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第二十九章

955 不穏な序曲

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( リーン )


「 こっちにお水お願いしまーーす! 」

「 新たなけが人が2人来ました!! 」


慌ただしく動き回る人々の中、私もナッツちゃんも慌ただしく走り回って、軽症者達の治療をして回っている。



ここは教会内の敷地内。

教会近くにある広く開けた場所であるここは、何か有事の際には非戦闘員達の避難場所に指定されている場所だ。


本来怪我人を収容する治療院内では狭すぎるため、急遽こっちでけが人を収容する事になったのだ。

額を伝う汗を拭いながら、私はどうしてこんな事になったのか思い出す。



今日もいつもと同じ一日が始まると思っていた。


しかしその思いは裏切られ、ナッツちゃんと一緒に小学院帰りの時、突然慌ただしく守備隊の人達が街の人達の避難誘導を始めたのだ。

その物々しい雰囲気に、ギョッ!としたが、既に以前から頻繁に避難訓練の練習をしていたので、誰一人パニックになる事なく教会の避難所へと向かい始めた。

その流れに乗って私達も向かおうとしたのだが、守備隊員の中にキョロキョロ周囲を見回すお父さんの姿を見つけ、驚いて足を止める。


「 お・・お父さん……? 」


ボソッと呟くと、お父さんは私の姿を直ぐに見つけそのまま走り寄ってきた。


「 良かった……。二人共ちゃんといるね。

心配しなくても大丈夫だから、このまま二人は教会の避難所で座って待ってなさい。

そうしたら直ぐに終わるから。 」


「 お……お父さんも一緒に行くんだよね……? 」


その言い方に不安を感じてそう尋ねると、お父さんはゆっくりと首を振る。


「 お父さんも直ぐに行くから。さぁ、早く。 」


突然なんだか嫌な予感がして、私は ” 嫌っ!! ” と叫びたかったが、きっとそれを言えばお父さんが困る事を知っていたから、黙ってコクリと頷く。

するとお父さんは困った様に笑い、私とナッツちゃんの頭を撫でると、そのまま走っていってしまった。


お父さんの嘘つき。


その背中が見えなくなるまで見つめながら、私は泣きたい気持ちをグッと堪える。

お父さんは必死に私にバレない様にしていたけど、モンスターの増加に合わせて毎日毎日お店を閉めて帰って来なくなった頃に、予感があった。

一体どこで何をしているの?

意を決してそれを聞こうとしたのだが、結局その後グリモアの状況が良くなり以前と同じ生活に戻ってしまったため、私は口を閉じた。


しかし今度は店の倉庫の奥底に、今まで見たことがない武器が置かれている事に気づく。


何だろう……?


気になった私はお父さんが留守の時、こっそりそれを見てしまったのだが、やたら大きい大鎌で、私は一瞬でお父さんが何をしていたのかを知ってしまったのだ。


きっとお父さんはもう帰ってこない。

お母さんと一緒だ。


ショックと悲しみで呆然としていると、突然手が引っ張られて、そちらへ視線を向ける。

すると、ナッツちゃんが真剣な眼差しで私をまっすぐ見つめていた。


「 大丈夫だよ!リーンちゃん!

ウチのお父さんが絶対にリーンちゃんのお父さんの事も守ってくれるから。

なんたってお父さんのスキルはスゴイんだから!

だから私達は、お父さん達が帰ってきたらまた怪我を直してあげようよ。 」


「 ……うんっ! 」


グッ!と私の手を強く握るナッツちゃんに励まされ、私達はそのまま避難所まで走っていった。



避難所に着くともう沢山の人達が集まっていて、ワイワイ、ガヤガヤとお互い情報交換をしている様であった。

そしてその中にはナッツちゃんのお母さんもいて、避難してきた私達に気づくと直ぐに駆け寄り二人纏めてギュッ!!と抱きしめてくる。


「 ナッツ!リーンちゃん!良かった!!

突然モンスターが沢山現れたそうだけど、ここにいれば大丈夫よ。

もどかしいけど、後は守備隊とギルドの人達に任せて待つしかないわ。 」


ナッツちゃんのお母さんは私達を怖がらせない様にと、必死に努力してくれているが、私達を抱きしめる手が密かに震えているのに気づき全てを悟った。

ナッツちゃんも同時にそれに気づいた様で ” これがただ事ではない ” 

それを子供の私達も理解した。


それを証拠に、周りを見回せば全員パニックは起こしてないものの、青ざめ震えている人達や神に祈りを捧げている人達など、重苦しい雰囲気が漂っている。


その雰囲気に飲まれ、手先が徐々に冷たくなっていくのを感じているとーーーー突然、それを振り払う様な声が聞こえた。


「 皆っ!あったかいお茶を沸かしたから、飲みたいヤツらはこっちに来な! 」


その声に聞き覚えがあった私が、その声の方向へ視線を向けると、【 森の恵み 】のマリンさんが長い机をルルちゃんと共に運んでいる最中だった。


そしてマリンさんとルルちゃんは鍋敷きをサッと置くと、今度は大きな鍋をその上にドンッ!と置き、中のお茶を掬ってはコップに入れていく。

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