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第二十七章

921 境界線

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( メル )

そしてそれはメルだけではなく、隣のレイドもメル同様キラキラしながらリーフを見つめていたし、他の種族はどんな想いがあるのかは知らないが、少なくとも獣人の受験生達はメル達同様の反応をしていたと思う。


ワクワク!

ドキドキ!


なんだか楽しそう!!


そんな空気に変わってしまえば、結局 ” 伝染らないならそれで良し ” と試験官達は判断し、試験は続行となった。



そうしてその後無事に行われた実技試験の最初は【 剣体術 】

メルは前衛ではないものの、ひたすらレイドの相手をしていたため距離をとって戦う事を見事に習得、それなりに自信がある。


そのため気合満々でリングの上に登ると、試験官である教員らしき男は、メルを見て嫌そうに顔を歪ませた。


嫌悪・・

不快感・・

侮蔑・・


あからさまな悪意を向けられ、ムッとしながらも礼をすると、そいつはハァ・・と大きなため息をつく。


「 平民の、しかも獣如きがこの崇高なる学院の試験を受けにくるとは・・

やはり獣は図々しく、己の分もわきまえる事ができない低能な下等種族ですねぇ?

ほら、リタイアするなら今のうちですよ~。

言葉、分かりますかぁ~? 」


ボソボソとメルにだけ聞こえる様に言われた酷い暴言に、少々驚かされたが ” なるほど・・これが高位貴族か・・ ” と納得した。

そう理解してしまえば、特に気になる事もなく黙って試験開始の合図を待っていると、その男はチッ!と大きな舌打ちをしながら剣を構える。


隙のない構え・・

この男、小鳥の様にうるさいが強そうだ。


そう思った直後に試験が開始されたため、一定の距離を保ちながらそいつの出方を伺ったが、とにかく意地が悪い戦い方をしてきてわざとミスを誘発してくる。

それに即座に気づきこちらも一歩引いた戦い方をしていたのだが、自身の思い通りの動きをしないからか、次第にイラッとした様子を見せ突然物凄いスピードでメルの懐へ。

そしてーーーー


そのまま思い切りお腹を蹴り飛ばされた。


ーーーーっ!?早いっ!


更には火力も十分な攻撃。

大ダメージを受けてリングの外までふっ飛ばされてしまい、メルはその場にうずくまる。


その後レイドがそいつに掛かっていくのを目の端に捕らえ、メルも応戦を・・と痛む身体を無理やり起こそうとした、その時・・・

急にホワッと身体が暖かくなり、突然身体から痛みが引いていく。


驚いて顔を上げると、そこには金色の髪のとても綺麗でいい匂いがする女の子と、メルを吹き飛ばした男を警戒しながら睨みつけている青い髪の女の子がいた。


「 あんな輩を送り込むとは・・思った以上に深刻ですね。 」


「 えぇ、こうやって ‘ 振り落とし ‘ をするわけですか。

早急にどうにかしなければなりませんね。

メルさん、痛みはまだありますか? 」


突然名前を呼ばれて驚きながら、フルフルと首を横に振ると、その綺麗な女の子はニコッと女神様の様に笑う。


「 そうですか。良かったです。

では、次の試験もお互い頑張りましょう。 」


「 ・・ありがとう。 」


どうやらこの子が回復魔法を掛けてくれた様だと気づき、御礼を告げると、その子はもう一度ニコッと笑って、もう一人の子と離れていった。


” もう辞めたほうがいい ” と言われなかった・・


ムズムズ・・・


それにまたしても謎の感覚が身体を襲う。



こそばゆい感じにモゾモゾと身体を小さく動かしていると、負けてしまったらしいレイドが、メルの所まで来てくれた。


「 くそ~!俺も負けた!!

次は大剣で勝負してやる!! 」


キィィ~!!と悔しげに目を釣り上げるレイド。

メルもムムムッ!!と悔しさに打ちひしがれているとーーー

「 大丈夫だったかい? 」

そんな声が横から聞こえた。



ネズミの男・・


話題の男に話しかけられたメルは、コクコクと頷く。

すると、リーフはキラッ!と目を輝かせて、今まで向けられた事のない眼差しをメルに向けてきた。


「 君は強いね。俺、リーフ。これからよろしく。

俺もめちゃくちゃ強いから、君には負けないよ~。

これから学院生活楽しみだね。 」


” 強い ”

” 負けないよ ”

その言葉はメルの心にプスリと刺さり、ムズムズムズ~と身体中にあの変な感覚が広がっていく。


” 強い ” は獣人にとって最高の褒め言葉。

勿論弱いメルは今まで言われた事がない。


” 大丈夫? ”

” メルちゃんは辞めておいた方がいいよ ”

” 危ないからメルちゃんは下がっててね ”


今まで言われてきた言葉の数々を思い浮かべると、突然ネズミの男もレイドも消えて会場もなくなり一面灰色の世界になってしまった。





ーーーーあれ・・?


ここは何処だろう・・




たった一人、ポツンと立っているメル。


不思議に思い周りを見渡すと、凄く遠い所に獣人の仲間達が沢山いる事に気づいた。


皆の場所は明るくて楽しそうで・・でも、メルの周りには何もない。

一人ぼっち・・


そっちに行きたくて足を動かそうとしたが、それを止める様に皆は一斉にメルを指差した。



” メルちゃんは弱いからダメ。 ”



そう言われた瞬間にメルと皆の前には広くて深い大きな溝が出来上がり、その正体を瞬時に理解する。



これは・・・・メルと周りの世界を区切る境界線だ。





「 強いって言われて嬉しいなんて獣人族ってやっぱり変わってるぅ~。 」



突然ぶつけられた不快な言葉にハッ!と意識が現実へ戻り、声がした方へ視線を向けると、そこには非常に可愛らしい容姿をした女の子がいた。


ニヤニヤした人をからかうような顔。

全身からプンプン臭う、気が合わなさそうなオーラ。



エルフ族・・

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