上 下
928 / 1,370
第二十七章

913 一人

しおりを挟む
( メル )

毎日街の広場にはまだ幼い獣人の子供達が集まり、森で遊んだり狩りの真似事をしてみたり、恐らく人族なら少々ハードな遊びをするのだが、メルは毎日それについていく事ができない。


パワー、スピード、持久力・・・

どれをとっても体格からして劣るメルを周りの同年代の子供たちはイジメる事はなかったが、その代わり誰も彼もが気まずそうな顔で視線を逸らす。


” メルちゃんは危ないからここに残った方がいいよ。 ”

” 後で獲物は分けてやるからさ。 ”

” 無理して怪我したら危ないし・・ ”


その優しい気遣いの言葉達は本来は喜ぶべき言葉なのかもしれないが・・メルはただ悲しかった。


ついていけない自分が。

力のない非力な自分が・・。


その全てが悲しくて悲しくて、ペンギンである自分が嫌になってしまった。


そうして日々塞ぎ込むメルを見て、ある日庭に座ってボンヤリしているメルに母が近づき声を掛けてくる。


「 メルちゃん、友達と一緒に遊ばないの? 」


母の質問にメルはしょんぼりしながらフルフルと首を横に振った。


「 ・・メルがいると迷惑になる・・。

皆、思い切り遊べない・・ 」


母はメルの答えを聞いて、隣に静かに座った。


「 ペンギンは元々の能力がどうしても他の獣人に劣るからね。

あんまり戦闘にも向いていないんだよ。

獣人は魔法が苦手な分肉体的なアドバンテージでそれを補うからね。


メルちゃんは強くなりたいんだ? 」


メルは大きくコクリと頷くと、母は少し困った様に笑いながら「 そっか・・ 」と小さく呟く。

そして少しだけ間を置いて、再び母が喋りだした。


「 ” なりたい自分 ” と ” 持って生まれた才能 ” が違うのは辛いね。

母さんはね、メルちゃんと逆で昔から戦ったり喧嘩するのが凄く苦手で、メルちゃんに軽蔑されちゃうかもしれないけど、ペンギンに生まれて良かったって思っちゃったんだ。

言い方は悪いけど ” これを理由に、なりたい自分になって良いんだ ” って、凄く気持ちが楽になったの。

ペンギンの特化している能力は【 慈愛 】だから、結婚や子育てと凄く相性がいいからね。

毎日大好きな家族の喜ぶ顔を見られて母さんは本当に幸せなんだ。

ーーーでも、メルちゃんはそういう生き方は性に合わないのね? 」


メルはどう答えるべきか悩んだ。

それを肯定しては、母の生き方を否定してしまうのではないか?

そう思ったからだ。


どうしようとウロウロ視線を動かしていると、母が突然ギューーっと抱きしめてきた。


「 も~メルちゃんってば、お母さんに気を使ってるな~?

いいのよ。だってメルちゃんはお母さんと親子だけど、幸せの形が違うんだから。

母さんと同じ形じゃなくていいんだよ。

これからゆっくり探せばいいの。

もしかしてどうしようもない壁にぶつかって諦めたとしても、きっとそれは無駄にならないから、頑張ってみなよ。

よ~し!見てて! 」


母は急に立ち上がると、グッと片手を握る。

そして何かのスキルを発動すると、ポンッ!という音を立てて小さな丸みを帯びた弓矢が現れた。

母は現れた弓矢を握ると、そのまま近くに立っていた木に向かってそれをスコーン!と投げつける。


ーードシンっ!!


その衝撃で木がわずかに揺れて、上からチビりんごが数個程落ちて来てコロコロと地面を転がった。

それを母は笑顔で拾い、そのままメルに差し出す。


「 戦闘が苦手なお母さんが唯一頑張って覚えた攻撃スキル!

お嫁さんになるのが夢なら必要じゃないんじゃない?って言われたけど、頑張って習得して無駄にはならなかったでしょ?

だってそのお陰で大好きな娘に、こうしてチビりんごをプレゼントできたんだから。 」


メルはその差し出されたチビりんごを受け取って、その通りだ!と思った。

だから、メルは自分の理想を探す事に決めたのだが・・それは容易な事ではなかったとすぐに思い知る。


剣を振ってもイマイチ。

体術もイマイチ。

頭も回転が遅いし良くはないポンコツ。


そんなメルは、努力するたびに悲しくなって毎日凹んだり塞ぎ込んだりしていたが、弓だけはなんとなく身体に馴染む事に気づいた。


戦闘職を目指す特に獣人の中では弓は断トツに不人気の武器で、何故なら単純な火力や爆発力では魔法に負けるし、剣などの前衛職にだって遠距離型物理スキルを持つ者だって多いためだ。

更に弓を装備している時点で前衛職はできずに、使い所がかなり限局されてしまう点からも、あえて皆弓を選ばない。


だからメルが弓を選んで練習し始めると、誰もがそれに対し ” 辞めておけ ” とアドバイスをくれた。


” 無駄な事は辞めた方が良いよ ”

” 種族に合った能力を生かした方が良いと思うな ”



” 不相応に暮せば幸せになれるよ ”



口を揃えて言われる言葉はきっと世の中的には ” 正しい ” のかもしれない。

でもメルはどうしてもそれを選びたくなかったから、来る日も来る日も暇さえあれば弓を引く。

手からは血が出ても、手の筋肉が悲鳴を上げても、何度も何度も・・・


そんなメルの姿を見て、やがて周りは何も言わなくなっていきメルは一人になった。


しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

処理中です...