく、原因に ” 感情 ” 自体がないんじゃないかな?
…………心底恐ろしいよ。 」
「 …………。 」
ヨセフ司教がここまで言ったのは初めて聞いたため多少動揺してしまったが、結局私達のすることに変わりはない。
全力でけが人の治療に当たり、私達のできることで街を守る。
変わらぬ信念を持ち続け、必死にやってきた。
しかしどんどん酷くなる状況に焦り、不安は大きくなっていくと、漠然と────
” もうこの街は駄目なのかもしれない ”
そう思った事も一度や二度ではない。
しかし、街を捨てて逃げる事はどうしてもできなかった。
住む故郷を失う事は悲劇だ。
モンスターに襲われ故郷を追われた者達や、魔素の拡大により土地を失った者達の辿る末路は、秀でた能力がなければ殆どの者達は犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれる。
今までは周りに沢山の友や顔見知りの優しい知り合い達がいたのに、新しい街では誰も彼もが知らぬ者達。
そしてそんな知らぬもの達でガッチリと固まった中に入って生活していくには、能力ありきでなければ難しい。
たまたま今までいた環境と似ていて、運が良ければ大した能力がなくても入る事はできるかもしれないが、それは稀。
街の人達だって自分たちの生活があるのに、命一つの無一文、更に何も役に立たない者達をそうは助けられないというのが本音だと思う。
その気持ちはよく分かる。
しかし、中に入れてもらえず職も住居も手に入らないなら……結局行き着く所は生きるために人を傷つけるしかなくなってしまうのだ。
私や両親も故郷をモンスター被害によって追われ、近くの街に命からがら辿り着いたが、やはり突出した能力はなし。
そして辿り着いた街も決して裕福とは言えなかったため、移民、かつ特に能力のない両親を助けてくれる場所はなかった。
ならまた他の街へと思っても子供の私がいて、かつ命からがら逃げてきた身一つでは馬車すら乗れない。
そのため必死に頭を下げる両親に対し、中には水を掛けて追い払おうとする人達もいて、多分両親は突然のモンスター被害で親しい人達を亡くした心の傷と、更にそういったどうしようもできない現状に追い込まれ冷静に判断する心を無くしていたのだと思う。
今考えれば沢山他の方法だってあったはずなのに、疲弊した心では何も考えられなかった。
そんな中で両親はとうとう食べ物を盗んでしまい、あっけなく守備隊に見つかってしまう。
確かに盗みは犯罪で悪い事だ。
でも両親だってしたくてしたんじゃない。
それを訴えた所で、余所者という事もあって誰もそんな事に耳を傾けてはくれず、守備隊達は問答無用で両親を連れてこうとした。
” 止めて! ”
” 止めてよ!!両親は悪くない!! ”
そんな叫びは ” 正義 ” の前にかき消される。
私はこの時、他の守備隊員達に保護という名の拘束をされながら……多分世の不平等さを憎んだ。
何故私だけが?
何故故郷を追われ辛い思いをしたのに、またこんな辛い目に合うの??
” 運 ” という不平等さによって私達は ” 悪 ” にされ、世の ” 正義 ” に裁かれる。
涙をポロポロ流しながら、遠ざかっていく両親の背中に必死に手を伸ばした。
そして─────
心は黒く染まっていく。
憎い、憎い、憎い!
世界全てが憎くて憎くて仕方がない!!
───────こんな世界、壊れてしまえ!!
届かない手が、フッ……と下に落ちようとした、その時ーーーその手をガシッと掴まれた。
驚き顔を上げると、そこにいたのは穏やかな笑みを浮かべた綺麗なお兄さんで、お兄さんは私を見下ろしニコッと笑う。
驚いてヒュッ!と息を飲む私の手をそのままグイグイと引っ張り、そのまま守備隊に引っ張られていく両親の元まで私を引きずっていくと、そのまま──────
─────ギュッ……。
両親との手を繋いでくれたのだ。
私は届いた手を離すものかと握り、そして両親も同様に強く握り返す。
守備隊員はギョッ!と驚いた後、そのお兄さんの顔を見て更に驚き慌てて頭を下げた。
「 ヨ……ヨセフ大神官様!どうしてこちらに……! 」
185
お気に入りに追加
1,993
あなたにおすすめの小説
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
【 完結 】お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話
バナナ男さん
BL
剣や魔法、モンスターが存在する《 女神様の箱庭 》と呼ばれる世界の中、主人公の< チリル >は、最弱と呼べる男だった。 そんな力なき者には厳しいこの世界では【 嫁取り 】という儀式がある。 そこで男たちはお嫁さんを貰う事ができるのだが……その儀式は非常に過酷なモノ。死人だって出ることもある。 しかし、どうしてもお嫁が欲しいチリルは参加を決めるが、同時にキラキラ幼馴染も参加して……? 完全無欠の美形幼馴染 ✕ 最弱主人公 世界観が独特で、男性にかなり厳しい世界、一夫多妻、卵で人類が産まれるなどなどのぶっ飛び設定がありますのでご注意してくださいm(__)m
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる