上 下
977 / 1,370
第二十九章

962 答え

しおりを挟む
( リーン )

「 すみません!!急患です!!どうか助けて下さい!! 」

叫んだ男の人はもう一人の人に肩を貸し、殆ど引きずる形でやってきた様だ。

肩を借りてなんとか歩いてきた男の人の方の顔色は真っ青で、意識も混濁しているのか震える唇でブツブツと何かを呟いていた。

一体何事かと周りの人達が悲鳴を上げる中、すぐにソフィア様は駆け寄りそのぐったりしている男の人の状態を観察する。


「 ……【 魔素中毒 】ですね。 」


「 ーーはいっ!こいつ、仲間を助ける為に魔素の固まりに突っ込んで……

どうか助けて下さい! 」


肩を貸していたその人をゆっくりと床に降ろし、祈る様にソフィア様に訴える男の人を見て……周りで見守っていた人達と私達は悲しげに目を伏せた。


【 魔素中毒 】は、魔素を吸い込みすぎた魔力耐性の低い人が稀に起こす症状で、症状が重ければ死に至る非常に恐ろしい現象だ。

仮に命が助かったとしても、後遺症が残り今までの様な戦闘職に復帰できない身体になってしまう事だってある。

仲間を助ける為に無茶をしてしまったという男の人が、死んでしまうかもしれない。

嫌だと思っても何もできない自分にはどうすることもできなくて、ただ下を向く私の前でソフィア様はニコッと笑った。


えっ・・?


驚く私達の前で、ソフィア様は床に横たわる男の人に向かって祈りを捧げ始め、それと同時に男の人の顔色がみるみる良くなっていく。


< 聖妃者の資質 > (ユニーク固有スキル)

< 祈りの聖風 >

魔素によるデバフ効果を弱め、その状態異常を治療する特殊系回復系スキル。

術者の聖属性魔力が高い程その効果は高く、更に回復属性の魔力が高いほどその成功率はUPする。


(発現条件) 

一定以上の魔力、魔力操作、聖属性魔力、回復属性魔力を持つこと

一定以下の精神汚染度である事

一定人数以上の状態異常者を治療した経験値を持つ事




そしてーーーー…………



「 あ……あれ? 」

さっきまで重症な魔素中毒だった男の人が何でもない様子で起き上がり、不思議そうに周囲を見回した。

そして更にその直後、泣きながら抱きついてくるもう一人の男の人をこれまた不思議そうに見た後、目の前にいるソフィア様に気づくとギョッ!!と目を剥いて二人は揃ってその場に土下座。

” ありがとうございます! ”

” 聖女様! ”

何度も何度も繰り返し言う男たちに向かって、ソフィア様は優しげに微笑んだ。


「 こちらこそ日々この国を守るために尽力して頂き感謝いたします。

私に戦う術はありませんが、違う形で皆さまのお力になれればと思います。

どうかご無理はせず、これからも共に国を守っていきましょう。 」


二人の男は感極まった様子で「「 ハイッ!! 」」と返事をして、その場を去っていった。


その時、私の身体にピシャーーーーンッ!!!と雷が落ちたかの様な衝撃が走る。


戦い方は一つではない。

こういう戦い方もあるのか!


それはまさに天啓のように私に舞い降りた。


そしてギュッと握った両手の拳を見下ろし、自分が現在持っている回復魔法について考える。


物心ついた頃のおぼろげな記憶。

毎日怪我をして返ってくる母を助けたいと思って突然発動した私の回復魔法。

それが初めて発動した時はお母さんもお父さんも凄く驚いてしまったらしい。


ーーーというのも、回復魔法も使える者達は限られている様で、更にはお父さんもお母さんもそれとは関係ない資質であったためだ。


今まではただ漠然と ” 将来は教会に仕えよう ” と思っていたのだが、それがクッキリと形づいていった。


母の選んだ ” 力 ” とは違い、戦う術を持たぬ私が自分の正義を突き通す方法。

人を助けたいと思う気持ち。

それを叶える方法がこんな身近にあったのだ。


私は ” 聖女 ” 様になりたい!

そう強く願った。


しかし、そう思ったのは私だけではなく、ナッツちゃんも同じだったようで「 私、聖女様になりたい! 」と大声で叫ぶ。

それを隣で聞いてしまった私は、自分の決意がシュンシュン……と凄い勢いでしぼんでいくのを感じた。


ナッツちゃんは凄く可愛くて優しくて回復魔法も上手な私の大事な友達、そして同時に憧れの存在でもある

そんな凄いナッツちゃんが聖女を目指すなら……私はこの夢を諦めるしかない、そう思った。


「 うん!ナッツちゃんにピッタリの夢だね。 」


せっかく形づいた自分の形がぐにゃりと不明瞭に歪んでしまった気がしながら、私は誠意いっぱいの笑顔を見せる。


ナッツちゃんの想いを諦めさせたくない。

だから諦めるのは私でいい。


そう納得して、私達は教会を後にした。


それから何となくモヤッとした日々を過ごしたが、ある日、リーフさんにパンを届けた時に思い切って聖女様に対する想いを打ち明けてみる事にしたのだ。


” 聖女様に憧れている事 ”

” 親友のナッツちゃんがそれを目指しているため諦めるしかない事 ”


重くならない様に軽い感じで話題にしてみたのだが、リーフさんはそれをどう思うんだろう?

ドキドキしながらその答えを待つ。

しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。 悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公・グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治をし、敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。 前世の記憶『予知』のもと、目的達成するためにグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後少しずつ歴史は歪曲し、グレイの予知からズレはじめる… 婚約破棄に悪役令嬢、股が緩めの転生主人公、やんわりBがLしてる。 そんな物語です。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

処理中です...