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第二十九章

956 人ではないモノ達

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( リーン )


「 ニナさん、ナッツちゃん、リーンちゃんもどうぞ~。 」

「 あ……ありがとうございます! 」


私達に気づいたルルちゃんが暖かいお茶が入ったコップを渡してくれて、御礼を告げてそれを受け取った。

そしてフワッと香るフルーツの匂いがするお茶を一口飲めば、スッ~……と不安な気持ちが落ち着いていく。

それは私達だけではなく他の人達も同じだったようで、お茶を飲んではホッと息を吐き出していた。


そうして落ち着きを取り戻して少し経った頃、今度はバタバタと沢山の教会の神官見習いの人達が駆け込んできて、突然私達に向かって説明を始める。


「 皆さん!落ち着いて聞いて下さい!

先程これより大規模なモンスター行進が始まるとの連絡が教会へ入りました! 」


それに対し、再度ざわつきだした街の人達。

私とナッツちゃんはゴクリとツバを飲み込み、神官見習いさん達の話の続きを黙って聞いた。


「 そのため、これからここにも沢山のけが人達が収容されると思われます!

我々が治療を行いますので、どうかパニックにならずに待機をお願いします。 」


「 更に正体不明のモンスターが一匹出現予定との事ですが、守備隊の方々が必ず守ってくれます。

信じて待ちましょう! 」


神官見習いさん達の言葉に周りはざわつきを強め、中には泣き出してしまう人達もいたが、神官見習いさん達はテキパキとけが人を治療するための準備に取り掛かる。

「 お父さん…… 」

私はそれを見守りながらギュッとコップを強く握り、お父さんの身を案じるとマリンさんがお茶を飲みながらコチラへとやってきた。


「 大変な事になったねぇ。 」

「 ……本当にね。

正体不明のモンスターなんて……もしかして今までのモンスター増加はそいつが原因だったのかしら? 」


マリンさんの話にニナさんがそう答えると、マリンさんはお茶をグイッ!と一気に飲み干す。


「 さぁてね?ーーーまぁ、私達は私達にできる事をするしかないさね。

幸いここには炊き出し用の道具や緊急時のアイテムがたんまりあるから、色々できそうだ。

あとは皆がパニックを起こさないといいけどね。 」


マリンさんは一軒家よりも大きい巨大倉庫を指差しながら困った様に笑い、ニナさんも同様の笑みを浮かべた。


自分にできること……。


マリンさんの言葉を聞いて、私はなんとなく自身の右手首に巻かれている赤色のミサンガ風ブレスレットを見下ろすと…………それをプレゼントしてくれたリーフさんの事を思い出す。



リーフさんは今年の4月からこのグリモアにあるライトノア学院に通い出した学院生で、かつ冒険者もしているとても忙しい人だ。

そんなリーフさんを言葉で表そうとしても私にはそれが凄く難しくて、敢えて一言で表現すれば ” 不思議な人 ”


リーフさんは自分には見えない何かが見えているのではないか?と思う事がしばしばあった。


そんなリーフさんとの最初の出会いはとんでもなく強烈で、今でも目を閉じるとその時の感動や興奮が昨日の事の様に蘇る。



ちょうどこの頃は街の異変によって一番皆が元気がない時で、少しずつ街のライフラインは崩れていき、誰もが不安を抱えていた。


” あっちで輸送中の馬車がモンスターに襲われた! ”

” 飲水の経路がまた一つ駄目になってしまった。 ” 


そんな話が毎日の様に街中に飛び交い ” どうしたのか? ” と尋ねても、私達の様な子供には不安を感じない様に ” 大丈夫だ ” としか教えてくれない。

しかし改善可能なトラブルから不可能なモノが増えていくと、街はどんどんと目に見えて暗くなっていった。


そして更にそれに追い打ちを掛けたのは、沢山街に移住してきた大人たちだ。

” 恐喝 ”

” 暴言 ”

” 暴力 ”

何でもありのそいつ等に話しなど通じない。


そのためそいつらが来たら、直ぐに女の人や子供たちを町の人達総出で隠すようにし、その他の人達はただただその嵐を耐え抜く日々が始まった。


文句を言いたくとも言えば何倍もの暴力となって返ってくるし、モンスターに命を脅かされている今、そんな奴らでも私達は頼らなければならなかったからだ。


耐えて耐えて・・

我慢我慢・・・


その悪い大人達は、そんな街の人達の様子が楽しくて楽しくて堪らない。

だから大人達が必死に隠そうとしている子供に偶然出くわした時など、わざと転ばしたり水を掛けたりと、焦って青ざめる大人たちを見てはゲラゲラと笑っていたそうだ。


イシュル神の怒りすら恐れぬそいつ等はきっと人じゃないんだ。


子供心にそう悟り、できるだけ見つからない様にしていた、ある日の事。


腰ほどまでの長さのサラサラヘアーが自慢だったナッツちゃんが、突然おかっぱ頭になってやってきたため、ギョッ!と目を剥いてしまった。


「 ナ・・ナッツちゃん、突然どうしたの・・?

この間までもっと長くするんだって言ってたのに・・ 」


驚いてそう尋ねた私に、ナッツちゃんは胸を張って誇らしげに答える。


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