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第二十九章

965 ” 正義 ” の裁き

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( レンジュ )


グリモア教会の現最高管理者【 神官長 】


< レンジュ >


私は以前よりソフィア派に属し司教< ヨセフ >の直属の部下としてこの教会に務めてきた。

今までは特に問題はなかったグリモア教会であったが、小さな異変がグリモアを襲いだし教会の治療院はそれによりどんどんと切迫した状況に追い込まれていく。


何故こんなにもモンスターが異常発生している?

そして何か妙な気配に胸騒ぎが……


これはただ事ではないかもしれないと思い、すぐに上司であるヨセフ司教に連絡をすると、ヨセフ司教は至急こちらへ移動する事になった。


元々教会では、神官長以上の身分を持つ【 大神官 】や【 司教 】【 大司教 】に付属する教会はなく、何か問題が起きればその度に、その街の教会に派遣されるシステムとなっている。

しかし【 司教 】や【 大司教 】が派遣されるにはそうとう追い込まれた状況でなければ基本は【 大神官 】が派遣されるはず。

そのためヨセフ司教自らがこのグリモア支部にきた事に驚いてしまったが、ヨセフ司教はいつものおちゃらけた雰囲気は引っ込め私に言った。


「 遠く離れた地まで伝わる程の気味の悪い空気……恐らくただ事ではない。

信じられない程の ” 負の感情 ” を感じるのに ” 入口 ” がないんだ。

恐らく、原因に ” 感情 ” 自体がないんじゃないかな?


…………心底恐ろしいよ。 」


「 …………。 」


ヨセフ司教がここまで言ったのは初めて聞いたため多少動揺してしまったが、結局私達のすることに変わりはない。

全力でけが人の治療に当たり、私達のできることで街を守る。


変わらぬ信念を持ち続け、必死にやってきた。


しかしどんどん酷くなる状況に焦り、不安は大きくなっていくと、漠然と────


” もうこの街は駄目なのかもしれない ” 


そう思った事も一度や二度ではない。

しかし、街を捨てて逃げる事はどうしてもできなかった。



住む故郷を失う事は悲劇だ。


モンスターに襲われ故郷を追われた者達や、魔素の拡大により土地を失った者達の辿る末路は、秀でた能力がなければ殆どの者達は犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれる。


今までは周りに沢山の友や顔見知りの優しい知り合い達がいたのに、新しい街では誰も彼もが知らぬ者達。

そしてそんな知らぬもの達でガッチリと固まった中に入って生活していくには、能力ありきでなければ難しい。


たまたま今までいた環境と似ていて、運が良ければ大した能力がなくても入る事はできるかもしれないが、それは稀。

街の人達だって自分たちの生活があるのに、命一つの無一文、更に何も役に立たない者達をそうは助けられないというのが本音だと思う。


その気持ちはよく分かる。

しかし、中に入れてもらえず職も住居も手に入らないなら……結局行き着く所は生きるために人を傷つけるしかなくなってしまうのだ。


私や両親も故郷をモンスター被害によって追われ、近くの街に命からがら辿り着いたが、やはり突出した能力はなし。

そして辿り着いた街も決して裕福とは言えなかったため、移民、かつ特に能力のない両親を助けてくれる場所はなかった。

ならまた他の街へと思っても子供の私がいて、かつ命からがら逃げてきた身一つでは馬車すら乗れない。

そのため必死に頭を下げる両親に対し、中には水を掛けて追い払おうとする人達もいて、多分両親は突然のモンスター被害で親しい人達を亡くした心の傷と、更にそういったどうしようもできない現状に追い込まれ冷静に判断する心を無くしていたのだと思う。


今考えれば沢山他の方法だってあったはずなのに、疲弊した心では何も考えられなかった。


そんな中で両親はとうとう食べ物を盗んでしまい、あっけなく守備隊に見つかってしまう。


確かに盗みは犯罪で悪い事だ。

でも両親だってしたくてしたんじゃない。


それを訴えた所で、余所者という事もあって誰もそんな事に耳を傾けてはくれず、守備隊達は問答無用で両親を連れてこうとした。


” 止めて! ”

” 止めてよ!!両親は悪くない!! ”


そんな叫びは ” 正義 ” の前にかき消される。


私はこの時、他の守備隊員達に保護という名の拘束をされながら……多分世の不平等さを憎んだ。


何故私だけが?

何故故郷を追われ辛い思いをしたのに、またこんな辛い目に合うの??


” 運 ” という不平等さによって私達は ” 悪 ” にされ、世の ” 正義 ” に裁かれる。


涙をポロポロ流しながら、遠ざかっていく両親の背中に必死に手を伸ばした。

そして─────


心は黒く染まっていく。



憎い、憎い、憎い!

世界全てが憎くて憎くて仕方がない!!


───────こんな世界、壊れてしまえ!!



届かない手が、フッ……と下に落ちようとした、その時ーーーその手をガシッと掴まれた。


驚き顔を上げると、そこにいたのは穏やかな笑みを浮かべた綺麗なお兄さんで、お兄さんは私を見下ろしニコッと笑う。

驚いてヒュッ!と息を飲む私の手をそのままグイグイと引っ張り、そのまま守備隊に引っ張られていく両親の元まで私を引きずっていくと、そのまま──────


─────ギュッ……。


両親との手を繋いでくれたのだ。


私は届いた手を離すものかと握り、そして両親も同様に強く握り返す。

守備隊員はギョッ!と驚いた後、そのお兄さんの顔を見て更に驚き慌てて頭を下げた。


「 ヨ……ヨセフ大神官様!どうしてこちらに……! 」


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