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第二十七章

905 唯一の居場所

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( レナ )


昔の事を思い出し、クスクス笑う私をクルトは不思議そうに見つめたが、やがて笑い止まない私に見切りをつけたらしく自身の持ち場へと帰っていく。


自分の人生に何一つ後悔などない。


最高の仲間と、最高の環境を与えられた私は今まで本当に幸せだったから。


勿論この事件を起こした張本人達に憤りはある。悔しさもある。

その結果命を落とす事だって納得しているわけではない。


しかしーーーー

私にとっての ” 死 ” はあの空虚な時間であった。


” 最後の瞬間まで戦って死ぬ ”


きっとこれが私にとってのハッピーエンドなんだと思う。



私は一度目を閉じ、フッ・・と唯一の家族である兄の事を思い浮かべた。


思い出と共に生きる事を決めた兄は、きっとあのキノコ小屋から避難はしない。

あーちゃんとの思い出に生きる兄にとって、あそこは世界で一番幸せな場所だから。


だから兄は恐らくあの場所で死ぬだろう。


優しかった兄、私を庇い続けてくれた兄、そんな様々な兄の思い出を振り返り暖かい気持ちになりながら、私は兄がそう決めたならそれを尊重しよう、そう考えた。


私は ” 未来 ” を、兄は ” 過去 ” を自身の死に場所に選んだ。


後は、お互い前に進むだけ。



「 さようなら、兄さん。 」


ポツリと呟いた後、私は目を開き正面門の遠い空に浮かぶ黒い呪いの蝶を睨みつけた。

それを目にするだけで、自然と体中から汗が吹き出し、身体はガクガクと震えてしまう。


「 ・・あんなモノ、人の手でどうにかできるわけないわよね~。 」


巨大な恐怖とワクワクする気持ちが入り混じり、背筋に新たな震えが走る。

フラン様も同時に黒い蝶がいる方向を睨みつけ、同じ様に身震いをした後、戦闘配置についた教員たちに向かって叫んだ。


「 皆の者!!あれこそが呪災の卵から生まれし絶望の神!!

恐らくはあやつがこの場にいる限り、モンスター共は普段よりも格段に強くなっているはずだ!

決して油断するでないぞ!! 」


「「「「 おおおおおーーーーー!!!! 」」」」


フラン様の声に答える様に叫び声が上がり、全員が気合を入れ直す。


恐怖を勇気に変え、己の正義へと突き進む。

それができる ” 戦闘狂 ” しかこの場にはいない。


クスクスとまた笑えば、突然< 拡張伝柱 >を通じてポツリと呟くクルトの声が聞こえてきた。


「 ソフィア様は、今頃王都に無事に避難完了したのだろうか?

きっと、その心中はお辛いだろうな・・ 」


しょぼくれた言い方をするクルトに、また笑いが込み上げたが、一応はそれを隠して答えてあげた。


「 恐らくは完了してると思うわ~。

後は順番に生徒たちを逃がすだけね。

戦いの状況を見ながら、生徒たちに向かってもらいましょう。 」


大丈夫だと安心させるために言ったのだが、クルトは真剣な雰囲気で私や他の教員達に向かってまたポツリと呟く。


「 レナ・・それにルーンや他の若い教員達も、無茶な戦い方はせずタイミングを見て生徒たちと教会へ向かってくれ。

この国の未来を頼んだぞ。 」


最後は、キリッ!とかっこよくそう言ったクルトに、私も他の人達もキョトンとして顔を見合わせた後、一斉にドッ!!と笑いだす。

クルトは何故皆が笑うのか分からず、えっ?えっ??と本気で理由が分からなそうな顔をしたが、ルーンが放った静電気のビリビリボールを当てられ、「 ぴぎゃっ!! 」と悲鳴を上げた。


「 おいおい、真剣な顔して何を言うかと思えば、な~に言ってるんだよ!

あたい達は仲間!苦楽を共にした同志だろうが!

仲間が命を懸けるなら、あたいだって命を懸けて戦うぜ!


ここは孤児で家族のいなかったあたいの唯一の居場所だからな。

だからここがあたいの死に場所。

野暮なことは言いっこなしだぜ! 」


拳を真っ黒い空にかざし、うおおおおーーーー!!と叫ぶルーン。

それに続く様に「 そうだそうだ~。 」「 全く~・・何言ってるんですか。 」と呆れた様な声が続き全員拳を空に掲げる。


私もそれに便乗し空に拳を掲げると、グシャッとした顔を隠すため下を向いてしまったクルト。

私はそんなクルトに気づかない振りをして、わざとため大きなため息をついた。


「 全く・・クルトって結構おバカさんよね~。

まぁ、確かにこの場合、 ” 生き残りさえすれば新たな居場所が見つかるから ” ーーーって世の大半の人たちは言うかもしれないし、それが正しいのかもね。

でも私にとってココは、唯一見つかった ” 生きられる ” 場所なの。

未来にしか目が向かない私にとって、ココは過去にしたくない場所って事。

だから私もココを死に場所に選ぶわ~。 」


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